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* 第二十二話 * ~忠則の場合~ ①

斉藤忠則、18歳。


受験競争に勝ち抜き、今年の4月から、晴れて大学生の身となった。


出身は、群馬県某市。


入学した大学は、東京の都心部と、そこからかなり離れた埼玉の奥地とにキャンパスがある。


忠則は、工学部の学生であり、1、2年生のうちは埼玉のキャンパスに通う。


実際のところ、群馬の実家から通えない距離ではない。


だが、とにかく憧れのキャンパスライフを早く満喫したくて、少し無理をして都内の方のキャンパス近くに1Kの部屋を借りた。


いや、正直な話、今のところは親に借りてもらっている。


せっかくの一人暮らしも親の脛を齧っていてはお話にならない。


車の免許も欲しいし、取得した暁には車だって欲しい。


早速、バイトを始めなければならない。


一人暮らしを始めて最初の月、とりあえずの目安にと親に家賃と光熱費の内訳を教えてもらって、驚愕した。


自分がいかに世間を知らなかったかを思い知らされる金額だった。


光熱費というものの存在を意識したことがまるでなかったからだ。


今まで、実家でも使い放題にしてきた自分を恥じた。


食費だってそうだ。


家に帰れば何かしらあった食べ物が一切ない。


コンビニ弁当や外食がいかに無駄遣いなのかを知った。


何が、免許だ?


何が、車だ?


両親は「勉学に励んでくれればそれでいい」と4年間の学費と生活費の全面援助を申し出てくれたが、親のありがたみを身をもって知ってしまった今、とても全部は甘えられない。


せめて生活費は自分でどうにかしたいと伝えた。


まだ、「大学は勉強するところ!」と生真面目に思っていた頃だったのが功を奏したのかもしれない。


忠則は、取るべき授業にしっかり出席し、終わるとすぐにファミレスのバイトに勤しんだ。


サークルの数多の勧誘にも乗らず、住まいと大学とバイト先の往復のみの毎日。


短期バイト斡旋の会社にも登録し、時間が空くと工事現場や倉庫作業のバイトもした。


3ヶ月もした頃、ようやく要領を掴めてくる。


がむしゃらにせずとも、自分のペースで、大学とバイトに出られるようになった。


彼女に出会ったのは、そんな心に余裕も出てきた頃だった。


まもなく、夏休みが始まる…。

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* 第二十二話 * ~忠則の場合~ ②

夏休み。


普段のファミレスのバイトは、夕方から夜間のシフトに入っている忠則だったが、この2ヶ月は早朝から夕方までのシフトに入れてもらうことにした。


昼と夜の違いだけで、業務にも多少の差が出てくる。


忠則は、店長に昼のリーダーを紹介してもらった。


「斉藤くん、彼女がリーダーの奥居さん。分からないことやシフトの相談は彼女にして」


忠則は、“リーダー”という呼び名のイメージから貫禄のあるおばちゃんスタッフを想像していた。


それが、意外や意外、奥居さんと呼ばれたその女性は、忠則と同じ年齢くらいの若い女性だった。


もちろん、顔は知っていた。


引継ぎで一言二言、言葉を交わしたこともあるはずだ。


タイムカードに名前があるのも記憶している。


身体は小さいけれど、キリリとつりあがった大きな目が印象的であった。


 ―― この子、リーダーだったんだ。


「奥居窓香です。よろしく」


「あ、斉藤です。早番は初めてなんで、よろしくお願いします」


「大して仕事は変わらないわよ。オープン作業だけ覚えれば、あとは夜と一緒だから」


聞くところによると、窓香は去年せっかく入学した短大を1週間で退学し、現在はフリーターらしい。


ファミレスのホールでバイトしだして一年半。


週に6日は出勤しているので、仕事に関してはベテランの域のようだ。


「へえ。1コ上なんですね。俺より年下っぽく見えるのに」


「背小さいから、余計でしょ?」


窓香は身長150cmあるかないか程。


そんな身体をちょこまかと使って、しかし完璧に業務をこなす。


誰よりも多く、皿を運ぶ姿は、一種の妙技だった。


「仕事出来ないヤツは嫌いだから。サボったりしたら、承知しないわよ」


「はい…」


ただ、他のスタッフは勿論、店長も一目置く存在の彼女は、少しだけ周りから浮いているようでもある。


見方によっては、孤立しているとも言える。


その理由は、出来すぎる仕事にあるのだろうと、忠則は勝手に思っていた。


「おい、斉藤!」


正社員であるキッチンスタッフからお呼びがかかった。


「はい」


急いで、キッチンの方に駆け寄る。


「今日、無断欠勤で人手足りねえから。お前、洗い場やって」


「わかりました。じゃ、奥居さんに一言…」


忠則がホールに戻りかけると、


「ああ、いいよ。言わなくても。あいつ、分かってるから。それより、早くやれ。もう溜まってるぞ」


「はい」


忠則は、早速腕まくりをして、皿洗いに取り掛かった。


合間にちらりとホールを覗くと、パートさん数名と窓香がてんてこ舞いしていた。


「おら、手が止まってるぞ。斉藤!」


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* 第二十二話 * ~忠則の場合~ ③

ランチの時間も過ぎ、少し客足も落ち着いてきた頃、窓香が洗い場に来た。


「斉藤くん、ここ代わるから。一服しておいで」


予定の休憩が取れず、早朝から働きづめだった忠則には天の声に聞こえた。


「あ、すんません。すぐ戻りますから」


「いいよ。ちゃんと賄い食べてきな」


「でも、奥居さんは…」


カチャカチャと皿洗いを始めた窓香が手を止め、忠則の顔を見た。


「私、もう先に食べたよ。そんなにお人好しじゃない」


そう言って、ニッと笑った。


なんだか恥ずかしくなって、忠則はそそくさと中に引っ込んだ。


社員の一人がひとり煙草を吹かしていた。


「おう。しんどかっただろ、お疲れ」


軽く右手を挙げて、労ってくれた。


「足腰パンパンっすよ。慣れてないとキツイもんですよね、皿洗いも」


出来上がった賄い飯を忠則がテーブルに置くと、社員が灰皿に煙草を押し付け、顔を寄せた。


「お前、知ってるんだろ?」


ヤニ臭い息が忠則の顔にかかる。


「窓香ちゃんさ…」


「はい?」


意外な言葉に、食べ始めた白飯を少し落とした。


「あの子、いろんな意味でやり手だろ?」


下世話な事を指しているんだろうと察しがついた。


「はあ、そうなんすか…?」


気のない返事をする。


「おっとぉ?その返事はお前はあんな有名な噂を知らないってことかよ」


「どういう意味ですか」


少し馬鹿にしたような下衆な笑みを浮かべると、


「それは斉藤ちゃんが自分で知ってちょうだいよ。でも、知っておかないと、この職場では損するかもしれないぜ」


と手をひらひらさせて部屋を出て行った。


「ちょ、そこまで言ったら、教えてくださいよー」


声を掛けてみたが、彼は戻ってこなかった。


 ―― なんだ?奥居さんには何かヒミツでもあるのか?


チラっと壁掛け時計に目を遣る。


あまり窓香を待たせちゃいけないと、飯をかきこむスピードを上げた。


 ―― 噂…ねえ。


想像するに、あまり良さそうな噂ではなさそうだった。


知っておかないと損をするかもとは、どういう意味だろう。


パートのおばちゃんはおばちゃん同士で固まっている。


遅番の女の子たちも業務中に紙切れのような手紙を回したりして、それなりに情報収集はしているようだ。


そんな中に混じってミーハーな話題に興じるような性格ではなかった忠則は、もう3ヶ月以上もいるこの職場の中で急速に疎外感を感じた。


食事を終え、手洗いうがいを済ませ、手をアルコール消毒する。


「お疲れさんです」


洗い場に戻ると、窓香が流しの縁に両手を乗せて、休んでいた。


「あ、一段落ついたんすね」


忠則の声に窓香がジロっと睨む。


大きな印象的な瞳にドキリと、一瞬たじろいだ。


「あんた、要領悪すぎ。モテないでしょ」


なかなかキツイ言葉を浴びせてくれる。


さっき、仕事の出来ないヤツは嫌いだと言われたことを思い出した。


「斉藤くん、仕事終わったら、ちょっと顔貸して」


「え?」


「ダメなの?」


特に用事はなかったが、嫌な予感がしたので断りたかった。


「いえ、大丈夫…です」


弱気にそう答える。


「じゃ、あとで」


窓香がバシッと忠則の背中を叩いてから、ホールに出て行った。


「い…ってぇ…」


身もだえしていると、キッチンから視線を感じ、振り向く。


さっきの社員がニヤニヤと忠則を見ていた。


「ハハ…」


愛想笑いで切り返す。


 ―― なんなんだよ、一体…。


忠則は、非常に不愉快だった。

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* 第二十二話 * ~忠則の場合~ ④

「おつかれさま」


忠則が着替えを終え、店の外に出ると、外壁に寄りかかっている窓香がいた。


「あ、おつかれさま…」


「斉藤くん、このまま帰るつもりでいたでしょ」


内心、図星だったので、忠則の目が泳ぐ。


「付き合えって言っといたでしょ!ほら、行くわよ」


ノースリーブから長く伸びる少し筋肉のついた細い腕を忠則の腕に絡ませた。


忠則の肘が、薄い布を通して窓香の身体の柔らかい部分に当たっているのが分かる。


「いつも真っ直ぐ帰るだけじゃつまらないじゃない。飲めるでしょ?」


くいっとお酒を呷るジェスチャーをする。


「いや、俺、未成年だし…」


「固いこと言わなーい」


太陽に向かって歩き出した二人の後ろには影が長く伸びている。


少し歩いて駅に近づくと、窓香は、強引に忠則をこじんまりとした居酒屋に連れ込んだ。


開店したばかりのその店には、まだお客はいない。


「いらっしゃい。お、今日は連れがいるんだ?」


店員が気さくに窓香に話しかける。


「まあね。生ふたつね」


そう言って、勝手に奥の座敷に上がった。


「常連さんなんだ?」


「そうよ。仕事が終わるとここで飲んで帰るの。私の憩いの場」


サンダルを脱ぎ、膝をついてテーブルの奥へ移動する。


ついミニスカートから伸びる生脚に目が行ってしまい、忠則はドギマギした。


 ―― どういうつもりなんだ?奥居さん…。


ビールとお通しが来た。


「はい、お疲れ~」


有無を言わさず、ジョッキで乾杯させられた。


忠則は、ゴクゴクと喉を鳴らしてビールを流し込む窓香を呆然と眺めていた。


「うまーっ」


ぷっくりとした唇に白い泡をつけたまま、至福の時といった様子の窓香に思わず微笑んでしまう。


「ほら、あんたも飲みな」


「あ、はい…」


忠則は遠慮がちにジョッキに口をつけた。


根が真面目な忠則は、お酒なんてまだ数える程度しか飲んだことがない。


その様子を正面の窓香がじっと見ている。


「…ホントに、お酒ダメなんだね。男のクセに」


冷ややかにそう言う窓香に忠則はちょっとムキになって、グイとビールを飲み込んだ。


「一応、まだ10代なんで」


ムッとした表情で返すと、窓香が笑った。


「ごめん、ごめん。もういいよ。それより何か好きなもの頼みな」


そう言って、フードメニューを忠則に差し出した。


店員を呼んで、適当に食べ物を頼むと、少し場が落ち着いた。


「あのね。実は、斉藤くんに聞いて欲しかったことがあるんだ」


「え?…なんすか?」


「うん…」


少し言いにくそうに窓香が視線を落とした。


また、ふっと忠則に視線を戻す。


大きな瞳には涙が溢れそうなほど盛り上がっていた。


 ―― えっ…?


忠則はどうしていいか分からずに、焦って、またビールを一口飲んだ。


「私ね…」


1、2度、睫毛を瞬かせると、ポタリと大粒の涙が落ちた。


忠則の手は汗ばんでいた。


「店長に愛人やれって言い寄られてるの…」

 

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* 第二十二話 * ~忠則の場合~ ⑤

「え?」


忠則にとって、あまりに突飛な話で、思わず箸を落としてしまった。


「あ、すんません…」


箸を拾うと、忠則はポロポロと涙を零す窓香をじっと見た。


「…嫌…なんですか?」


こくりと頷く。


少しムッとした表情で窓香が言った。


「嫌に決まってるじゃない!店長ってもう50過ぎてるのよ?」


忠則は何と言ったらいいのか分からずに、俯いてしまった。


「仕事は好きだから、辞めたくないの。店長にもさんざん世話になってきたから、無下に断れないし…」


「え、でも、嫌ならハッキリ言わないと…」


「わかってるわよ!」


ドンっとテーブルを叩く。


「簡単に断れたら、悩んでなんかいない…」


また新しい涙が窓香の頬を伝っていく。


「一度…、酔った流れで…、その、そういう事があって…」


窓香が伏目がちに大胆な告白をしてきた。


「それがあるから、どうしてもうまく断れなくて…」


恥ずかしいのだろう。


窓香のお酒のピッチがどんどん早くなっていく。


「…でも、このままじゃ」


忠則が無い知恵を絞って、なんとか言葉を返してあげようと口を開いたが、


「ねえ」


と遮られた。


窓香が、涙で濡れた大きな瞳で、上目遣いに忠則を見つめる。


「私を守って」


忠則の喉が上下した。


お酒で真っ赤になった窓香の胸元が目を引く。


ウブな忠則には刺激が強かった。


 ―― 酔った流れで寝てしまった…。


この言葉がリアル過ぎて、忠則の頭の中には良からぬ想像が膨らんでいく。


店長と窓香の肢体が脳内で蠢き出した。


店長の顔はいつのまにか忠則に変わっていく。


「ねえ、斉藤くんが早番にいる夏休みの間だけでもいいの」


「…」


「勤務時間外も一緒にいてほしいの」


テーブルの上で、忠則の手に窓香の手が重なった。


「ね…?」


忠則の思考回路はショート寸前だった。


「うん…」


なんとなく、頷いてしまった。


 ―― 俺が、奥居さんを…。


「守ってくれるの?」


もう一度。


今度は、確実に頷いた。


「…わかった」


「ありがとう!」


ワンランク、トーンの上がった声で、窓香は今度は両手で忠則の手を握った。

 

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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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