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* 第十八話 * ~佑介の場合~ ①

森中佑介は、出来たばかりの六本木ヒルズに来ていた。


1階のカフェでランチがてら、優雅に読書をしている。


ふと腕時計に目を落とすとまもなく13時をさすところだった。


「さて…」


読んでいたミステリー小説をビジネスバッグにしまうと、残っていたコーヒーに軽く口をつけた。


佑介が席を立つと、


 ピピピ…


胸元で携帯電話が鳴る。


液晶には、高橋佳澄の名前があった。


「はい」


「あ、佑ちゃん?今、大丈夫?」


「ああ、これからお客んとこ。」


「お、保険加入してもらえたんだ」


佑介は、先方との約束の時間を気にして、少し早足になった。


「いーや、それを頼みに行くところ。…で、何だよ?」


「今夜空いてたら飲み行かないかなって」


佑介は少し考えると、答えた。


「あー、明日早いから、あんまり遅くならないんならいいけど」


「わかった。じゃ、仕事終わったら電話して。いつもの上野の店で待ってるから」


そう言って、電話は切れた。


横断歩道を前に立ち止まった。


佳澄は、大学時代からの友人である。


社会人になって、中堅保険会社に勤務してからも何かと連絡をしてくる数少ない女友達だ。


お互い読書好きで、色恋関係なく会えるという点において、佑介は佳澄との時間を割と気に入っている。


歩行者用の信号が青に変わった。


少しの距離でも歩くと汗ばむ季節。


佑介は、ポケットからタオルハンカチを出すと額の汗を抑え、目の前のオフィスビルに入った。


 ―― 今日こそ、契約が取れますように!


そう願いつつ、エレベーターの上ボタンを押した。



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* 第十八話 * ~佑介の場合~ ②

無事に新規契約を取れた佑介は軽い足取りで、上野にある支店に帰社した。


佑介の勤める中堅保険会社は、今年の四月から吸収合併された。


原因は度重なる保険料未払いの不祥事によるダメージから逃れられず、業績が著しく落ちた為だ。


生き残るには、他の保険会社の傘下に下るしか方法はなかった。


悪いイメージはなかなか払拭できない。


社名が変わっても「えー?あの保険屋さんでしょ?」と契約を渋る者が多かった。


同期たちも合併をキッカケに転職したり、退職したり…。


社に残って頑張ってきた佑介にとって、今回の契約は努力の賜物だった。


帰ってきてから、いろいろ作業をし終え、壁の時計を見遣ると既に19時を回っていた。


「おっと…」


もう佳澄は、店で待っているだろう。


急がねばならない。


今日は、気分が良いから奢ってやるのも悪くない。


佳澄がいう“いつもの店”とは、上野駅浅草口の近くにある焼き鳥屋だ。


安いし、美味いし、一人でも入りやすい。


洒落た店内ではあるのだが、あまりデートっぽい雰囲気にもならないので、佑介と佳澄が二人きりで会うのによく利用する。


向かいながら、佳澄に電話を掛けると、もう既に一杯引っ掛けた様子だった。







暖簾をくぐると、入り口からまっすぐのカウンター席に佳澄の後姿が見えた。


ベージュのタイトスカートからすらりと伸びた脚が場違いだった。


「お待たせっ」


佑介が後ろから軽く佳澄の頭を叩いた。


隣に腰掛け、生ビールを注文する。


「あうっ、遅かったじゃない」


お通しの味噌キャベツを齧りながら、佳澄がぼやいた。


「まあまあ、今夜は奢ってやるから、許してよ」


佑介はネクタイを緩めた。


珍しいものでも見たような表情で佳澄が佑介の顔を覗き込む。


「えっとね、ボンチとネックと皮…、塩で」



叱咤激励!



* 第十八話 * ~佑介の場合~ ③

「最近、本、何読んでんの?」


佳澄がジョッキのウーロンハイをあおりながら、聞いてきた。


「んとね、半落ち。今、カバン中あるよ」


「へー、横山秀夫だっけ。…私、世界の中心で、愛を叫ぶ読み終わった」


「軽っ」


「んなことないよー。泣けるよー?やばいから」


とりとめのない会話。


佑介と佳澄はいつもこんな感じだ。


「純愛ねえ」


佑介がしらけたように言うと、佳澄が突っ込んでくる。


「あんた、エレガとどうなったのよ?」


「えー?どうもこうも、とっくの昔にフラれたよ。何回か合コンセッティングさせられただけ」


「うわー、悲惨。かなり入れ込んでたのにねえ」


うるせえよ、と佑介もビールから焼酎に切り替えた。


酒が回ってきたらしい佳澄が、潤んだ目で隣の佑介を見つめた。


少し引く。


「何?」


「…なんでもない」


佳澄は、鶏せんべいを手に取った。


時々、こういうことがある。


何か言いたげに佑介を見るのだが、決して言葉にしない。


もしかしたら、自分のことを好きなんだろうか?と考えたこともあったが、普段の佳澄を思うと、それはないなと即座に否定出来た。


そもそも、万が一そんな感情をぶつけてこられても、困惑するしかない。


佑介にはその気がサラサラないのだから。


「今日さ、契約取れたんだ」


「へー。良かったじゃん」


佳澄は本当に嬉しそうに笑ってくれた。


「今回、ダメだったら、転職も考えてたんだ。東京から離れるのもいいかなって」


「え?」


佑介のこの告白に佳澄は相当ビックリしたようだった。


「逃げるわけじゃないけど…。結構追いつめられてたんだよね、実は」


「…」


佳澄は、じっと自分の手を見つめていた。


少しの沈黙のあとに「そっか…」と小さく呟いた。




叱咤激励!






* 第十八話 * ~佑介の場合~ ④

「そ、同期もどんどん辞めてくしさ。結構、孤独感じちゃって…。地方に親戚もいるし、別の場所で心機一転してみるのもいいかなーとかね」


「佑ちゃんがそんなん考えてたの全然知らなかったな…」


大型の契約が取れた反動で舞い上がっていたのだろうか、佑介は今まで誰にも言わずにいた心情を吐露していた。


なんで、こんなことを話し出したのかもよく分からない。


ただ、佑介も佳澄も、今日は酔っているなと感じた。


「あれ…?」


急に佳澄が指で頬をなぞった。


泣いていた。


ポロポロと大粒の涙が佳澄の大きな瞳から後から後から零れ落ちている。


「な、なんだよ、泣くなよ」


「ごめ…。あれ?なんで…だろ」


笑って誤魔化そうとするが、涙は止まらない。


佑介は、どうしていいか分からない。


しまいに佳澄はしゃくりあげてきた。


「もう…、ごめん…」


佳澄は両手で顔を覆って、泣き崩れた。


カウンターの中やホールにいる店員にも微妙な表情でチラチラ見られる。


「なんだよ…」


恥ずかしくて、少しイラついた。


少し落ち着いてきたのか、佳澄が佑介の方を見て、言った。


「ごめん。辛かったんだね…。全然気付けなくて、私…」


横にあったおしぼりを目頭に当てる。


「なんか、佑ちゃんが遠くに行っちゃってたかもしれないと思ったら、急に泣けてきちゃって…」


「…」


「今みたいに気軽に会えないなんて、すっごい寂しいじゃん?」


佑介の心臓がキュッと痛んだ。


泣き止んでも、さっきのように話は盛り上がらなかった。


少し口を開いては、沈黙が流れてしまう。


気まずかった…。


 ―― 佳澄が俺の為に泣くなんて。


友達として、それだけ思ってくれているのかと思うと嬉しい反面、涙を流すという女性らしい行動に佑介は戸惑いを隠せなかった。


「出ようか…」




叱咤激励!



* 第十八話 * ~佑介の場合~ ⑤

佑介と佳澄は、上野駅パンダ橋を歩いていた。


「いやー、さっきごめんねー。周りの人、別れ話でもしてるとか思ったかなあ?」


佳澄が妙に明るく話しかけてくる。


心地良い夜風が吹いていたが、そんなのを気にする心の余裕も佑介にはなかった。


女性が自分の隣で泣いたということにここまで動揺するとは。


「…佑ちゃん、私さ、ホントは」


佳澄が意を決して何かを言おうとした時、酔いに任せて、佑介は携帯電話を投げつけた。


多分、佳澄じゃなかったら、抱き締めていたかもしれない力の行方をどう逃がしていいのか分からなかったのだ。


佳澄がビックリして、佑介を見る。


「くっそ」


地面に落ちた携帯電話を蹴っ飛ばそうとして、当たらずにスカッと足が抜けた。


恥ずかしさで、苛々がピークに達する。


「~~~んんもうっ!」


「ちょっと、佑ちゃん?」


髪を掻き毟る佑介の背中に佳澄が手を触れた。


びくっとして、佳澄は手を離す。


佑介は携帯電話を拾うと、大きく深呼吸した。


「すまん。悪酔いした…」


聞き取れないくらいに小さな声でそう告げると、佑介は早足で駅構内に向かっていった。


「ちょっと、…ねえ!佑ちゃん!」


唖然とした様子で、佳澄は佑介を呼び止めたが、彼が歩を緩めることはなかった。





京浜東北線に乗った佑介は、ドアの隅に立ったまま、頭をガラスにつけた。


 ―― ずっと前から気付いてたよ…。


手に握り締めていた携帯電話を見た。


液晶画面にヒビが入っていた。


そこに映る佑介の顔が歪んでいる。


 ―― 佳澄は、俺のことが好きなんだろう。


そんなことには、大学の頃から気付いていた。


だけど、言わせちゃいけないと思って、わざとそれを否定し続けてきた。


自分もあいつも、そんな恋愛感情なんて、ありえないと。


佳澄のことを人間として大事に思うから、今のまま友情を保ちたかった。


男女の関係になったら、いつか佳澄を失う日が来るから。




叱咤激励!






プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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