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* 第十六話 * ~麻弥子の場合~ ①

あんまり大きな声ではいえないんだけどね。


あなたは分かってくれそうだから、話すわ。


でも、誰かに話したりしないでね。


実はね。


実は、私。


あの人と付き合っているの。


そうよ、あの人。


ええ、妻子持ちなのは、分かってるわ。


だけど、お互いを必要としているの。


運命の相手だったのよ。








真剣な目をして、鵜飼麻弥子が示す。

金曜夜8時、麻弥子の部屋にある小さなブラウン管に映し出されたもの。


有名な歌番組。


そこでは、今をときめくヒット曲やこれから売り出す新曲が流れている。


今、一昨年あたりから爆発的に売れたバンドのメンバーが、国民的司会者と共に会話をしている。


一人暮らしの麻弥子の部屋に泊まりに来ていた鎌田里実は、半信半疑で画面を指差した。


「え、こ…れ?」


「そうよ」


歌のスタンバイが始まった。


話題の連ドラの主題歌のイントロを奏で出す。


メジャーもメジャー。


そんなバンドのメンバーと今目の前にいる麻弥子が付き合っている?


里実は、いつ麻弥子が「冗談よ」と言ってくれるかと期待したが、どうやら大真面目のようだった。


「彼のギターのフレーズはいつ聴いても痺れるわよね」


「そ…そうだね」


とりあえず、里実は彼女の話を受け入れた。


麻弥子は食い入るように、テレビの向こうの彼を見つめている。


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* 第十六話 * ~麻弥子の場合~ ?

麻弥子と里実は、小学校の頃からずっと同じ学校に通っていた同級生であり、幼馴染である。


大人になった今でも親交は続き、麻弥子のことは誰よりもずっと近くで見てきたと里実は思っている。


とても目立つし、可愛くて活発で、同性の里実から見ても、魅力のある子だった。


高校の時からしばらく少し手痛い恋愛をして、ちょっとだけ臆病になってしまったことを除けば、今でもとても可愛らしい女性だ。


里実に比べれば、確実に男性にもモテた。


それが、なんだ?


今、テレビに映っている、しかも売れているバンドのギタリストと不倫している?


里実は、耳を疑うしかなかった。


まだ、売れない芸人だったり、芽の出ないミュージシャンなら話も分かる。


だが、麻弥子の言う相手は、日本の若い子なら誰もが知っていると言っても過言ではない程の有名人だ。


彼は、金色に染めた長髪を揺らしながら、聴き慣れたギターの旋律を奏でている。


「ど、どこで、知り合ったの?」


「ホテルの一室よ」


麻弥子は涼しい顔で答えた。


「ある日突然、彼のマネージャーさんに呼ばれたの」


テレビの中では、演奏が終わり、CMが流れた。


「指定された部屋に通されたら、あの人が待ってたのよね」


「ええ?ちょっと待って、どういうこと?」


里実にはチンプンカンプンで、思わず声を荒げて、聞き返してしまった。


「ライブイベントで、私が最前列にいたの。そこで、あの人が私を見つけてくれた」


「そんなんで呼ばれちゃうの?」


「運命感じたのよね。彼も私も」


番組はエンディングを迎え、麻弥子はテレビを消した。


「あの時、ライブの最中、あの人に急に手を掴まれて、ステージ上に上がらされてね。他のメンバーも何人か選んで、ステージに上げたんだけど」


里実はポカンとして、話に聞き入った。


「手を掴まれた瞬間、二人の身体を電流が走ったのよ。そこで分かったの」


「何が?」


「私たち、出会うべくして出会ったって」




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* 第十六話 * ~麻弥子の場合~ ?

「それで、部屋でどうしたの?」


里実は聞いた。


麻弥子は少しもったいぶった素振りをした。


「何もなかったの」


モジモジしつつ、少し嬉しそうな表情で、里実に顔を向けた。


「全然喋らないの。キャラ的には饒舌な人なのに、私を前にして何も喋れなくなっちゃったの」


「どうして?」


「運命の人を目の前にして、言葉を失ったってとこかしらね」


なんだか、話を聞いているのが馬鹿らしくなって、里実は席を立ち、勝手にポットから急須にお湯を入れた。


「これ、飲むよ」


「うん、でね?そうだ、あの曲知ってるよね、♪フンフンフーン…」


麻弥子が鼻歌を歌いだした。


それは、まさに彼らの代表曲とも言うべき名曲で、シングルにこそなっていないが、ファンには名高い曲だった。


「これ、私に書いてくれた曲なんだ」


「ええ?」


里実は、正直言って、その言動には呆れた。


名曲をもってして、自分の為の曲だとのたまう。


痛いファンとしか思えなかったからだ。


ただ、全面的に否定出来ないのは、このバンドの歌詞は9割がボーカル作なのだが、確かにその曲は珍しくギタリストが作詞・作曲したものであった。


歌詞の内容も、まあ、わからないでもない。


里実の心の中は、そうなのかと納得したい気持ちとこじつけだと否定したい気持ちが入り混じり、複雑な思いでいっぱいになっていた。


カップに茶を注いで、麻弥子にも渡すと、また座りなおした。


「だから、この曲聴くと、どうしても泣いちゃうんだよね。あの人の気持ちが伝わりすぎて…」


麻弥子はそう言って、頬を赤らめた。



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* 第十六話 * ~麻弥子の場合~ ?

里実が麻弥子の告白を聞いてから、早一年が経とうとしていた。


例のバンドは、一時期の勢いは落ちたとは言え、まだ第一線で活躍中で、新曲を出せばオリコン10位内には入る状況であった。


ハッキリ言って、里実にとっては、有名ギタリストと親友の色恋なんて夢物語としか思えず、あまり付き合いたい類の話ではなかった。


そもそも、麻弥子が彼らのライブイベントに行ったことや、実はファンクラブ会員だったこと、すべて後から知ったことだったし、こんなに長い付き合いなのに、あの打ち明け話の日まで何も気付かなかったことが友達としてなんだか許せない気持ちにもなっていたからだ。


少し、心が病んでいるのかなとすら感じた程だった。


ただ、麻弥子の方は、ずっと隠していたことを里実に話したことで、すっかり箍が緩んだらしく、何かと言うとその話題を振ってくるようになっていた。


ある夜も携帯にメールが来た。


【ネエ、イマテレビミテル?】


そのメールを見て、里実が歌番組をつけると、彼らが歌っているところだった。


【キョウノサングラス、ワタシガアゲタプレゼント】


ギタリストが定番のサングラスとはちょっと形の違った新しいものをかけて、長い金髪を振り乱していた。


「ホントかよ…?」


里実は半信半疑で映像を眺めていた。


そして、先日聞いた麻弥子の話を思い出して、溜息をついた。






奥さんと別居し始めたらしいの。


今、3ヶ月に1度くらい会えるのがやっとなんだけど、もっと会えるようになるかもしれない。


私、あの人の為なら、仕事も何も捨てても構わないと思ってる。


どこまでも着いていく覚悟は出来てる。






そう言った麻弥子の目は輝いてはいたが、里実と話しているのに、焦点は遠く、里実を通り越している。


仕事も何も捨てても構わない、そうハッキリ言った麻弥子。


「…友達も、捨てられるんだね」


里実はそう思ったが、言えなかった。


なかなか会えないらしい現状。


不倫という立場。


危うい程、一直線な熱い想い…。


思いつめてしまっているのか、麻弥子は会うたびにやつれていく気がした。


真実なんだろうか。


妄想なんだろうか。


そこが既に分からない里実は、どう対処していいのか分からなかった。



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* 第十六話 * ~麻弥子の場合~ ?

ある日、里実の携帯電話に非通知で電話が入った。


最近は見知らぬ番号でのワン切りが増え、掛けなおすと妙なサイトに登録されたりすることが増えているので、着信には警戒している。


しかし、非通知は珍しいので、思わず出てしまった。


「はい、もしもし?」


「あの…、鎌田里実さんの…」


「そうですけど、どちらさまですか?」


そう言うと電話は切れた。


「何…?」


怪訝に思って、携帯電話を見つめた。


男性の声。


里実の名前を知っている。


しかし、明らかに知り合いではなさそうな口調だった。


不審に思いはしたが、数日経つとそんな電話があったことも忘れてしまった。






ピピピ…。


里実が仕事から家に帰り寛いでいると、床の上に放置されたバッグの中からこもった着信音がした。


慌ててバッグから取り出すが、液晶を見た瞬間、数日前のことが思い出された。


通知されているものは見覚えのない番号。


出るのを躊躇していたが、それはしつこく着信音が鳴り続けるので渋々通話ボタンを押した。


「もしもし、鎌田里実さん?」


先日とは違う荒々しい男の声だった。


「ハイ・・・」


「えー、こちら警視庁○○署の者で、畠といいますがー」


「警察…ですか?」


何も悪い事はしていないが、里実は姿勢を正した。


「あなた、鵜飼麻弥子さんて知ってるよねえ」


「えっ?はい…、友達ですが」


まさかの名前が出てきて、飛び上がる程驚いた。


「あー、よかった。三日前から、こちらの署でお預かりしてるんですがね。今日、やっと口をきいてくれまして…」


 ― どういうこと?


「まだ身元もはっきりしてなくて、あなたになら連絡してもいいと仰ってるもんでー。しばらく居てもらわなくちゃならないんですわ。いろんな手続きあるんで、あなたに依頼したいんですけどね」


「ちょっと待ってください。どうして、警察に麻弥…鵜飼さんが?」


「最初は職務質問で引っかかったんですわ」


里実には、まったく話が理解できなかった。


掌が汗ばんでいる。


「まー、簡単に言うと、覚せい剤所持の現行犯です」




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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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