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* 第二十三話 * ~毅の場合~ ①

気に入らない。


なんで、アイツはいつも俺の周りをウロチョロしやがるのか。


俺の名前は、有野毅。


高校を卒業してすぐに、俺は音楽の専門学校に入学し、二年が経つ。


もちろんプロを目指す為だ。


俺の専門は作曲で、楽器はピアノ。


同時期に入ってきた伊崎祥太郎は、俺の一歳年上で、一応4大生でもある。


それも、小さい頃からエスカレーター式での有名私大。


実家は金持ちってことだ。


ついでに言うなら、ソアラなんかに乗って学校に来る。


とにかく、やたらと俺の癇に障る男なんだ。


アイツは、管楽器だ。


カッコつけてテナーサックスなんか吹いていやがる。


ただの趣味。


俺とは覚悟が違う。


それなのに、アイツが組んだバンドはやたらと人気があるんだ。


ボーカルのヤツは大したことないのに、そこそこのギターとベース、それに凄い才能のあるドラムの女の子がいるお陰で演奏は抜群に上手い。


それと、アイツのチャラいサックスが女の子たちをキャーキャー言わせている。


伊崎の野郎ってのは悔しいがルックスがいいんだ。


俺も自分で言うのもナンだが、見た目は悪くないと思ってる。


ただ、いささか口と性格が悪いのが玉に瑕というか…、でも自覚してる分だけマシだろ?


俺も一応ユニットらしきものは組んでる。


シンセサイザーとパソコンの打ち込みでオリジナルを作る俺のスタイルは、楽器をやりたいヤツには敬遠されるんだ。


だから、ボーカル科から声のいい女の子を見つけては、歌声を入れてもらっている感じだ。


カッコつけて言うなら、プロデュースしてるっつうの?


俺の曲を歌ってもらうなら、野郎よりは女の子がいい。


今を時めく小室哲哉みたいなスタイルだと思ってくれれば、イメージに近いかもな。


ただ、頼む女の子たちがことごとく伊崎と仲が良かったり、伊崎に憧れていたりするのがムカつくんだ。


俺の前で、ヘーキで「伊崎君たちのバンド」の話をする。


なんだよ。


サックスなんてオマケじゃねえかよ。


音楽の才能的には俺の方が絶対に上なのに…。


でも、俺もそろそろ打ち込みの音に限界を感じていて、リズム隊だけでも実際の楽器を使いたいと欲が出てきた。


そこで目を着けたのが、伊崎のバンドのドラマーだ。


あの、めちゃくちゃ巧い女の子に、俺の曲を叩いて欲しい。


ところが、その子が伊崎と恋人として付き合っているっていう話を小耳に挟んだんだ。


なんでだよ。


くそ、確かに美男美女だよ。


でもさ、なんで伊崎?


気に入らない。


マジで気に入らない。


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* 第二十三話 * ~毅の場合~ ②

俺は、果敢にもアタックすることに決めた。


正直言って、自信はある。


俺の音楽は、俺の唯一の武器だ。


講義が終わり、ちょうど練習室へ向かうところを待ち伏せた。


彼女の名は、矢板千春という。


まだ、そう親しく話したことはないが、一応、顔見知りではある。


ちょっとドキドキするが、大丈夫だ、話の内容はちゃんと考えてある。


しばらくすると、スティックを持ちながら、渡り廊下を歩いてきた千春を見つけた。


「ゲ…」


予想をしなかった訳ではなかった。


千春の隣には、伊崎の野郎がいた。


185cmはありそうなタッパ。


小さい顔に長い脚。


千春も、長丁場ドラムを叩くだけあって、締まった身体をしている。


颯爽と歩くと栗毛色の長い髪が軽快に揺れる。


遠目から見ると、悔しいくらいにハマってる。


だが、ここで引いて堪るか。


俺は勇気を出して、一歩近づいた。


先に気付いたのは伊崎の方だった。


サックスのリードを湿らせるために、それを口にくわえたまま、俺に「よう」と声を掛けてきた。


「おお」


俺も軽く手を挙げ、反応したが、お前には用はないと、すぐさま千春に声を掛けた。


「矢板さん。ちょっと頼みがあるんだけど」


千春は、驚いた表情で俺を見上げた。


「有野君…だっけ?」


よかった、名前は知られていた。


「うん。急で悪いんだけど、ちょっとコレ聴いてみてもらえないかな」


そう言って、MDを差し出した。


「?」


千春は、それをそっと受け取った。


「俺のオリジナルなんだけど、ドラムのアレンジが気に入らないんだ。矢板さんの耳で聴いてもらって、ちょっとアドバイスして欲しいんだ」


「へえ、別にいいけど、ねえ?」


千春が伊崎に同意を求める。


「うん、やってあげれば?」


くそ。


上からモノ言うんじゃねえよ。


「じゃ、明日にでも感想言うねー。これ、借りてっていいんでしょう?」


千春が俺にMDを示し、ニコっと笑う。


う、可愛い…。


「ああ、じゃあ、明日また…」


ちょっとダラけた顔で応じてしまった俺は、慌てて我を取り戻すと、伊崎に言い放ってやった。


「悪いね。彼女、ちょっと借りるね」


「ふぁーい」


リードをくわえたまま、伊崎は余裕をぶっぱなした軽い返事を俺にしてきた。


そんなんしていられるのも今だけだぜ。


俺は、練習室に向かう二人を背中から見送った。


本当の勝負は明日からだ。


見てろよ、伊崎。


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* 第二十三話 * ~毅の場合~ ③

家に帰った俺は、ずっとドキドキが止まらなかった。


自信はあるんだ。


あの曲に反応してくれるのは間違いないと。


だけど、正直怖い部分もある。


千春があの曲を伊崎と二人で聴いて、「なんだこれ」と腐している可能性だってある。


俺の曲が笑いものにされるのだけは許せない。


いや、信じよう。


あの曲に、必ず彼女は食いついてくれる。


俺は祈るように目を瞑った。


 

 

 

翌日…。


まさかの講義前だった。


「有野君!」


振り返ると、千春だった。


昨日渡したMDを持っている。


「これ、面白かった!」


「え、あ、そう。ありがとう…」


正直、面食らっていた。


「これから講義?そんなのいいから、ちょっとコッチ来て」


活き活きした表情をパアッと輝かせて、千春は俺の腕を引っ張っていった。


中庭に連れて行かれ、どさりと芝に座り込んだ。


千春は自分のバッグからMDウォークマンを取り出す。


「はい」


イヤホンの片方を差し出された。


俺のMDを再生する。


「ここ、ここね」


曲を一時停止すると、千春は手のひらで自分の膝を叩いた。


「ここは、ツッツッタッツタツタタカタンツツツッツッツタッツタツタタカタンツツ…って繋げていくのがいいと思うの」


「うん…」


「でね、この最後のところは…」


水を得た魚のように、楽しそうにリズムを刻む千春。


柔らかい日差しが彼女をキラキラと包み込んで、俺は夢を見ているかのようだった。


「ね、聞いてる?」


つい見惚れていた俺に容赦ない突っ込みが入る。


「ほら、ここも。こうやると面白くない?」


「ああ、ホントだ。変わってていいね」


俺と千春は、そこで小一時間、その曲のアレンジについて語り合った。


「いやー、でもビックリした。有野君、こんなコミカルな曲も書けるんだね」


「ちょっとね。たまにはハメ外したくて…。あんまり無いっしょ?みんな、カッコつけたい時期だし」


「あ、思いついた!」


千春は、また新たに可笑しなアイディアを思いついて、俺に聞かせてくれた。


「うん、いいね。そのバケツみたいな音」


笑い転げているうちに、俺はすっかり時間を忘れていた。


千春はよく笑う子だった。


俺もこんなに爆笑したのは久しぶりだった気がする。


「あー、あー、苦しい。有野君と私、笑いのツボが合うねえ」


目尻の涙を拭きながら、千春はやっと一息ついた。


「ちょっと、この曲。私に叩かせてくれない?」


よっしゃ。


俺の待ち望んでいた言葉だった。


「もちろん!でも、君のバンドの方は?」


「大丈夫。抜けるワケじゃないんだから。ライブの掛け持ちくらい余裕だわ」


この場で、俺と千春はユニットを組むことが決まった。


あと2、3曲くらい一緒に作って、今度のライブに披露しようということになり、俺のテンションは目一杯上がった。


お互いの電話番号を交換する。


こんなささやかな事で幸せを感じられるとは思わなかった。


「矢板さんは…」


「それ、やめよ。千春でいいから。ね、タケちゃん!」


そう言って、悪戯っぽく笑う。


俺たちは固く握手した。


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* 第二十三話 * ~毅の場合~ ④

俺と千春は急速に近づいていった。


最初は、俺の曲に彼女の音楽的才能が欲しかっただけだった。


だけど、間近でドラムを叩く千春を見てたら、本気で尊敬した。


俺は、自分で言うのもおかしな話だが、自尊心が人一倍高い。


自信家でもある。


だから、自分以上の才能って、クソだって思っていた。


でも、千春はマジでカッコいい。


とても敵わないのがよく分かった。


ヘッドホンをしながら、目を瞑って、リズムを聞いている姿。


鉛筆片手に真剣に譜面を追う姿。


そうかと思うと、俺の冗談に豪快に表情を崩して、大爆笑する。


音楽と接していない時は、ただの女の子だ。


思いがけなく、缶コーヒーを差し入れてくれたりする優しい子だ。


空き時間にパラパラとめくる女性誌や通り過ぎる時にフワリと感じる良い香りが表現する女性らしさと、あんなに全身を筋肉を躍動させて力強くドラムを叩く千春とはリンクしない。


そのギャップが、俺にはたまらなく魅力的だった。


ただひとつ。


ふと思い出した拍子に伊崎の話をする彼女だけが、俺の嫌いな千春だ。


彼女の時間を独り占めしたいと思う。


千春の恋人である伊崎から、奪いたいと思う。


千春も俺のことを意識はしてくれていると感じている。


だから時折、わざと伊崎の話を出すんだ。


「私は伊崎の女なのよ」というアピールなんだろう。


いいじゃないか。


俺は、千春を手に入れたいよ。


音楽面だけでなく、心も全て、俺一人だけのものにしたい。


それは、悪い事だろうか。


好きになってしまったら、彼女が誰のものかとか、そんなの関係ねえだろう。


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* 第二十三話 * ~毅の場合~ ⑤

「タケちゃん…」


千春が、新曲の詞に目を通してから、俺に言った。


キーボードをいじっていた俺は手を止めて、千春の方を見る。


「これ…」


千春の手には白い紙。


それを俺に突き出した。


「私の事、好きなの?」


「そういう風にとれた?」


俺は、少し意地悪な返答をした。


今回、俺が書いた新曲は、まさに千春を伊崎から奪取するぜという宣戦布告の歌だった。


「祥太郎への悪口に受け止めた」


そう言って、千春はニヤリとした。


「いいんじゃない?それで」


俺は、そっけなく答え、立ち上がると自分の鞄から煙草を取り出そうとした。


「ふーん。ということは、これ、私への告白と考えてもいいのかしら」


俺に向かって挑戦的に白い紙をバサバサと振った。


ちょっとドギマギしたので、誤魔化すために煙草に火をつける。


煙を深く吸って、ゆっくりと吐き出した。


「祥太郎ね。疑ってるわよ。私たちの関係」


「へえ」


「私は、タケちゃんは親友よって、祥太郎に言ったの」


煙草はまだ残っていたが、俺は途中で灰皿に押し付けて消した。


千春のもとへ近づくと、手をとって椅子から立ち上がらせる。


そして、少し強く引き寄せると、俺の腕の中にフワリと千春の身体を引き寄せた。


持っていた白い紙が、宙を舞い、床に落ちていく。


千春は強く抵抗することもなく、俺の胸に頬を埋めた。


「親友って、こういうことしてもいいのかな」


俺はそう呟きながら、彼女の身体をギュッと抱きしめる。


「…タケちゃん。苦しいよ…」


「その歌詞のまんまだよ。俺は、千春を伊崎から奪いたいんだ」


少し力を緩めたら、千春が胸から顔を離して、俺の顔を見上げた。


今、この瞬間。


俺、我慢しなくてもいいよな。


潤んだ瞳を見たくなくて。


俺は、千春の唇にそっと自分の唇を重ねた。


数秒、千春は俺を受け入れてくれた。


そっと顔を離す。


千春は、俺の目を見られないようで、目を伏せたまま呟く。


「煙草で誤魔化すの、ズルいよ…」


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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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