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* 第十話 * ~武彦の場合~ ①

俺、久保武彦の結婚が決まった。


そうなってもいいと思ってしたことだったが、妻になる女にガキが出来た。


俺は今、携帯電話を片手に、今までの女に片っ端からダイアルしている。


清算ってやつだ。


 ―― オ、大隈妙子。


思わず、通話ボタンを押そうとしていた指先が止まってしまった。


なかなか面倒な女だったよな。


最後に会ったのは…、確か、去年の秋ごろだったな。


知り合った日を含めて、直接会ったのは3度。


たった3度で、俺はこの女を切り捨てたんだ。


まだ、半年ほどしか経ってないのか。


俺は、一瞬の躊躇いがあったが、思い直して、妙子に電話をかけた。


 treee…、treee…。


呼び出し音、5度目にして、相手が出た。


「…も、しもし?」


ああ、この声だ。


「妙ちゃん?」


「うん…、久保…さん?」


ふうん、俺の番号はまだ妙子の携帯電話に登録したままらしい。


いつまでも未練たらしい女だ。


「元気?」


受話器越し、妙子が驚愕し、動揺しているのが手に取るように分かる。


「うん…、どうしたの、一体」


「いや、元気かなって、それだけだけど」


沈黙。


「妙ちゃん、彼氏出来たの?」


「ええ、あれから、徳田くんの同僚を紹介してもらって…」


徳田というのは、俺の大学時代の部活の後輩だ。


「徳田?また、なんで…」


妙子が言うには、俺と知り合った六本木のパーティーで一緒だった俺の大学の先輩主催の合コンで徳田と出会い、また更に徳田主催の合コンで徳田の同僚を紹介してもらって意気投合したらしい。


「へえ、じゃ、今、幸せなわけだ」


「…そう、だね。一応」


妙子は電話口で弱弱しく笑っている。


こいつ、本当はまだ俺のこと引きずってるな。


口調から、そんな様子が伺えたが、ここは退こう。


まだまだ、優しい言葉を掛ければ、俺に対して喜んで股を開くだろう。


それだけ分かれば十分だ。


俺は、敢えて、結婚のことは言わずに電話を切った。


「じゃあ、彼氏と仲良くね。じゃあな」


悪い男だな、俺って。


でも、先輩といい、後輩といい、大学の連中と繋がってるのか。


相変わらず、面倒な女だ。


俺は、ひとしきり、女たちに電話を掛けるのは止めた。


携帯電話をポイと低いテーブルに投げる。


セーターの袖を捲くり、ぐいっと両腕を上に伸ばした。


ソファにゆったりと身体を投げ出すと、煙草に火をつけた。


深く吸い込んで、紫煙を吐き出す。


俺は、目を瞑り、妙子とのことを思い出した。


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* 第十話 * ~武彦の場合~ ②

俺は気が強い女が好きだ。


妙子と初めて会った日、俺はノリで軽く頭を叩いたり、かなりキツい口調で突っ込んだりした。


可愛い子は苛めたくなるサガ、わかる?


それにムカつく妙子の様子を見るのが面白かった。


普通は場の空気を読むだろうに、あの子は本気で怒ったらしく、席を立ったんだ。


俺は、その態度にグッときたんだ。


だから、必ずこいつを落とすと決めた。


帰り際、かなり強引にデートに誘った。


誘った段階で断固拒否されれば諦めるつもりだったが、妙子は仕方なさそうにもとりあえずは応じた。


脈はあると思ったね。


実際にデートしてみて、妙子の変化はよく分かったよ。


最初は前の日同様、つっけんどんな感じでさ、表情も強張ってた。


でも俺も頑張ったの。


紳士を演じたし、テレビディレクターという職業を活かして、かなり業界の裏話もした。


女なんてミーハーだから、意外と食い付くんだよね、タレントの誰それがどうしたとか。


あとは金でキレイなところを魅せる。


支払いは当然だけど、そういや番組の打ち上げで掛かった費用ン百万、ポケットマネーで俺一人が払った話したら、相当尊敬の眼差しだったな。


で、まあ、その夜のうちに妙子をいただきます出来た訳。


正直、もっとてこずりたかったね。


想像してたより、遥かに簡単だったから。


妙子も分かってたみたいで、別れ際、後悔した顔してた。


俺としちゃ、そのまま終わりにしたって痛くも痒くもない訳で。


けど、ここはキープの線も留めておかないと。


だから、俺はお前の彼氏だ!ばりに、信じて待ってろ的な事を言ってみたのよ。


バイバイしてから、留守電に。


ところが。


一切、コールバックなし。


妙子は、俺が考えてた以上にプライドが高くて、理解あるイイ女なんだと思ったね。


あの子は、俺がワンナイトラブのつもりだったと悟ったんだと。


でもさ、反応ないと、逆に俺の方が気になっちゃってさ。


実際、俺ってマジで超多忙なんだけど、やっと時間が空くっていう前日、妙子に電話したんだ。


なんだかんだ、あの日から一ヵ月近く経過していた。


電話に出た妙子は、こっちが驚くくらい、キャーって悲鳴を上げた。


「えーっ、ホントに久保さん?嘘でしょう?私、もう…」


ギャーギャー騒いだ挙げ句、あの子、電話口で涙声。


思わずニヤけた。


「連絡なんかくれないと思ってた…」


いじらしかったよ。


電話して良かったなって、素直に嬉しかった。


「だから言っただろ、待ってて欲しいって」


「うん…、うん…、待ってたよ…」


「ちょっとだけ時間空いたんだ。明日の夜会おう。たった一晩しか一緒にいられないけど」


こんな急な誘いでも、この子は来ると確信があった。


「品川駅に九時で」


そう約束して、電話を切った。


でも。


多分、この一ヶ月の焦らしがいけなかったんだと思う。


大いに期待させちゃったんだな。


再会した妙子には、俺が望むような気の強い女の片鱗…、これっぽっちもなくなってた。



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* 第十話 * ~武彦の場合~ ③

あいにくの雨。

しかもどしゃ降り。

まあ、台風だったんだが。

でも、予定通りに、俺たちは品川駅に九時に待ち合わせていた。

30分ほど遅れて高輪口に現れた俺を見た妙子は、一瞬「あれ?」という表情を見せた。

あの顔、何だったんだろう?

今になって思い出すと気になるが、あの時の俺は、仕事が計画通りに終わらなかった事とこの豪雨に少しイラついていたから、あまり気にも留めずにいた。

挨拶もそこそこに、早足で横断歩道を渡った。

妙子はピシャピシャと足音を立てながら、小走りで遅れまいと俺についてくる。

あまりの強風で傘も大して役に立たない。

大粒の雨を全身に浴びながら、俺たちは新高輪プリンスホテルに向かった。





びしょ濡れで、とあるバーに入ると、店員が気を利かせておしぼりを渡してくれた。

外からの客は俺たちだけ。

かなり離れた席に宿泊客らしき数名がいたが、天気のせいか、ほぼ貸し切りのような店内だった。

晴れていれば夜景が売りであろう大きな窓辺に沿ったソファーに案内される。

窓全面にビシバシと叩きつけてくる雨音が印象的だった。

稲光が走り、雷鳴に窓が震える。

「すごい景観…」

妙子は、放心していた。

やっと腰を落ち着けられて、一杯飲むと、悪天候も強行スケジュールも仕方のないことなんだと割り切れて、俺のイラつきも治まった。

酒もいい感じでまわり、冗舌になる。

妙子は、いちいち俺の話に感心してくれた。

俺に心底傾倒しているのがよく分かる。

あの子の目は、恋する瞳だったと自負する。

調子に乗って、こんな話もしたな。

大学の時、俺は野球部で、ベストナインに選ばれた程、活躍した。

大きな試合でホームランを打った時、スタンドにいた当時の彼女にだけ向けてガッツポーズをして、ダイヤモンドを一周したとか。

合コンで知り合った美人だけどすげえ高飛車な女がムカついて、そいつの顔に水ぶっかけて、財布叩きつけて、店を出ていった話とか。

ちなみに後日、その女に「叱ってくれた人は初めて」だとか言われて、コクられたけど、振ってやった話とか。

ね、俺、格好良いだろ?

そんなの満載で話してたら、なんかもう目がハートなわけよ。

そんな素敵な貴方が私なんかと一緒にいていいの?ってな感じだったんじゃないかな。

私って選ばれた女~みたいな?

俺としては、あんまり従順過ぎちゃうとつまらないんだけど。

もっと突っ張れよって思う。

ひと通り、俺が話したいこと喋って気持ち良くなった頃、バーを後にした。






エレベーターが昇ってくる間に、やっと俺は会って最初のキスをした。

妙子は、待ってましたとばかりに、腰砕けになってた。

このまま新高輪の部屋に泊まると思ってたみたいだけど、近くの別のホテルに移動した。

そっち、うちの会社と提携してるから、いわば節約。

もう落ちてる女に無駄な投資をする必要はない。

ま、流石に今度はタクシーで移動したけど。



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* 第十話 * ~武彦の場合~ ④

あの夜の俺のことを一言で表わすとしたら、それはやっぱり“虫の居所が悪かった”、だろうな。


シングルの部屋に入った俺たちは、たったひとつしかない狭いベッドの上で一戦交えた。


妙子は、俺のことが怖かったんじゃないかな。


それは怒られるから怖いとか、そんな単純なことじゃなくて。


いや、断っておくが、別に俺は怒ってはいなかったし。


そうじゃなくて、完全に恋愛の悪い面が顕れちゃってたっていうのかな。


俺にそっぽを向かれるのが怖かったんだろう。


繋ぎ止める為に必死だった。


自分からフェラをする女?つまり、俺のご機嫌を伺う女。


俺、そういうのダメ。


本当に愛する彼女にそんなことさせたくねえよ。


だから、よせよって途中で止めた。


俺を気持ち良くなんかさせなくていいんだ。


妙子、お前が俺の腕の中で、俺の愛撫で感じていてくれれば、それだけで良かったんだ。


俺はそういう女を望んではいないんだ。


結局、伝わらなかったみたいだけど。


目が怯えていたもんな。


多分、よせって言ったの、ヘタクソだからやめてくれって意味で受け止めたんじゃないかな、あの子。


どうしてそんなに自信なくなっちゃったんだ?


なんで、そんな風俗嬢みたいなことするんだ?


初めて出会って、恋をして、だけど遊びなんだろうと妙子が自分なりに結論づけていた俺とのことを、一ヵ月後に俺自身が蒸し返した。


付き合ってもいいかなって思ってたからこそ、連絡したのは嘘じゃない。


だけど、せっかくの再会のこの日に天気はこれだわ、相手は弱気に変わっちゃってるわ、なんつうか闘志湧かないよね。


やる気も殺がれるさ。


あの子、本当の恋愛をしたことなかったんじゃないかな、きっと…。


もっと割り切って、セフレとか?


そんな風に言ってあげれば良かったのかな。


でも、そういうつもりじゃなかったっていうか、そういう浅ましい表現はしたくないというか。


普通、セフレなんか望まないだろう。


俺のプライドの問題かもしれないけど。


とにかく、妙子とこの日一晩寝て、違うってことだけは自分の中でハッキリしたんだよ。


あの子に、俺は今後も惚れることはない。


俺はもっと生意気な女でいて欲しかったんだ。


媚びるな、そんな目で俺を見るな。


どこでそんな風に堕ちてしまったんだ。


朝までの残りの夜、俺はさっさと眠ってしまった。


真夜中に気付いたよ。


隣で妙子が膝を抱えて、泣いていたこと…。


でも、そんなの知ったこっちゃない。


ガーガーと鼾をかいて寝てやったよ。


下手したら、屁もこいたかもしれないな。


俺のことが好き過ぎて、俺の一挙手一投足が気になって、言いなりになるような女は好みじゃないから。


今思えば、冷た過ぎたかなって反省するけど、なんにせよ、ほら、虫の居所が悪かったんで。


これで、ジ・エンド。


朝、目が覚めて、顔色の悪い妙子が、屈んで帰り支度をしていた。


ベットに腰を降ろして、煙草をふかしていた俺は何を思ったかこう言った。


「また、今度、食事でも行こう…ね」


そう言いながら、言っている途中で可笑しくなって笑ってしまった。


そんなこと、これっぽっちも思っていないのに、何言ってんだよ、俺の口は。


妙子も泣きそうな顔で微笑んで、小さい溜息をついた。


まだ残っていた煙草を灰皿に押し付けると、俺は立ち上がった。


「さ、行くか」


俺はカードキーを片手に、妙子に言った。


「ここシングルだからさ、二人で泊まったってバレると困るから、俺ひとりでフロント行くから」


妙子は少し驚いた顔で俺を見た。


「このドア出たら、バイバイな」




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* 第十話 * ~武彦の場合~ ⑤

「ゲホ、ゲホッ」


「おはよーございまーす、ちょっとぉ、久保さん、大丈夫っすかぁ?」


あのあと品川から会社に直行した俺。


どうやら前の晩、雨に打たれたせいか、裸で一晩過ごしたせいか、咳が止まらない。


生放送の担当で、スタジオにいなきゃいけない。


なるべく隅っこで、タレントはもちろん、音声さんやマイクに近づかないようにした。


みるみる具合が悪くなる。


最初は立っていたが、ちょっと辛くなってきたのでディレクターチェアを引っ張り出した。


本番が始まって数分。


ピピピピピ。


胸ポケットの中の携帯電話がけたたましく鳴った。


「やべ」


ボーッとしていて、サイレントモードにし忘れていた。


慌てて、携帯を止める。


俺としたことが、なんて初歩的なミスだ。


チラっと携帯画面を見ると【大隈妙子】と出ていた。


「ちっ…」


思わず、舌打ちしてしまった。


無視して、本番に集中する。


背中からゾクゾクと寒気が襲ってきた。


反面、額からは脂汗が流れ行く。


ADが気付いて、声をかけて来た。


「久保さん、顔色悪いですよ。休まれた方が…」


俺は、ADを手で制して、スタジオの様子に集中した。


椅子に腰掛けたまま、前のめりに腿に肘をついた体勢で、じっと司会の男性アナウンサーと女性タレントのやりとりを眺めていた。


 ―― あと20分で終わる…。


さっきから、何度も俺の胸ポケットが緑色に光っていた。


集中。


集中だ。


集中しろ。


「はい、オッケーでーす」


スタジオ内に声が響く。


「おーっし、お疲れ」


スタジオに入ってきたプロデューサーが俺の背を叩いた。


「!?」


汗がぐっしょりと染みた背中にプロデューサーがビックリしたように手を引いた。


「おい、…おい、久保!」


プロデューサーの声が耳の奥で響いていた。


俺の視界は反転した。





 *





そのまま倒れた俺は、数日、自宅療養となった。


過労で身体が弱っていた上に性質の悪い風邪をひいた。


喉は真っ赤に肥大し、声が出なくなった俺は休むしかなかった。


住まいは横浜だったが、実家のある藤沢に帰った。


たまにゆっくりするのも悪くない。


こんなに連続で会社を休むのは入社以来初めてのことだった。


それほど、テレビの世界は忙しい。


スタジオ収録、ロケハン、取材、企画会議、反省会、打ち上げ、編集…。


熱も下がり、明日から出勤しようという日。


俺は久々に海岸を走った。


昔は、行き詰ると海に来て、筋トレをしたり、ひたすら砂の上を走ったものだ。


不規則な生活で、かなり身体には肉がついてきていた。


傍目に動きは悪くないが、自分で全身が重く感じる。


例えるなら、プロレスラーの橋本真也のような体型になっている。


「いかんな…」


病み上がりでもあったし、少し走っただけで、息が上がる。


俺は、思い切って、砂浜に寝転んだ。


仰向けになって、暮れかけている空を眺める。


「疫病神…」


心が弱気になっていたのか、そんなことをつぶやいて、妙子を思った。


倒れた日からもずっと一日一回は携帯が鳴る。


電話には出ていない。


たまに留守番電話にメッセージが入っていた。


 …今度、いつ会えますか?


俺は、ふと妙子に話した女のことを思い出した。


昔、高飛車な態度に腹が立って、水をぶっかけた、あの女だ。


 ―― あれくらい強気でいてほしいよな。


何を思ったか俺はその女に電話をかけ、数分後には会う約束を取り付けていた。



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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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