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* 第二話 * ~佐和子の場合~ ①

「!?」

身体を重ねていた正和のただならぬ気配に、天井を見ていた佐和子は頭をあげた。

正和の表情は青ざめている。

佐和子の目に映ったのは、ドロリとした血にまみれ、しょんぼりとおじぎをしているかのような正和自身だった。

「そんな…」

慌てたのは佐和子だ。

身体を起こして目を落とすとシーツは赤く染まっていた。

正和はあたふたした様子を隠すこともせず、ドアが開いたままのユニットバストイレに手を伸ばし、何度もカラカラとトイレットペーパーを引っ張りだしながら、自身についた体液と血液を拭っていた。

「ごめん、閉めるね」

佐和子はショーツとナプキンを手にトイレに閉じこもり、まず毛についた白いものを拭き取った。

気持ちを落ち着かせようと必死だった。

小椋佐和子、25歳にして、処女喪失の瞬間である。

噂には聞いていたが、初体験では本当に血が出るのか。

ドア越しに明らかに動揺している正和の声がした。

「俺、帰るわ~」

「ちょ、ちょっと待って、私もすぐ出るからさ」

佐和子は大急ぎでドアを開け、服を着た。

とっくに身仕度を整えた正和が所在なさげに立っていた。

「俺、用事思い出したし、もう行くって」

逃げ出したい感満々だった。

「や、ほら、私も亜弓ちゃんたち探さなきゃだしさ」

佐和子は無理矢理一緒に部屋を出た。





ここは、京都の御池にあるビジネスホテルの一室だ。

横浜から観光旅行に来た佐和子と亜弓が滞在している。

数時間前、正和と友人の晴樹が夕食後に四条橋付近をうろつく二人をナンパしてきた。

亜弓は乗り気ではなかったが、正和の顔が佐和子の好みだったので、独断で了承したのだ。

四人がカラオケで盛り上がった後、なんとなく佐和子と正和、亜弓と晴樹という具合に二対二に分かれた。

夜の街を散歩しながら、いい雰囲気になる。

先斗町の風情溢れる小路の途中で、鴨川を見ながら正和が言った。

「昔から京都にいるけど、ここが一番京都らしい思うわ」

正和は、ふいに佐和子の唇を奪う。

心臓がキュッと握られたような気がした。

飲み屋で強引にされた酒臭いキスしか経験のない佐和子にとって、こんなにときめくキスは生まれて初めてだった。

二人は手をつなぐと、また歩きだした。

道の端には数日前に降ったという雪がまだ溶け切れずに残っていた。


二月の京都は寒い。

佐和子は滑らないように、正和の手をもう一度強く握って、腕にしっかりつかまった。

 

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* 第二話 * ~佐和子の場合~ ②

歩きながら、佐和子は緊張していた。

この流れ、おそらく正和は佐和子と寝たいと思っている。

鴨川の反対側を指差し、単純明快に正和は言った。

「あそこ行かない?」

指先が示す黄色い建物は、明らかにラブホテルである。

佐和子は、処女であることを悟られないよう、慣れている女を装うつもりだった。

だから、素直に従った。

会話にだんだん下ネタが多くなってくる。

名実共に耳年増な佐和子は冗舌な正和に話を合わせながら、近付いてくる黄色い建物で繰り広げられるだろう初体験を夢想した。

少し下半身が熱くなった気がした。

「この正月に東京行ったんやけど、横浜も近いよな」

正和は仕事で代々木体育館に来たという話を始めた。

「なんで体育館なの?」

「試合。俺、実業団バレーやってるから」

決して低い背ではないが、バレーボールをやっている割には背が足りないように感じた。

「また行くから、あとでベル番教えてな」

正和はにこやかに言い、佐和子はその台詞に安心した。

そして、これから遠距離恋愛が始まるのかと胸が高鳴る。

25歳、ようやくの本格的な交際が、遠距離か…と複雑な気持ちも少しあった。

「あかん、満室やって」

ラブホテルのそれぞれの部屋が並ぶ案内番の電気はすべて消えていた。

「待つ?」

佐和子はどう答えるのが正解なのか分からなかったが、なんとなく興醒めした感じで答えた。

「亜弓ちゃんたち探そうよ」

亜弓と晴樹とはぐれたままだった。

佐和子は不安になったのだ。

亜弓には横浜に恋人がいる。

今、このホテルが満室でなかったら、佐和子と正和は間違いなくここでセックスをしていただろう。

もしかしたら、亜弓もどこかで…。

「大丈夫やて。晴樹は俺みたいなことせえへんよ」

佐和子は笑って、また正和の手を握った。

「戻ろうか」

二人は今来た道を戻った。

♪ガッ…だぜ…

正和はさっきカラオケでも歌った去年の流行の曲を会話の間があく度に口ずさんだ。

妙に耳に残るフレーズで、まるで口癖のようだ。

「その歌好き?」

「え?なんか歌ってた?」

なんとなく苛立った口調だった。

「亜弓ちゃん、どこにいるんだろ」

「鴨川の畔にでもいるんちゃうか。それより、トイレ行きたいな」

正和はそわそわしたが、佐和子は急に襲ってきた不安に思考が定まらなかった。

鳴らないポケベルを恨んだ。

関東圏しか電波の届かないポケベルは、関西のそこでは役立たずである。

亜弓と連絡をとる述はない。

ポケベルの時刻は、零時をまわっていた。

「一回さ、ホテル戻ってもいいかしら。亜弓ちゃん帰ってるかもしれないし」

「どこ?」

「オイケって読むのかな」

「ええよ」

「ありがとう、正和くんもそこでトイレ行けばいいよ」

「そやな」

正和はブルッとした。

ダウンコートを着ている佐和子とは反対に妙に薄着の正和が本当に寒そうで、佐和子は一生懸命握っていた手をさすっていた。



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* 第二話 * ~佐和子の場合~ ③

「亜弓ちゃん、帰ってるかな」

ホテルの前に辿り着いた佐和子はどうか戻っていてほしいと願った。

「先にエレベーターの前で待ってて」

なんとなくフロントの者に気が咎めた佐和子は正和にそう言って奥の通路を指差した。

フロントに部屋番号を告げると、あっさり鍵が手渡された。

亜弓は帰ってきていないのだ。

部屋に行く意味はないが、正和の尿意が気になっていたので、とりあえずエレベーターに乗った。

「亜弓ちゃん、まだだったよ。トイレ、部屋の使って。そしたらまた外戻ろう」

佐和子は、自分達が宿泊している部屋に正和を招き入れた。

「散らかってるけど…。はい、ここ」

トイレの戸を開けようとすると、正和は構わず部屋の奥へ進む。

佐和子は手首を掴まれ引っ張られた。

ぎゅっと抱き締められる。

「ちょ、トイレは?」

「しよ」

正和は無視して、ツインベッドの片方に佐和子を押し倒す。

「ここはまずいって、亜弓ちゃん帰ってくるかも知れないし」

虚しい抵抗だった。

騙された。

トイレなんて、セックスする場所を確保する為の嘘だったんだ。

何を今更。

分かっていながら、連れてきた。

佐和子は、初めての出来事に混乱していた。

受け入れるべきなのだろうか。

「ちょっ、ちょっと待って。私がトイレ行かせて」

佐和子は正和の身体を押し退け立ち上がった。

二月の京都は寒いだろうと、ジーンズの下に厚手のタイツを履いていた。

しかも、その上から靴下だ。

上も、何枚か重ね着している。

さすがにこんなに着膨れている女を脱がすのは嫌だろう。

佐和子は覚悟を決めて、タイツとTシャツを脱ぎ、脱衣籠のタオルの下に隠し、軽装になって正和のもとへ行った。

仕切り直して、ベッドに倒れこむ。

もう逃げられない。

喘ぎ声はいつ出すのだろう。

両の手はどうしたらいいのだろう。

正和は佐和子のセーターを脱がさず、ブラと一緒に上にたくし上げ、小さな胸を揉んだ。

手が冷たい。

ふと天井に目をやると、電気がこうこうと照っていた。

消す…べきだったかな、と佐和子は悩んでいた。

 

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* 第二話 * ~佐和子の場合~ ④

ジーンズとショーツは片足だけ膝の辺りまで履いたままだ。

正和も上の服は脱いでいたが下は軽く下げ、肝心なモノが出ているだけだ。

亜弓が戻ってきた場合を想定しているのだろうか。

正和の顔が佐和子の茂みを刺激した。

なんとなく両手で正和の頭に触れ、少し髪の毛を掴んだ。

唇はつぐんだまま、小さく声を洩らす。

感じている雰囲気は出せているだろうか。

これで正和はイッてくれるのだろうか。

佐和子は天井を見つめたまま、そんなことばかり考えている。

脚を高く上げさせられ、丸見えになった中心部にズブリと正和は入ってきた。

「ひっ…」

思わず力が入り、ベッドカバーをしっかり握った。

痛いのか、痛くないのかもよく分からない。

コンドームをつける算段すら出来なかった。

世の人はこんな激しい摩擦が気持ち良いのだろうか。

初めてなら仕方ないのかもしれない。

なんの快楽もない気がしたが、やめてほしいとも優しくしてほしいとも、伝えられない。

変に注文を付けて、嫌われるのは怖かった。

正和は一言も発することなく、ものすごいスピードでピストン運動をしていた。

こんなに速いものなのかと戸惑う。

顔が歪む。

苦しい、早く終われと願いながら、頭は冴えていて明るい部屋の隅々まで眺めていた。

何分も経たないうちに、中で暴れていたモノは突然スポンッと佐和子から抜けた。

股間が熱くヒリヒリした。

「!?」

正和は驚きと後悔と怯えが交ざった複雑な表情を浮かべていた。

 ―― 処女やったんか…?

顔にそう書いてあった。



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* 第二話 * ~佐和子の場合~ ⑤終

身体全体から、今すぐこの場から逃げ出したい感を発している正和を追うように佐和子も部屋を出た。

足早な正和に着いていくのに必死で、フロントにキーを預ける隙もない。

佐和子も負けじと早足になった。

慌てて装着した生理用ナプキンの収まりが悪くて股間が気になるが、今は構っていられない。

「ご、ごめんね。急に生理来ちゃってさ、ビックリしたよね」

正和のご機嫌を伺うように尋ねたが、返事はなかった。

こんな処女喪失は認めたくなかったから、佐和子はあくまでも生理が来たということで押し通そうと思った。

さっきの正和の慌て様から現在の冷たい素振りから、正和は完全に見抜いているだろう。

やはり年増の処女は敬遠されるのか。

正和の態度は、佐和子の心にかなりの傷を与えた。

男性にとって見慣れない血液は確かに衝撃だろうが、あまりの変貌に佐和子は負い目を感じたのだ。

努めて明るく振る舞う。

「晴樹くんたち見つかるといいね」

二人はずんずん鴨川に向かって歩いた。

正和は喋る代わりに小声でぶつぶつと、例の歌を口ずさんでいた。

「♪…ッツだぜ…」

もう手もつなげない。

正和の歩みは速くなる一方だった。

橋の脇から川べりに降りられる隙間を見つけて二人は坂をおりた。

この寒空、もう真夜中だというのに、未だ人出はあった。

この中におそらく亜弓も晴樹もいるのだろう。

雪の残りが凍結しているかと思えば、水溜まりでぐちゃぐちゃにぬかるんだ地面を、二人はどんどん進んだ。

「危ねっ」

正和がつるりと足を滑らせ、舌打ちをした。

恥ずかしさがイライラに拍車をかけたようだ。

佐和子はいろんな事が限界になって、後ろから声を掛けた。

「もういいや。」

正和は構わず歩く。

「ねえ、帰る。亜弓ちゃんたちとも会えないし、私、ホテルで待ってた方がいいよね」

正和がようやく振り返り、また橋の上に戻るとタクシーを拾った。

「運転手さん、このカード使える?」

正和はタクシーに乗り込むとそう聞いた。

「現金持ってないねん。とりあえず御池まで行って」

そんな事を話していたが、佐和子は下半身が気になってあまり耳に入らなかった。

後部座席の白いシートに両手を置いて、その上にお尻を乗せる。

汚れるのではないかと不安だったのだ。

何分もしないうちにタクシーはビジネスホテルの前に着いた。

「ほなね」

正和の佐和子に向けた最後の言葉だった。

「観月橋まで行って」

車を降りた佐和子の耳に、その台詞と同時にドアの閉まる音が響いた。

正和は顔をこちらに向けることすらなく、タクシーはあっという間に走り去ってしまった。




部屋に戻った佐和子は急いでジーンズを脱ぎ捨て、空の浴槽に入ってから、すべての衣服をとった。

女性として十年以上見慣れた筈の綿には見たこともない程の赤い吸収があった。

佐和子は愕然とした。

赤いものは脚を伝っていく。

冷えきった身体に熱いシャワーを浴びる。

湯が赤く染まり、排水溝に流れ行く。

止まらない。

佐和子は恐ろしくなって、自分自身をぎゅっと抱き締めた。

尋常じゃない血液が体内からとめどなく排出されていく。

「どうしよう…」

こんな話は聞いたことがない。

初めてのセックスのあとはこんなに血が流れるの?

分からない。

分からない。

25年も生きてきたのに、まったく分からない。

焦って、身体を粗末に扱ったから、罰が当たったのだろうか。

否、もともと生理の予定日も近かったんだから、予期せぬ刺激に身体が驚いただけだ。

でも、下腹部が痛い。

一生懸命に冷静になろうとするが、パニックで息があがり、喉からひゅーひゅーという音が漏れる。

だが、不思議と涙は出なかった。

「正和くん、助けて」

この期に及んで、佐和子は正和を想った。

しかし、その時に初めて、連絡先はおろか苗字さえも聞かなかったことに気付いた。

力が抜けて、血だまりにしゃがみ込んだ。

放心状態でコツンと頭を壁につけるとシャワーが顔にかかる。

「何やってんだ…私」


 ―― コンコンコンッ。


突然、ユニットバストイレのドアが叩かれた。

「佐和子?佐和子!!」

亜弓だ。

「おかえり。今出るから…」

佐和子は絞りだすようにそう答えると、ようやく声を殺して泣いた。



‐終‐

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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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