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* 第八話 * ~和人の場合~ ①

「殿フェロ見た~?」


「見た、見た、よゐこ出たじゃん。どぜう、超ウケた」


「てーか、ヨシキでしょう。とぶくすりのが面白いのにねー」


ギャハハハ…と品のない笑いが廊下の片隅から聞こえてきた。


伊達和人は、そんな女子連中を一瞥して、大股で自分の教室へ向かった。


ここは、関東でもまだ少し山が残っているような地にある一部寮制の共学高等学校である。


和人は、今、高校二年生。


実家は23区内にあり、家から通えない距離でもないが、親の勧めで寮生活を送っていた。


寮では、基本的にテレビを見ることは出来ないので、ああいった品のない話題で大爆笑しているのは通学生の連中だ。


これまでの寮生活の中で、唯一テレビを観られたのは、W杯予選…、ドーハの悲劇の時だけである。


あの日は、久しぶりのテレビだったのに、相当落ち込んだものだ。


バスケ部の和人でさえ、どんよりした気持ちになった。


教室に入った和人は、机の中に今日の分の教科書を入れようとした。


「あれ」


ゴツっと何かが当たって、教科書が中に入らない。


腰を折り曲げて覗くと、机の奥にピンク色の包みが入っていた。


「?」


取り出してみると、可愛らしいリボンがかかり、名刺サイズのカードに【伊達くんへ】とハートマークがあしらわれていた。


慌てて周りを見回して、そのまま包みを机に押し込んだ。


不自然に腹部を机に押し当て、机の上に大袈裟に頬杖をついた。


 ―― あー、そっか俺、今日誕生日じゃん。


合点がいったが、この中身をどうしたもんかと頭を悩ませた。


和人は女子の扱いが苦手である。


高1の時に、この学校ですぐに彼女が出来たが、なんだかすれ違いで別れてしまってから、彼女には縁がない。


しかし、目ざとい女子は放っておかない。


和人は、バスケ部でレギュラーを張るだけあって、スラリと長身である。


顔は小さくて、脚は長い。


お洒落にもそれなりに気を遣っている。


最近のお気に入りの靴はドクターマーチンだ。


性格はクール。


少し怖がられることも多いが、保坂尚希に似ているなどとよく言われる。


自他共に認める“モテる人種”である。


悪い気はしないが、女子は勝手に騒ぐので困る。


今の和人には、そんな人気も「うるせえ」としか思えなかった。


 ―― さて…、この爆弾はどう処理すっかな。


和人が頭を巡らせていると、同じバスケ部員である有野が寄ってきた。


「おい、伊達。廊下で、女子どもが呼んでるぞ」


 ―― 来た…っ。


去年のバレンタインもこうだった。


今日も怒涛のプレゼントラッシュが予想された。


 ―― めんどくせー。


和人は仕方なく立ち上がって、教室を出た。

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* 第八話 * ~和人の場合~ ②

残り少ない休み時間。

和人は渋々廊下に出た。

キャーと軽い歓声。

二人の女子が和人の前に歩み寄った。

一人は女子バスケ部の子。

その子が後輩を連れてきたようだ。

「伊達くん、うちの寮の一年」

真っ赤になっている一年生の背中がグイと押された。

「あー、こんちは」

和人は頭を掻いた。

廊下に向かって、教室中の視線を感じる。

誰がどう見ても目立つシチュエーション。

 ― もう少し考えろよ。

恥ずかしさにちょっと苛立つ。

「あの、お誕生日おめでとうございますっ。これ、プレゼントです」

顔を真っ赤にしながら、やっとそれだけ言って、両手で和人に袋を押しつけると、一年生は風のように去っていった。

「あ、ちょ、…じゃあ、そういうことで」

連れてきた女子も、どういうことかわからないコメントを残して、一年生を追っていった。

「ひゅー、ひゅー、伊達ちゃん、やるねえ」

有野の冷やかしがますます周りの注目を引き付けた。

「うるせ」

和人は有野に一発蹴りを入れ、教室に戻った。

 ― 名乗りもしねえし、こっぱずかしいし。

今ので机の中のブツも持ち帰りやすくはなったが、次々に有野が持って来る話に気が重かった。

「放課後、部活行く前でいいからさ、ちょっと顔かしてよ」

「有野、お前、金でも貰ってんじゃねえの?」

「いいじゃん、誕生日とバレンタインはお前の独壇場なんだからさ~」

有野はヘラヘラと逃げた。






そもそも、女子の恋心ってのは一体何なんだ?

ろくに話したことも、存在すら知らなかったのに、「ずっと好きでしたぁ」だの言われる。

今年のバレンタインの時もそうだった。

過去に一言交わしたかどうか程度の他のクラスの女子が、前日に寮にまで電話を掛けてきた。

寮の電話は掛かってくる時間が決まっていて、電話当番の一年生が出る。

「伊達先輩、女性の方からお電話です」

こうして受ける電話は恥ずかしさと優越感でくすぐったい。

しかも、寮内ですぐさま噂になる。

「朝練の前に渡したいので、7時に体育館の前に来てくれる?」

確か、通学生の子だ。

じゃないと、そんな時間に融通が利かない。

寮に戻って開けたら、見た目もひどい手作りチョコケーキ。

 ― げ。気持ち悪くて食えるかよ。

申し訳ないが、少しも口にせずに捨てたのを覚えている。

ある意味、強烈過ぎて、その子だけは名前を覚えてしまったくらいだ。





唐突に有野の声が脳天に響いた。

「あ、そうそう、鵜飼さんが」

和人がガバッと顔を上げた。

「うっそーん、なんでもないって」

有野がおちょくる。

和人は慌てて、誤魔化すように机を探った。

耳まで赤い気がした。

 ― 鵜飼麻弥子。

和人が唯一付き合った元カノだ。

お互い好きだったはずなのに、何故か別れてしまった。

和人の左足首には、ミサンガが三本ある。

一本は、麻弥子の作ったミサンガ。

別れても切れるまで外さないのは、迷信以上に、麻弥子へのささやかな意思表示だった。

麻弥子にだけ判ればいい、…そんな和人の本当の気持ち。



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* 第八話 * ~和人の場合~ ③

去年…、チューリップが次々に咲いていた頃。




つまり、寮に入りたての頃。

寮内には数々の悪しき風習や悪戯がある。

上級生を笑わせるためだけに宴会芸を何日も考えて披露したり、戸板に半裸で縛り付けて立てかけられたり、女子寮に向かって山彦よろしく愛を告白させられたり、鞄を開けたら中身が全部すり替えられていたり…。

和人もまた、入寮当時に洗礼を受けた一人だ。

和人への上級生からの司令は、誰でもいいから同じクラスの女子にコクれ!

女子が苦手な和人は頭を抱えた。

上に逆らったら、これからの寮生活が辛くなる。

だったら…。

和人は馬鹿正直に、同じクラスの中で一番目立っていた女子に狙いを定めた。

それが、鵜飼麻弥子だった。

彼女は寮生ではなく、通学生。

そこは敢えてそうした。

寮生同士だとまた面倒な司令を出されかねないからだ。

麻弥子は、一年生だったにも関わらず、堂々と校則違反をおかすような子だった。

入学式の時は確かにストレートだったサラサラの長い髪は、早速くるくるとウェーブがかかっていた。

ピアスの穴もいくつか開いていた。

流行り始めたスーパールーズソックスもいち早く履いていた。

指定の学生鞄はアニエスbやクーカイのバッグに替わっていた。

寮の女子たちには出来ないお洒落をどんどん取り入れているから、とても目立つし、垢抜けてもいた。

性格も明るかったし、和人でさえも話しやすい子。

そんな麻弥子に和人は司令通りにアプローチした。

「俺で良かったら付き合ってほしいんだけど」

いわゆるクラスの一軍に属する子だったから、きっと他校あたりに彼氏もいて、すぐ断られるだろう、そんな見込みだった。

ところが、麻弥子は頷いたのだ。

「アタシなんかでよかったら」

そう言って頬を赤らめ、俯いた。

和人は混乱したが、寮は大盛り上がりだった。

とてもじゃないが、上級生からの司令だなんて言えなかった。

この日から、二人は付き合いだした。

と言っても、寮生と通学生。

せいぜい授業中に書いた小さな手紙を渡したり、放課後に少し話したり、夜に電話するくらいのもの。

案外、麻弥子が積極的で一生懸命和人に尽くしてくれた。

だけど、和人は照れもあり、わざわざ外出届を提出してまでデートの時間を作ろうなどとはしなかった。

ただ、だんだん麻弥子の中身を知るごとに、和人なりの興味も湧いてきていた。

はじめは麻弥子からばかりだった電話も和人から掛けるようになった。

何度掛けても話し中でヤキモキした日もある。

あとから、お互いが同じ時間にかけ合ってしまっていたなんて理由が判明してホッとしたり、少しずつ麻弥子に心を開き、恋愛感情を持ちつつあった。

そんな初々しさのまま、夏休みに入った。


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* 第八話 * ~和人の場合~ ④

和人と麻弥子は、ようやくデートらしいデートをした。


夏休みに入るその日。


一学期終業式の翌日が、和人の帰省日だった。


寮から家への帰宅がてら。


初めて、お互いが私服で、二人きりで駅のホームに立つ新鮮さ。


すぐ隣りにいるミニワンピースの麻弥子はとても可愛らしかった。


もう周りに知っている人間も見当たらなくなった頃、電車を降りるどさくさに手を繋ごうかなと、和人は思った。


「あのね」


いろいろ妄想していたところに麻弥子に突然話しかけられて、和人は少し戸惑う。


「…ん?何?」


「前に、Jリーグの試合観にいこうって話してたでしょ」


麻弥子は大きな鞄を覗き込んで、何やら探っている。


「伊達くん、バスケ部だけど、サッカーも好きなのかなって思って、これ…、作ったんだ」


麻弥子は取り出したハンカチを広げた。


そこには、ミサンガがあった。


「これ、俺に?」


「うん、流行ってるし、作ってみた」


照れくさそうにニコッと笑った麻弥子がとても愛おしかった。


「おそろだよ」


そう言って、麻弥子は自分の左手を見せた。


ピンクのスウォッチとヘアゴムと共に、色違いのミサンガがあった。


 ― か、可愛い…。


「ありがとう」


和人は、ミサンガを受け取った。


ハンカチに包まれていたせいだろうか、とても良い香りがする気がした。


股間が少し熱くなった頃、和人の地元の駅に着いた。


和人は下半身に気付かれないようにカモフラージュしながら、麻弥子の右手を引いて、電車を降りた。


「これってさ、自然に切れたら願い事が叶うとかだっけ?」


初めて手を繋いだ恥ずかしさに麻弥子は上手く声を出せないようだった。


和人もドキドキを誤魔化したくて、いつもより饒舌になる。


「家に帰ったら、早速着けるよ」


手だけが独立してるように、脈がドックンドックン言っているのが伝わる。


緊張で少し汗ばんだ手の平。


いつもより暑いのは、7月の気候のせいだけではなさそうだ。


繋いだはいいが、今度はいつ、どうやってこの手を離したらいいのか分からなくなっていた。


何もかもが初めて過ぎて、どの行動もなんだか不自然になる。


「飯…、食おうか」


大して、腹も減ってない。


料理を頼んだところで食べきれるかどうかも微妙なこの緊張感。


でも、どうにもならなくて、二人は駅前にあるファーストフード店に入った。


結局、麻弥子はポテトとドリンクしか頼まなかった。


一方、和人は無駄にハンバーガーを3個も頼んでしまった。


会計の時にようやく、和人は手を離す。


思わず、大きな深呼吸をしてしまった。


「ふーっ…」


少し、麻弥子がピクリとした。


 ― あー、緊張する。ってか、俺、こんなに食えねえ。


テーブルについて、目の前に広がるハンバーガーの山。


 ― 鵜飼さんも、突っ込んでくれればいいのに…。


もはや笑えない状況になっていた。


紙包みを開く手さえもぎこちない。


何度もソースを落としたり、コーラでむせたり、口にケチャップが付き過ぎたりしながら、必死で食べ終えた。


話もあまり盛り上がらなかった気がして、和人は焦っていた。


 ― すっげえ、カッコ悪りぃ。


「ねえ、伊達くん…、私ね、ずっと聞きたいことがあったの」


麻弥子が和人の目をまっすぐに見つめた。


あまりにまっすぐ過ぎて、和人の目は少し泳いで、すぐ視線を避けてしまった。


また大きく息をついてしまう。


 ― やべえ、可愛すぎる。目、見らんねぇ。


動揺する和人に、麻弥子は冷静な一言を放ってきた。


「上級生の命令で私に告白してきたって本当?」




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* 第八話 * ~和人の場合~ ⑤終

「…て」


「だて」


「だーてー!」


和人はハッと顔を上げた。


授業中にも関わらず、机に突っ伏して寝てしまっていたようだ。


ガバリと身体を起こした先には、怖い顔をした女性教師がじっと和人を見下ろしていた。


「お前、寝言で必死で謝ってたぞ」


女性教師はそう言ってニタリと笑った。


和人の背中を汗が伝った気がした。


 ― なんだ、俺、今、なんの夢見てた…?


必死で記憶を手繰り寄せる。


「よっぽど罪作りな事したんだろう」


女性教師の言葉に教室中がドッと笑った。


「あ…」


鵜飼麻弥子の夢だ。


思い出して、和人は愕然とした。


 ― あの日の夢、見てたんだ。


あまり思い出したくない夢だった。




「上級生に命令されて告白したって本当?」




あの問いに対して、和人は答えられなかった。


女性教師は寝言で謝っていたと言ったが、実際は謝れなかった。


誤魔化すことも、その通りだと認めることも出来ずに、あの日、和人は動揺を隠す為に、怒りを露わにした。


ガタンと椅子を倒すほどの勢いで立ち上がり、麻弥子をひとり残し、先に店を出たのだった。


最低な対応をしたと思っている。


あれほどの後悔をしたことはなかった。


その後、連絡を取ることも出来ずに、麻弥子からの電話もないままに、夏休みは過ぎていったのだ。


そのまま、二人は終わってしまった。


どうして、素直に謝ることが出来なかったのだろう。


どうして、最初は上級生の命令だったが、今は麻弥子のことがちゃんと好きだと伝えられなかったのだろう。


どうして、どうして…。


何度、自分を問い詰めても、あの時の意地っぱりな自分を正当化することが出来ないでいる。


麻弥子は自分以上に傷ついたはずだ。


一年以上経過した現在も胸が痛む。


二学期が始まる日、和人は願を掛けながら、あのミサンガを足首に結んだ。


新学期、一ヶ月強ぶりに見かけた麻弥子の左手首を何度も盗み見たが、もうお揃いのミサンガはなく、落胆したことを覚えている。


麻弥子は明らかに和人を無視していたし、同様に、和人からも麻弥子に話しかけることは二度となかった。





授業終了の鐘のあと、次の授業の教室に移動するため、苦々しい表情で和人は立ち上がった。


 ― こんなこと思い出すなんて…、ただでさえ面倒な誕生日だっつーのに。


苛々と廊下を歩きながら、脇の流しにペッと唾を吐く。


ズッタズッタと引きずった足音をさせながら大股で歩いていく。


「あの…」


「あ?」


背中を軽くとんとんと呼び止められて、怖い顔で和人は振り向く。


和人は目を見開いた。


眼前に、切れたミサンガがぶら下がっていた。


「これ、今、落としてったよ」


人差し指と親指で、和人の鼻の前にブラリと高く掲げられたそれは紛れもなく、麻弥子が作ったあのミサンガだった。


「鵜…」





果たして、和人の願は叶うだろうか。



 -終-


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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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