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* 第四話 * ~早苗の場合~ ①

 ―― キーンコーンカーンコーン…。

終業のベルが鳴り、高田早苗は机の中から、週末に受験勉強に必要な英語と古文の教科書を抜き取り、鞄に入れた。

「だぁ~、辞書もだよ」

早苗はだるそうに立ち上がって、廊下に並んでいる自分のロッカーに向かった。

扉を開けて、しゃがんでいると、後ろから目隠しをされた。

「こぉら、マリア~!?」

手をどけて、振り向くと隣のクラスの橘マリアが微笑んでいる。

「早く帰ろ。今日のお泊り楽しみにしてたんだ」

早苗とマリアは、高校一年時に同じクラスで出会い、出席番号が前後だったキッカケで、以来親友の付き合いである。

部活も三年間一緒、高三の今でも変わらず仲良しで、週末は時々お互いの自宅に泊りに行く。

今日は早苗の家にマリアが訪れる日である。

マリアは二年連続、この高校のミスコン優勝者であった。

特別、容姿に長けているわけではないが、天然でほんわかとした癒しの雰囲気と爽やかな色気を持つマリアは男子生徒に抜群の人気を誇る。

その分、同性には避けられがちな一面もあった。

一方の早苗は見た目も悪くはないのだが、やや男勝りで、性格もキツイ。

マリアと並んでいると引き立て役に近いが、本人は、おっとりしたマリアのお守的な役割と自覚していた。

マリアが他の女子に嫌われていようと、早苗にとっては凄く良い子で、かけがえのない友人であった。

しかし、早苗は知っていた。

マリアは、これまでことごとく身近な友人たちの恋人を狂わせている。

マリア自身は「いつのまにか仲良くしたいお友達が去っていくの」などと嘆いていた。

しかし、早苗から見たマリアは、まだ高校生ながら、実は計算で動いている魔性の女のような気がしてならなかった。

もっとも、今現在、二人にはそれぞれ彼氏がいたし、厄介な問題はなかったし、毎日が楽しかった。

特に早苗は、マリアたちカップルの協力のもと、クラスメイトからステップアップした彼氏が出来たばかりで最もラブラブな時期であった。

これには、マリアたちが一番喜んでくれていた。

ところが、早苗たちがうまくいった途端に、マリアが恋人に対する不満を言いだした。

彼が奥手で苛々するというのだ。

早苗は、一緒にいる二人が大好きだったので、なんとか修復の方向へと骨を折り、かろうじて交際は続いていた。

そんな中、早苗の地元の幼なじみが夏の甲子園大会、県予選の決勝に進出した。

幼なじみは、八木隆徳という。

早苗とは小学校からの付き合いで、異性でありながら今でも大親友として、よく帰宅後に会って遊ぶ仲だ。

昔から野球少年だった八木は、早苗の初恋の相手であるが、もちろん本人は知らない。

現在、早苗には大好きな彼氏が出来たが、八木はやはり別格な相手であり、心の奥ではいつも八木を思っていたし、強さと格好良さは自慢だった。

そこで早苗は泊りにきたマリアに八木を内緒で会わせようと目論んだ。

今までもマリアにはさんざん八木への恋心の話はしてきたし、こんな格好良い幼なじみがいるんだと実物を披露してやろうと…。

落ち着いて考えれば、これまでの例から行く末がわかりそうなものなのに。

早苗は八木の念願が目前に迫った喜びで舞い上がっていたのだろうか。



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* 第四話 * ~早苗の場合~ ②

早苗宅、夕食後。

自室にて、早苗とマリアは勉強のふりをしながら、だらだらゴロゴロと談笑していた。

母親の階段を昇ってくる足音が聞こえたかと思うと

「開けるわよ~」

と扉が開いた。

床に寝転んだまま二人が顔を向けると、母親の後ろから誰かがひょこりと顔を出した。

「えっ?」

マリアが大慌てで身体を起こして、うつむき加減で髪に手をあてた。

「よう」

八木だった。

「あら、ごめんね。ノックしてあげればよかったね?じゃあ、隆徳ちゃんもごゆっくり」

母親は八木の背をポンと叩き、部屋を出ていった。

「早かったね、八木ぃ」

早苗が八木を手招きした。

「ちょっと!どういうこと!」

小声でマリアが早苗に聞いた。

ふいをつかれ、気を抜いていたマリアがとりあえずササッと身繕いをしている姿が滑稽だった。

「今日、うちの学校のミスが来るって話したら、会いたいっつってさ、だから呼んだんだわ~」

早苗は、油断していたマリアの慌てる様子に、何故か軽い優越感を覚えていた。

いつも男子の前では完璧なマリアしか見たことがなかったからだ。

「だったら先に教えておいてよおっ」

「脅かしちゃってゴメンね。俺、八木って言います」

挨拶しながら、八木が早苗の隣に座った。

「はい、はじめまして、橘…です」

マリアは、うつむいたまま応えた。

顔は真っ赤だった。

早苗は場を取り繕うのに必死で、ひとまず八木の野球の話をして盛り上げた。

話しているうちに段々マリアと八木も打ち解けてきて、部屋に笑いが起きるようになった。

「あ、やべ。もう俺、家戻るわ」

時計を見ると、午前0時を回っていた。

「うわぁ、時間経つの早っ!…じゃあ、隆徳くん、またね」

「おう、どうせまた、ここ来るんだろ」

八木が立ち上がると同時に、早苗の腕を引っ張った。

「あ、じゃあ、八木送ってくるわ。マリア部屋で待ってて」

二人が階段を降りると、八木が口を開いた。

「なあ、マリアちゃん、超可愛いじゃん」

「ね?だから、言ったでしょ」

「いやぁ、ビックリしたね。この話は、また明日にでも電話するわ」

「オッケー。じゃね、おやすみ」

玄関で見送った。

早苗はなんとなく得意な気持ちになっていた。

可愛い女の子を、格好良い男の子に会わせて、評判を得る。

自分の友達が良く思われるのは嬉しい。

部屋に戻ると、マリアがにやにやしていた。

「なるほど、自慢したくなる幼なじみだねぇ」

「結構イケてるでしょ」

「話に聞いてたより格好良かったよぉ。面白いし」

早苗はくすぐったくなる。

「でもさ~、来るなら来るってさ~」

「それは、ゴメンて!」

早苗は電気を消して、二人は布団に入った。

しばらく話を続けていたが、あまりにも気分が良く、早苗はあっという間に眠りについた。

が、マリアはしばらく寝付けないようだった。



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* 第四話 * ~早苗の場合~ ③

数日後、早苗のもとに八木から電話があった。

「なあ、マリアちゃんて彼氏いるんだっけ?」

「何よ、狙っちゃおうって話~?」

電話口の向こうで舞い上がっている八木の様子が手に取るように分かった。

「いるにはいるんだけど、あんまりうまくいってないんだよね」

「へえ、じゃちょっと微妙かなぁ」

「電話番号、教えてあげようか?直接話してみればいいじゃない」

早苗は調子に乗った。

八木も早苗の押せ押せな感じにまんざらでもないようだった。

「本気でいくなら、全面的に協力するわよ。私が会わせたんだし」

「おう、じゃ今から掛けてみるわ」

電話を切った早苗は高揚していた。

早苗の大事な友達の八木が、やはり大切な友達であるマリアにひかれている。

自分を介して、人と人が繋がりゆくことに悦びを感じていた。




翌朝。

バタバタとマリアが早苗のいる教室にやってきた。

「早苗っ!」

来たな、と思った。

「昨日、隆徳くんから電話来たよ!」

「えへへ~、ごめんね、勝手に番号教えちゃって」

「それは構わないけど…」

マリアは楽しそうな顔を隠そうとしていた。

「で、どうだった?いいヤツでしょ、八木」

マリアは困惑気味に頷きながら答えた。

「うん…。早苗ちゃんが前から理想の男だって話してただけあって、面白いし、格好良かったし…」

「うんうん、それで?」

「早苗ちゃんはいいの?」

早苗のまわりの空気が止まった。

「はっ?」

マリアはきゅっと唇を結んだ。

「早苗ちゃんは、私が隆徳くんのこと好きになっちゃってもいいの?」

早苗は一笑に付した。

「あ、当たり前じゃない!そうなったら嬉しいよ。でも…」

マリアには彼氏がいる。

そう簡単に心変わりなどするだろうか。

「大体さ、私が好きにならないでって言って、止められる気持ちなら、それ本気じゃないってことでしょ」

「そうだけど…」

「でもさ、マリアだって二股かけるわけないでしょ?そういう心配は別れてからしてよ」

 キーンコーン…

始業のベルにマリアは慌てて去った。

早苗は自分の席につきながら、考えた。

「案外あっさりくっついちゃったりして」

一瞬、ズシリと心に何かが降りた気がした。

ぬっと腕が伸び、斜め前の席から、小さなメモが回ってきた。

「あ」

早苗の彼からだった。

『近頃、橘さんと何かあったのか?』

胸を鷲掴みにされたような気がした。

早苗には心配してくれる彼がいる。

最近、八木のことばかり考えていた。

顔をあげると、彼が振り返って見ていた。

早苗はニコリと笑うと、メモ紙をチラチラと振った。

彼の笑顔が心に痛かった。

「早苗ちゃんは、私が隆徳くんのこと好きになっちゃってもいいの?」

さっきのマリアの言葉がこだました。

いいよ。

いいに決まってる。

ダメな理由など、ありはしない。



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* 第四話 * ~早苗の場合~ ④

あれから、早苗のもとに毎晩といっていいほど、八木が現れた。

電話だったり、家に遊びに来たり、話は専らマリアのことだ。

早苗もまんざらじゃない感じを持ちつつ、八木にいろいろアドバイスらしきものをしていた。

この日も早苗と八木は電話で話していた。

「で、やっとマリアちゃん、彼氏と別れてくれたんだよな」

「えっ?」

早苗は初耳だった。

慌てて取り繕う。

「そ、そうそう、マリアも大変だったんだから~」

何故、自分が知ったかぶりをしたのか分からなかった。

しかし、とっさに出た言葉だった。

「でね、近々、コクろうと思うわけよ」

「おっ?来た、来た!言っちゃいますかぁ~」

早苗はおどけつつ、

「でも八木さ、野球は?彼女とか言ってる場合じゃないでしょうよ」

「いやいやいや、このチャンスは逃せないっしょ」

八木は浮かれて電話を切った。

受話器を置いた早苗の心臓の音が高鳴っていた。

マリアは、いつのまに別れたんだろう。

どうして知らないのか、納得がいかず、早苗は憤慨していた。

親友なら相談のひとつもあったって、いいじゃないか。

マリアは、このあと八木と付き合うことになるのだろう。

早苗は布団に入ろうとして、止まった。

「いやだ…」

そう思った途端、早苗の中の感情がぐるぐる回った気がした。

八木は…。

八木は、大切な友達だ。

誰よりもウマが合う。

失いたくない。

八木の気持ちは大事にしなくちゃいけない。

八木はマリアが好きなんだ。

八木は、これからマリアに告白するんだ。

そして、マリアはその言葉に頷くだろう。

親友のマリア。

「!!」

早苗は夢中でマリアに電話をかけた。

ツー、ツー、ツー。

通話中だった。

八木だ。

嫌だ、ダメだ。

早苗は、我を忘れて、何度もリダイアルを押した。

「早苗?」

「うん…、ごめん、遅くに」

「大丈夫よ。今ちょうど八木くんと話し終わったところでね」

早苗の口の中が渇いていく。

「うん、なんだって?」

「明日の学校終わってから待ち合わせたよ。話があるって言うから」

「…それ、断れない…かな」

電話の向こうが沈黙した。

「どういう意味?」

早苗は勇気を振り絞った。

「…だから、会わないで欲しいの」

「なんで?」

早苗も自分自身がムチャクチャなことを言っているのは、よく理解していた。

だけど、急に八木とマリアが付き合うようになるのは我慢がならなかった。

八木とマリアは、あくまでも早苗の仲介のもとにいなくてはならない。

早苗抜きで会うなんて、まして交際をするなんて、

「許せないの」

「はあ?」

マリアは心底、訳が分からないという発声をした。

「早苗が会わせたんだよ?私と八木くんを」

「わかってる」

「私、最初に聞いたよね?好きになってもいいのかって」

「わかってる」

「もう遅いよ。私、八木くんのこと好きになっちゃったもん」

早苗は黙るしかなかった。

その通りだ。

早苗が自ら、八木とマリアをこうなる方向に煽り、導いたのだ。

「ごめんなさい。でも、ダメなの。…私から」

泣きそうだった。

「私から、八木を取らないで」

「無理だよ」

マリアの怒りに任せた声が届く。

「もう好きになっちゃったんだから、どんなに早苗に反対されたって、大体早苗に邪魔する権利ないでしょう?」

言葉が辛辣になっていく。

「八木くんは私を好きになってくれたんでしょう?」

「…そうだね。でも、八木は大事な人なの。マリアにだけは渡したくないの」

「恋愛感情があるって意味?」

早苗の脳裏に彼氏がよぎる。

一体、何をやってるんだろう。

「…私」

早苗は突然に明るい声を出した。

「やだ、ごめん!あっれ~?私ったら、何てこと言ってるんだろうね~」

無理に笑う。

「冗談だから、ホント気にしないで。明日、八木と会ってくれて構わないから」

「早苗?」

「うん、両思いだもんね、な~んの障害もないよ」

慌てていて、何を言っているのか、混乱した。

「じゃ、頑張って。また明日ね!」

早苗は電話を切った。

瞬間、涙が溢れた。

最低だ。

こんな自分を八木に知られやしないだろうか。

早苗は、八木にとっても、大事な幼なじみでいなければならないのに。

これでは、何もかも失ってしまうではないか。

早苗は、八木に特別な感情を持っていることをこれ以上認めてはいけないと思った。

八木に嫌われてはならない。

今日の感情は忘れて、明日にはマリアにもきちんと謝ろうと考え直した。

ズルくてもいい。

八木にだけは、いい顔をしよう。

マリアはともかく、八木との関係性は保たねばならないのだ。


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* 第四話 * ~早苗の場合~ ⑤

翌朝、早苗の教室。


「おはよー」


あの言い合いはなかったかのように、マリアが現れた。


「ごめんね、あのー、ゆうべ変なこと言っちゃって」


早苗は、勇気を出して詫びた。


「ううん、なんとなく気持ちはわからなくもないっていうか…。複雑だよねー、確かに。でさ、古文の予習してあったらノート貸してくれないかな」


いつもと変わらない様子に安堵しつつ、ノートを鞄から出してマリアに手渡そうとした時、早苗は自分の異変に気付いた。


 ―― あれ…?


目を合わせられないのだ。


手はマリアの方向にあるのに、顔を向けられない。


「うち、3時間目が古文だから、それまでには返してよねー」


言いつつ、目線が定まらない。


ドキドキしてきた。


心なしかいつもより早口な自分がいる。


笑顔がうまく作れない。


何より、マリアの顔を見ることが出来ない。


普段なら、始業ギリギリまで、なんだかんだ喋っているはずなのに、早く教室から出て行って欲しいと思っている。


「ごめん、ちょっとトイレ行きたいから…」


早苗は慌ててそう言うと、やっとの思いで視線をマリアに合わせた。


心と身体が別の動きをしていると感じた。


ため息が出た。


 ―― 今日、八木はマリアに告白するんだ…。


それが現実だった。


受け入れる努力をしなければならない。






授業中、早苗はマリアに手紙を書いていた。


マリアの彼…、もう元カレか…。


元カレとマリアという二人の存在は、早苗にとってセットで大事だった。


何も知らされずに、いつのまにか別れていたことに残念な気持ちでいっぱいだと。


まだ早苗に彼氏が出来る前は、よく三人でいた。


他の男子に二人きりにさせてやれよと忠告されたものだ。


それでも、元カレも嫌な顔ひとつせずに、一緒に相談に乗ってくれたりして、とても楽しかった。


だから、ちゃんと話したいと思う。


マリアと別れたから、友達付き合いはおしまいですっていうのも可笑しな話。


これからどういうスタンスでいたらいいのか、マリアは早苗にどうしてほしいのかを聞きたかった。


そんな手紙。


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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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