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* 第二十一話 * ~佳澄の場合~ ①

高橋佳澄は幸せだった。


六月に挙式を控えている。


相手は、秋谷陽平。


彼とは、枯葉の舞い散る季節に出会い、今日までとんとん拍子に話が進んだ。


本屋の雇われ店長。


お金はない。


だが、佳澄にとっては、これ以上の相手はいない、運命だと思えた。


優しくて、お洒落で、読書家で…。

 

 


二人の出会いは、秋谷の勤める本屋だった。


本好きの佳澄は、会社帰りに日課のように決まった本屋に立ち寄る。


そこが、秋谷の店だった。


佳澄は、気付いていなかったが、秋谷は前々から気になっていたらしい。


秋谷は、あまりレジには立たず、管理側にいることが多い。


出会ったその日、珍しく、秋谷がレジにいた。


佳澄が前から気になっていた文庫本を二冊見つけて、レジに差し出す。


宮部みゆきの本だった。


「宮部みゆき、好きなんですか?」


突然の男性の声にビックリして顔をあげた佳澄は、彼の柔和な笑顔に戸惑った。


「ええ、まあ…」


「これ、ハードカバーの時に読みました。なかなかオススメですよ」


店員は、文庫本にカバーをかけながら、そう話しかけてきた。


チラリとエプロンに目を向けた佳澄は、小さなプラスチックの名札に【店長:あきや】と書かれているのを確認した。


佳澄は、曖昧な笑顔を返し、つり銭を受け取って、本屋を後にした。


家に帰って、輪ゴムで留められた二冊の文庫をバッグから取り出し、早速パラパラとめくる。


「え?」


しおりの挟まっていたページが開かれたとき、目を疑った。


そこには、しおりではなく、名刺が入っていたからだ。


 ―― ○○書店 店長 秋谷陽平。


「あ…」


 ―― さっきの人…?


呆然と名刺に見入る。


佳澄は、秋谷の優しそうな笑顔を思い出して、カッと赤くなった。 

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* 第二十一話 * ~佳澄の場合~ ②

日課のように行っている本屋だったが、名刺など貰ってしまって、佳澄は明日からどうすべきか迷った。


行って、秋谷と顔を合わせるのも、なんだか恥ずかしい。


しかし、行かないのも自意識過剰過ぎる気がした。


そもそも、彼はどういうつもりで佳澄に名刺を渡したのだろう。


それも、こっそりと。


いつも来てくださってますね、私が店長の秋谷です。


そういう意味ならば、堂々と渡してくれればいいのに。


変に勘繰ってしまう自分が照れくさかった。


「とりあえず、読み終わったら行こうかな…」


独り言を呟くきながら、部屋着に着替える。


ベッドにごろりと横になると、一日の疲れがどっと全身を覆った。


佳澄はサイドテーブルに手を伸ばすと、オススメですよと言われた文庫本を一冊とった。


それを胸に当て、目を瞑る。


秋谷の顔がハッキリと浮かぶ。


一瞬見ただけの彼の顔がこうもありありと思い描けるとは、佳澄はなんとなく心が弾んだ。


 ―― 案外、イケてたよね…。


フフッと笑って、文庫本を開く。


読み進めていくうちにいつのまにか眠りについていた。


 

 

 翌日、会社に着いた佳澄は、同僚の絵美と給湯室でお茶の仕度をしながら、早速昨日の出来事を話した。


「ねえ、どう思う?」


「うーん?単に挨拶代わりの名刺にしては変な渡し方よねえ」


「でしょう」


絵美がコーヒーの缶を開け、分量を量りながら、フィルターに入れる。


その手がふと止まった。


「ちょっと待って。その前に、佳澄、あの人どうなったのよ」


「誰?」


「佑ちゃんとか言ったっけ?しょっちゅうご飯行くって言う彼よ!」

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* 第二十一話 * ~佳澄の場合~ ③

絵美のいう佑ちゃんというのは、佳澄の大学時代からの男友達である。


森中佑介といい、気が合うので、当時からよく一緒に行動していた。


というよりも、佳澄が佑介の側にいたくて、気が合うようなフリをしていたというのが正しい。


佳澄が本を読むようになったのも、彼の影響だ。


佑介が好きで、佑介を知りたくて、いつも彼の後ろをついて回っていた。


社会人になった今でも、その想いは変わらず。


だけど、佑介に気持ちは届かず。


単に、気心知れた友達同士として、彼らは付き合っている。


佳澄の周囲では、佳澄が長年の間、佑介を好きだというのは周知の事実で、だから他の男の話が出てきたのは非常に珍しいことなのだった。


「佑ちゃんはね、いいの」


「なんでよ。ずっと好きなんでしょ?」


「ウン…。そうなんだけど、なんかね、もう、ちょっと…」


 ―― しんどくなってきたんだ。


本心を口にする前に、コポコポとコーヒーメーカーが音を立てる。


「あ、出来たね。私、部長に持ってくね」


佳澄はそう言って、この話題から逃げた。


トレーを持って、給湯室から出て行った佳澄の後姿を絵美は溜息交じりに見送った。


 

 

自分の席に戻った佳澄は、携帯電話を開き、メールボックスを見た。


佑介からのメールだけはフォルダ分けしてある。


大学を卒業して、もう5年。


それ以上も長きに渡って、ずっと片想いしているなんて。


その間、一度たりとも想いを伝えたことはない。


恋愛感情を知られた時に、佑介を失うかもしれない怖さに耐えられなかったからだ。


反対に佑介が佳澄に対して、それらしき言動をとったこともない。


二人の関係は、あくまでも友情で結ばれたもの。


佑介に彼女が出来たことも何回かある。


しょっちゅう、合コンにも繰り出している。


だから、佳澄は、自分は佑介の恋愛対象にはないんだという風に自覚していた。


それをも我慢してまで、佳澄は友達としてずっと佑介の隣にいることを選んだ。


アイシテルなんて、口にさえしなければ、佳澄の立場はこれからも安泰なのだから。

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* 第二十一話 * ~佳澄の場合~ ④

終業後。


佳澄は、思い立って、例の本屋に寄ることにした。


昨日の文庫本を読み終わってからと思っていたが、朝、佑介のことを考えるハメになって、思い直したのだ。


 ―― あの人がいるかも分からないけど…。


自分の心に言い訳しながら、ファッション誌でも買おうと言い聞かせた。


ちょっとドキドキした。


佑介のことを想う以外にこんなに心がときめいていたのは久しぶりの感情だった。


数軒先に本屋が見えたとき、少し躊躇した。


「平常心、平常心」


佳澄は胸に手を当てて一息つくと、一歩を踏み出した。


と同時に。


「あ」


思わず、声に出てしまい、慌てて足を止める。


偶然。


出入口の自動扉が開き、エプロン姿の秋谷が店先に出てきた。


一旦、佳澄と反対方向にあるラックに目をやり、ふと顔を戻した秋谷の視界に佳澄の姿はバッチリ映ったようだ。


「あ…」


同じように、声に出てしまった秋谷が手を口元に当て、照れくさそうにはにかんだ。


「こんにちは」


秋谷が佳澄に向かって、声を掛ける。


佳澄の顔がカアッと熱くなった。


おどおどと会釈し、腰が引けた状態で、ゆっくり本屋に近づく。


「ど…も。こんにちは…」


「よかった。もう来てくれないかなって思ってたんです。僕、ちょっと気持ち悪いことしちゃったでしょ?」


佳澄が顔の前でブンブンと手を横に振った。


あれ?という顔で秋谷が続ける。


「名刺…。僕の…、気付きました?」


コクコクコクと佳澄が頷く。


「え…っと」


秋谷が困ったように、自分の鼻を掻いた。


瞬間、何かを思い立ったように、バッと店の中に戻ると、エプロンを置いて、すぐさま店先に出てきた。


「ちょっと、いいですか!」


秋谷はそう言うと、佳澄の腕を掴んだ。

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* 第二十一話 * ~佳澄の場合~ ⑤

秋谷が佳澄の腕を引いて、ずんずん歩く。


「きゃ」


思わず、前につんのめる。


「すみません…。でも、ちょっとだけ。お願いします」


秋谷は佳澄の手を引いて大股に歩きながら、そう言った。


 ―― な、なんなの?この人、大丈夫なの?


数メートル先の路地を曲がった先に小さな公園がある。


二人はそこに足を踏み入れた。


落ち葉の絨毯を踏みしめると、秋谷のスニーカーと佳澄のブーツがガサリと音を立てる。


こじんまりとした噴水の前にベンチがあった。


秋谷が、完全に戸惑っている佳澄の両肩を持って、そこにそっと座らせる。


座らされた佳澄の前に直立不動になると、


「ごめんなさいっ!」


と、秋谷は勢い良く頭を下げた。


佳澄は引き気味に、深々とお辞儀をしている秋谷の後頭部を見つめる。


「な、…なんなんですか?」


ようやく口を開いた佳澄に安心したのか、秋谷は頭を上げると佳澄の目線までかがんだ。


「僕、あなたの名前も知りません。突然こんな失礼なことをして、本当にすみません」


秋谷はもう一度、謝った。


「だけど、僕、あなたを初めて見た時から、どうしても気になってしまって…」


「へ?」


「一目惚れだったんです」


佳澄は目を丸くした。


秋谷は、佳澄から視線を逸らさない。


長い長いストップモーション。


紅い枯葉がひらりと舞った。


「嘘…ですよね?」


「本当です」


真っ直ぐな視線のまま、きっぱりと応えた。


「えっと…」


 ―― 確かに昨夜、そうだったりして~!なんて甘い妄想はしたけど、こんな展開ありっ??


大きく取り乱した佳澄の前で、秋谷はまたも鼻を掻き、はにかんだ。


「へへ…、すんません、ホント」


そう言って、立ち上がると、今度は佳澄の隣にドッカリと腰を降ろした。


「やっと言えて、ホッとしました」


横で、ふーっと大きく息をつく。


「いや、あの…」


「よかったら、また僕と会ってもらえませんか?」


隣からひょっこり顔を覗き込まれる。


「僕とデートしてくださいっ!」


「は、…はいっ」


 ――あれ?


勢いで返事をしてしまった佳澄は、恥ずかしさで真っ赤になって俯いた。


その様子を温かい笑顔で秋谷は見つめ、


「名前、聞いてもいいですか?」


と言った。


動揺して、首を激しく上下に振りながら、佳澄は焦ってバッグの中を漁った。


名刺ホルダーから、自分の名刺を一枚取り出す。


「はい…」


秋谷が名刺を受け取った。


「高橋…佳澄です」


秋谷がニッコリと笑う。


佳澄の心臓が高鳴る音が聞こえた気がした。

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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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