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* 第十二話 * ~茂樹の場合~ ①

後藤茂樹といいます。


僕は、中堅保険会社に入社して一年目でした。


実家は東京ながら、東北の或る都市に勤務していました。


本社での入社式の後に、配属先が東北だと聞いた時は愕然としたものです。


同期入社のほとんどは、関東近郊の支社なのに、僕は遠く離れた初めての土地。


あとから、それが出世コースだと聞き、溜飲を下げたものの、最初はこんな会社辞めてやる!と毎晩悪酔いしたものです。


あれは、暮れも押し迫った頃。


関東に残っている同期の森中佑介から、女性との飲み会に誘われました。


僕は、暮れから正月三が日まで冬休みで東京に帰ってきていたので、暇だったし、二つ返事でOKしました。


待ち合わせは、有楽町マリオン前。


銀座の飲み屋の個室を予約してあるようでした。


随分張り切っているなあと思ったら、佑介の目当ての女性とのセッティングで、彼にとっては勝負の飲み会だったらしいのです。


女性陣は、佑介が狙っている彼女とその友達の二人。


つまり2対2の飲み会に、僕が借り出されたワケです。


それも「ジャニーズ顔のイケメンを連れてくる」と約束したらしく、それが僕のことで、かなりのプレッシャーになりました。


僕が彼女たちのお眼鏡に適わなかったら、その場はかなり辛くなります。


正直、ルックスには自信がありましたが、今回ばかりは佑介を恨みました。


しかも佑介が既に一人に狙いを定めているということは、自ずともう一人を僕が相手をしないといけない訳ですよね。


女性として見れるか以前に気が合うかすら分からないのに、ずるいなあと思いました。


ここは、ホストに徹するしかないなと諦めて、僕は待ち合わせ場所に向かいました。


ちょうどマリオンのからくり時計が19時を告げていました。


その下に佑介と赤いコートとグレーのコートの女の子が二人、到着していました。


「お、来た、来た。後藤!」


佑介が手招きします。


「こんばんは。みんな早いね」


僕はにこやかに応じました。


何故なら、来ていた二人は、揃って結構可愛かったから。


「えっと、こちらが大隈妙子ちゃんで、こちらが内村郁美ちゃん」


佑介は、赤いコートを着ている妙子ちゃんに力を入れて、僕に紹介します。


はいはい、妙子ちゃんが佑介のお目当てですねと、僕は内心で了解しました。


「郁美です。よろしく~」


そして僕は、この子のお守りをすればいいわけですね。


よろしくと言って、表情を輝かせた内村郁美という女性は、ひと目で僕を気に入ったらしいことが見て取れました。


「後藤茂樹です」


郁美は、ふわふわとカールした髪を肩で揺らしながら、僕の隣に来ました。


まあ、僕もまんざらでもなく、ちょっとニヤけてしまったと思います。


四人揃って店に向かって歩き出しました。

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* 第十二話 * ~茂樹の場合~ ②

佑介は、妙子ちゃんにメロメロで、店に着いてからも、お酒の注文や料理の取り分け等、信じられないくらい甲斐甲斐しく動いていました。


男としてのプライドはないのかなあとチラっと感じましたが、本人が楽しければいいかと思い直しました。


尽くし型の男ってのもいるんですね。


それとも釣り上げるまでは投資を惜しまないタイプなのでしょうか。


釣ったあともこうなら女性にとっては素晴らしく都合の良い男性でしょう。


同僚の新たな一面を僕は興味深く観察していました。


反面、妙子ちゃんはあまり佑介には恋愛対象としての興味はなさそうな素振りをしていて、僕は心の中で面白がっていました。


そして、問題は郁美です。


彼女はなかなかに積極的なタイプらしく、僕も少々タジタジ…。


「ねえねえ、後藤君。携帯何使ってるか見せてー」


携帯電話を渡すと、何やらポチポチ打っているではないですか。


おいおい…と思っていると、郁美の携帯が鳴り出し、すぐに切れました。


「えへへー、後藤君の番号ゲットー」


きゃはははと楽しそうに笑って、郁美は僕に携帯を返してきました。


「リダイアルのとこの私の番号、ちゃんと登録しといてね」


「う、うん…」


参ったなーと言いつつ、多分僕はニヤニヤしていたと思います。


随分と簡単に電話番号が手に入ってしまったワケで…。


浮かれてポチポチとその場で電話帳登録している自分もちょっと格好悪かったかなと今は反省しています。


「うふふ」


郁美は正面からまじまじと僕の顔を眺めながら、カシスウーロンを飲んでいました。


「ふーむ、なるほどジャニーズ顔ねえ…」


郁美はテーブルに乗り出して、言いました。


「強いて言うなら、中村繁之に似てるよね」


「古っ!」


すかさず妙子ちゃんの突っ込みが入って、女の子二人は顔を見合わせて笑っていました。


「おばちゃんによく言われるよ…」


僕も頭を掻き掻き、中村繁之似を認めました。


この夜は、たくさんお酒を飲みました。


どうやら楽しかったみたいです、僕。


「このあとどうする?俺、車近くに停めてあるから、ドライブでも行こうか」


佑介が提案しました。


「えー?飲酒運転じゃない、大丈夫?」


一応、妙子ちゃんは心配していましたが、この当時はまだそんなに罰則も厳しくなかったし、結局4人で晴海まで行くことになりました。


途中、照明の美しい橋を渡りながら、運転席の佑介が語ります。


「俺、この景色好きなんだ。大事な人は必ず連れて通る道なんだよ」


助手席に座っている妙子ちゃんに言っているんだろうと察し、僕は口を挟みませんでした。


内心、くっせえ口説き入ってるなーとちょっと笑っていましたが。


後部座席の僕と郁美は、酒がまわっていたのもあり、お互い寄りかかって、今にも寝そうでした。


くるくるした髪の毛から漂うシャンプーの良い香りが僕の鼻孔をくすぐって、とても心地よかったのを覚えています。


晴海に近づき、赤鉛筆のような形をした建物が見えてきました。




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* 第十二話 * ~茂樹の場合~ ③

晴海に着き、路上に車を停めて、公園のような敷地に向かって歩いていきました。


海に近いせいか風が強くて、僕達は首をすくめました。


「さみ~」


「真冬に来るところじゃないね」


そう言いながらも佑介と妙子ちゃんはずんずん進んでいきます。


佑介が振り返って僕に


「あん中入れば少しは違うんじゃねえか」


と、大きな建物を指しました。


「おう」


僕は向かい風に盾になり、郁美をかばいながら歩いていました。


「大丈夫?」


「うん」


先を行った二人が左に曲がって、姿が見えなくなりました。


「おっと、急ごうぜ」


そう言うと、後ろから軽く僕のダウンが引っ張られました。


「ん?どした?」


振り返ると、ふいに僕の唇に柔らかいものが触れました。


「奪ったりぃ~」


郁美がいたずらっ子のような顔をして、笑いました。


そして、片手でトンと背中を叩くと、突然僕を追い越して走りだしました。


「ほら、早く早く!」


僕の方を見て手招きし、Aラインのグレーのコートの裾をひらめかせて、郁美は佑介たちの元へ走ります。


何やら分からずドギマギした僕は、ちょっとだけ郁美に見惚れ、慌てて我に返りました。


「こら、待てっ」


追い付いた先には、自販でホットコーヒーを買う佑介たちがいました。


「あ、私も」


郁美が僕の分までホットコーヒーを買って、渡してくれました。


単純かもしれないけど、いいコだなって思いました。


真っ暗な階段を昇って、見晴らしの良い場所で四人でコーヒーを飲みました。


寒かったけど、あったかかったです。


「あちち」


コートの中のニットの袖を少し伸ばした両手で熱い缶コーヒーを持って、フーフーする郁美が、たまらなく可愛いと感じました。


「火傷すんなよ」


僕は思わず郁美の頭をポンポンと撫でました。


「あれれ、なんか良い感じじゃない?」


妙子ちゃんが突っ込んできます。


僕は微笑で応えました。


この子となら付き合ってもいいかなと思っていましたが、僕は年明けには東北の支社に戻らなければいけません。


遠距離恋愛をする覚悟はありませんでした。


佑介が煙草に火を付け、手摺りに寄り掛かりながら、上を向いてゆっくり煙を吐きました。


「お、今日、星すげえ」


みんな揃って夜空を見上げました。


「あ、オリオン座発見」


郁美が言いました。


そう、この空は東北にもつながっていて、同じ星空を眺めることは可能かもしれません。


だけど…。


「後藤君、今度デートしてね」


郁美がニコッと笑い掛けます。


ドキッとして、一瞬目を逸らしてしまいました。


「横浜とか…好き?」


僕はちょっとその気になって聞いてみました。


「あ~、私、横浜鬼門なんだよね~」


郁美が心底残念そうに言いました。


「なんじゃそりゃ」


思わず笑ってしまった僕は、ズッコケながらも、この時に決心したのでした。



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* 第十二話 * ~茂樹の場合~ ④

あの日は佑介の車で各自の家まで送り届けてもらい、終了しました。


帰ってから、早速郁美から僕に電話があり、年明け早々に二人きりで会うことになりました。


行き先は、彼女が“鬼門”だと言っていた横浜にしたのですが、思わずなるほどと頷いてしまうほどの鬼門っぷりを見せてくれました。


僕の愛車は東北の社宅にあるので、郁美に車を出してもらってのドライブ。


意外なことにマニュアル車だったので、慣れない僕は彼女に運転を任せて、横浜まで向かいました。


中華街で食事をするつもりだったのですが、正月でしたから、どこも混み混み。


覗く店、覗く店、行列です。


散々歩いて、ようやく入れたのは場末の食堂と言った雰囲気の店。


初回のデートにしては、やっちゃったなっていう…。


ま、美味しかったから良しとしましたが。


その後、港の見える丘公園に行き、車を停めるのに坂を登ったのですが、まあ見事に停められるところは他の路駐の車で埋まっていて、仕方がないからちゃんと駐車場に停めようということになりました。


来た方向に戻ろうとした郁美は、そのまま折を見てUターンすればよかったのに、何故か左に曲がり、細い私道に入り込みました。


思いっきり一方通行の下り坂。


先はどうやら行き止まり。


バックで戻るも、乗っている車はマニュアル車なもんだから、焦ってしまってエンストしまくり。


そのまま前に滑って行ってしまう車。


助手席の僕は冷や汗モノ。


郁美も真っ赤になって、一生懸命落ち着こうと深呼吸している。


ものの何分かだったと思いますが、とてつもなく長い時間でした。


郁美はもっと長く感じていたことでしょう。


どうにかこうにか元に戻って、仕方がないから先に進んで、グルリと遠回り。


「ほらねー、だから横浜嫌いなのよー」


「それって横浜関係あるの?」


ニヤニヤと意地悪な突っ込みをしながら、でも僕はそんな失敗をした郁美を可愛いなと思っていました。


僕はもう明日には新幹線に乗らなければいけません。


付き合って欲しいと言うには、ハードルが高すぎました。


それに、すごく汚い考えですが、生保会社って、女性が多い職場なのです。


支社に戻ったら、正直なところ、女性には不便しません。


ここで、特定の彼女を作って、気持ち的に縛られるのも損かなとも思ったのです。


だから、ここで決断を下すのは早いと思い、僕は決定的なことは一切言いませんでした。


しばらく港の見える丘公園のベンチに座りながら、ようやく切り出したのは郁美の方でした。


「私さ、後藤君のこと好きになってもいいのかな」


座っている僕と郁美の間には拳一個分の隙間がありました。


「もう会えなくなっちゃうと思うと、結構切なかったりするんだよね、私」


そう言って、郁美は僕の方を見ました。


「うん…。でも、またすぐこっち来るよ。成人の日絡みの連休の時にでも…」


「また会ってくれるの?」


「もちろん」


そう答えて、僕は、郁美をキープしたのです。




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* 第十二話 * ~茂樹の場合~ ⑤

郁美の車を僕が運転させてもらって、都内の実家の近くまでやってきました。


教習所以来のギア車の運転はなかなか面白かったです。


うちから少し離れた場所に停めました。


僕はキスくらいしたくて、すぐに降りずに、わざと運転席に乗ったままでいました。


なかなかタイミングが掴めなくて、他愛のない話をしばらく続けてしまいました。


車内の時計は23時半になろうとしています。


このあと一人、また運転して帰るんだから、早くしてあげないといけないのに、いざという瞬間が訪れないのです。


「ごめんね、なんか離れたくなくて、ダラダラ話しちゃった…」


郁美がそう言って俯きました。


その気持ちは痛いほど伝わってきていました。


だから、余計に唇を捉えるタイミングがうまくいかなくて…。


でも、郁美がそう言ってくれたことで、僕もなんだか気がほぐれました。


「目、つぶって」


僕は上半身をグイと助手席の郁美の方まで起こすと、そっとキスをしました。


「ん…」


先日は郁美の方から僕の唇を奪ったというのに、今夜はいやにしおらしいのは、やはり暫く会えなくなるからだったのでしょうか。


僕は思い切って、右手をシートの隙間に伸ばして、座席を倒しました。


郁美が潤んだ瞳で僕をじっと見つめます。


「可愛いよ…」


唇を合わせ、結び目を解くようにほぐしながら、右手を郁美の胸に当てがいました。


郁美の左手が僕の右手首をしっかり掴み、動きを封じようとします。


「ダメだよ」


吐息混じりの抵抗。


「なぜ?」


僕は攻め続けます。


「これ以上進んで、今度会えなくなるのが怖い」


それを聞いて、思わず郁美をギュッと抱き締めました。


郁美も僕の首に手を回しました。


「そんなことないよ。必ず電話するし、また会おう」


「じゃ、その時はエッチしよ…」


郁美は耳元で囁き、正直、制御出来なくなるかと思いました。


これでも一応オトナなので、なんとか抑えましたが。


最後にもう一度だけ軽くキスをして、姿勢を戻しました。


「やぁだ。窓曇っちゃった」


郁美はそう言って笑い、しんみりしそうな空気を吹き飛ばしました。


僕達は車を降りて、郁美が運転席に乗り込むと、パワーウインドウを下げました。


「じゃあね、明日お見送り行けないけど、気を付けて帰ってね」


「お前こそ、帰りに事故んなよな」


「うん、おやすみね」


僕は簡単に大通りまでの道順を教えると、郁美が角を曲がるまで、テールランプを見送りました。



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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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