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* 第五話 * ~潤奈の場合~ ①

とっぷりと日も暮れた頃、駅に向かう雑踏。

「っていうかさー、もう合コンもネタ切れじゃない?」

「そうそう、もうコマ使い果たしたよねー」

「けど、クリスマスも近いっつーのに、全然いい男いないしさー」

「面白いだけじゃねー」

「私のモットーは、ラブ・イズ・マネーですからーっ!」

ギャハハハと賑やかな二人組、富澤潤奈と大隈妙子。

大手百貨店に勤めている同期だが、実態は派遣社員である。

愛は金なりと言い放った妙子こそ華やかなエレベーターガールだったが、連れ合いである潤奈は電話交換係だ。

この二人、月数回の合コンは欠かさない。

大手の百貨店の名前はなかなかの威力で、一流企業や業界人との合コンも珍しくない。

ただし、それは花形のデパートガールの特権であり、潤奈は内勤なので、男性陣の反応はイマイチ地味だ。

そろそろ妙子の人脈も薄れてきた頃で、合コンのセッティングにしてもなかなか難しくなってきていた。

「今さ、出会いサイトってあるじゃん。それ、見てみようかなあ」

「何それ、パソコン?持ってないから潤奈に任せる~」

妙子はおっとり甘えた声で、賛同した。

「それより、この前のビンゴで当たった映画の券、“踊る大捜査線”だったんだ。誰と観にいこうかなぁ」

「あーあれさ、こんなヒットすると思わないで、室井ファンの私としちゃ、観ないわけにいかないし~。邦画って誘いにくくて、初日に映画館ひとりで行っちゃったっての」

ふたりはたわいもない話をしながら電車に乗り込んだ。





自宅に戻った潤奈は、夜中気付かれないように、親のパソコンを開いた。

検索をかけると、出るわ、出るわ。

目についた出会い系サイトにアクセスした。

「へー、男は有料なんだ?」

男性に望む条件の設定をし、とりあえず掲示板に軽いメッセージを載せてみた。

【合コン相手募集!】

メールアドレスは、パソコンではなくポケットボードのものを入力した。

名前も当然、仮名だ。

「よし」

ひとまず終えると、自室に戻って、ポケットボードを携帯電話につないだ。

「えっ?」

潤奈は目を疑った。

予想だにしなかった量のメールが、ものすごい勢いで受信箱に上がってくるではないか。

ものの数秒で容量オーバーである。

潤奈は慌てて、怪しいメッセージやポケットボードでは見ることが出来ないファイル付きのメールを削除し、職業や年齢や住まいをチェックし、いくつか返信をした。

割合的にはシステムエンジニアと名乗る男性が多いが、中には金融系や医者なんかもいた。

「すごい釣れた」

潤奈は小踊りして、妙子にショートメールを送信した。



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* 第五話 * ~潤奈の場合~ ②

キリがないので、出会いサイトの掲示板掲載を削除したあと、潤奈は届いたメールの数々に丹念に目を通した。


合コンできそうな男性たちとは別に、妙子には内緒で自分だけに合いそうな男性を探してみようと思ったからだ。


やっぱり住まいは近場で。


当然、車を持ってて。


出来れば、実家ではなく。


年収はこれくらいはないと。


エロ全開の人はご勘弁。


全てのメールに目を通し終わったあと、ひとりだけ、潤奈のお眼鏡に適った人物がいた。


【HARU/29歳】


そう表記されていた。


趣味は音楽。


なんとなく合いそうな気がした。


潤奈はドキドキしながら、ポケットボードに向かって、返信をした。


妙子と一緒だという安心感から離れて、少し怖い気もしたが、勇気を出した。


「送信…っと」


画面でコニーちゃんが笑った。






翌朝、早速、潤奈が受信箱をチェックすると、昨夜同様とてつもない数のメールが届いていた。


削除をしいしい、更に受信を続けると、ようやく【HARU】の文字を見つけた。


「やった!」


・・・返信ありがとう。


・・・質問に答えると、俺はよく真田広之とか木村一八に似ていると言われます。


・・・昔、モデルのバイトしてたことがあるから、見た目はそんな悪くないと思うよ。


・・・今もジム通ってるから、腹も出てないし。


「うわー、自信ありそうな人だなー」


若干、引き気味で読み進める。


・・・こんな俺でよかったら、メル友になってください。


「ふーん」


擬似恋愛をするには悪くないかもと潤奈はアドレス欄に【HARU】を登録した。


ふと時計を見ると、出勤時間が迫っていた。


「やばい、やばい」


潤奈は慌てて、マフラーをぐるぐる巻きにし、なんとなく足取り軽く、家を出た。


 ピピピッ ピピピッ


トートバッグからショートメールの着信音が聞こえた。


チラッと画面を見る。


・・・キノウノ ミタ! イシャ ガ ヨクナイ?タエコ


「さっすが、愛は金ですなぁ…」

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* 第五話 * ~潤奈の場合~ ③

その日一日、潤奈は仕事が手につかなかった。


朝の通勤中に電車内で、【HARU】にメールをしたのだ。


職場内は休憩中と言えども、電波が建物内に入らないので、メールチェックが出来ない。


普段から早く帰りたいのは山々だが、今日ほど退勤時間が待ち遠しい日はなかった。


通用口に出ると妙子が待っていた。


「ねー、後輩がさ、テレビ局の人とのパーティーの話持って来たんだけど、どうする?」


「あらー、華やかだねえ」


「なんか笑う犬だかに出てる若手芸人とか来るらしいんだけど」


「へー、でも芸人興味ないし、パス。エレガだけで行ってー」


潤奈は、妙子然り表舞台で男受けする女たちには、少々の引け目を感じていたので、あまりに豪華なニオイのする場は得意ではない。


「そうそう、今日ね」


潤奈はわざと話題を変えた。


「10時に札幌出た飛行機、何時頃に羽田着くかわかる?って電話来てー」


「航空会社に聞けよって」


「でしょ、ワケわかんないよね。調べちゃったけどさ」


当たり障りのない話をしながら、今日は男の話をしないようにした。


話したら、【HARU】のことも喋ってしまいそうだったし、なんとなく後ろめたくもあったからだ。


出会い系で1対1を求めるなんて、いくら妙子にでもみっともなくて言えなかった。


「こっちも相変わらず~。なんで“上でございまーす”って身振りまでつけて呼び込んでるのに、“下?下?”って寄ってくるんだろ。マジでお客うざいよねぇ」


「あー、至近距離でこうやってんだろ!って?」


潤奈は大袈裟に目の前で右手を上に向けた。




 *




潤奈は【HARU】からのメールを受信した。


 ―― よかった、返事来てた。


まるで、恋人からのように心が躍った。


好きな音楽の話題で盛り上がった。


潤奈は80年代の洋楽が好きで、【HARU】はその辺の音楽にとても詳しかった。


仕事の愚痴も書いた。


【HARU】は年上らしく、いつもアドバイスをくれた。


何かオススメの映画はあるかと尋ねてみた。


“真夜中のカウボーイ”が好きだから、今度一緒にビデオを観ないかと誘われた。


いつか会えるといいね、と返事をした。


よかったら電話をくださいと携帯電話の番号が送られてきた。





数日の間に距離を縮めた潤奈と【HARU】は、ついに直接ふたりで会う約束をした。



水曜日。


13時。


新宿タカノの前で。


身長182cm。


真田広之似。


着いたら、電話を。

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* 第五話 * ~潤奈の場合~ ④

新宿の街並はクリスマスの装飾でいっぱいだった。

潤奈は緊張の面持ちで、お昼のアルタ前を素通りした。

冷静に考えると、軽率だったなと思う。

メールでのやりとりでは丁寧で誠実だと感じたが、しょせんは出会い系サイトからの始まり。

いわゆるテレクラがメールになったようなものだろう。

出会いの先には男女の関係が待っているかもしれない。

妙にイケメンなことを期待してしまっているのも否定できない。

実は、それなりにムダ毛の処理なんかもしてきてしまったことに、潤奈自身多少の嫌悪感を抱いていた。

身体が少し汗ばんでいる。

今日は意外と気温が高かったのか、気持ちのせいか。

タカノの前に着き、携帯電話を取り出そうとした時、ひとりの男性が目に入った。

背がスラリと高めで、顔が小さい。

あまりファッションセンスはいただけなかったが、勘で、あれが【HARU】なのではないかと感じた。

向こうも視線に気付いて、目を合わせた。

電話をかけようと親指でボタンを押し掛けた時、その彼が潤奈の前に立った。

「【HARU】…さん?」

と潤奈が見上げると、ニセ真田広之が笑った。

「やっぱりや。そんな気ィしたわ~」

「は、はじめまして」

想定外の関西弁に面食らう潤奈だった。

「とりあえず、中でお茶しよか」

二人はタカノの中へ入った。

【HARU】は、自分で書いていた通りの外見をしていた。

服はともかく、中身はかなり二枚目の部類だった。

出会い系一発目で、大物が釣れたなと潤奈は思った。

聞くところによれば、出身は大阪の端っこで、今は東京で個人事務所を立ち上げたばかりだという。

どんな仕事かは明かしてもらえなかったが、まだ会社勤めだった頃にミュージカル等に携わったことがあるらしい。

芸能関係なのかと、妙子に頼らなくても簡単に華やかな世界とは通じるもんだなと得意になった。

潤奈は紅茶を飲みながら、フルーツパフェをパクつく【HARU】を観察した。

 ―― 7つ上?ちょっとオデコが来てるのはしょうがないのかな。顔がいいんだから、贅沢を言っちゃいけないか。

「この後、どこか行きます?」

「俺な、新宿のジョイポリスまだ行ったことないねん」

潤奈はゲームセンター的な場所は好きではなかったが、任せることにした。

「せっかくやから、デートらしいことしようや」

【HARU】は潤奈の手を握った。





新宿ジョイポリスに入ると、【HARU】は子どものようにはしゃいで、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしていた。

「彼女もおらんと、なかなかこんなとこ来られへんもんなー」

普段だったら、こういうところに来ても、潤奈は傍で見ているだけだったが、今回は思い切っていろいろなゲームに挑戦してみた。

二人で一緒にトロッコを漕いだり、ワニワニパニックに興じたり、それはそれで楽しかった。

「なんや、このアイスー!?」

どうやら甘いものに目がないらしい【HARU】は、ディッピンドッツというアイスに大喜びしていた。

カラフルで冷たいつぶつぶがたくさん入ったカップを持って大の男がニコニコしている姿を見るのも悪くはなかった。

 ―― いい人かもしれないな。

潤奈は漠然とそう感じていた。

「俺な、インターネットで人と会うなんてどないやねんて思ってたんやけど、今日から考え改めるわー」

「え、会うの初めてなの?」

【HARU】はきょとんとした顔を見せた。

「なんで?」

「いやー、慣れてるのかなって…、ちょっと思ってたから」

「あほー、こんなんしょっちゅうやらへんわ。気持ちがもたんよ」

ディッピンドッツを食べ終えた【HARU】は、真面目な顔をしてこう言った。

「君やったから、会いたいって思ってんで」

潤奈はドキリとした。

【HARU】は突然、両手を上に伸ばし、大きな声を出した。

「あーあ、楽しかった。これから何しよか」

目が何かを物語っていた。

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* 第五話 * ~潤奈の場合~ ⑤

隣に座っている【HARU】の体温が、潤奈の腕に伝わってきた。


 ―― どうしよう…。


「い、今何時かな」


動揺を隠せずに、潤奈は立ち上がった。


「カップ捨ててくるよ」


【HARU】の手から空になったディッピンドッツのカップをとると、近くのゴミ箱に捨てた。


多分、このままだと身体の関係を迫られるのだろうと感じている。


今日会ったばかりの人と、このあと。


異変を察知したらしい【HARU】は、潤奈の手をとって引いた。


「カラオケ行けへん?」


そのまま【HARU】はエスカレーターの方へと向かって歩いていった。


「音楽好きなんやろ?歌声聴いてみたいし」


「う、うん、カラオケね、いいよ、行こう」


ホッとして、ノリノリで応じた。


心の中を見透かされたようで、潤奈はとても恥ずかしかった。


「よし、決まりな。カラオケのある個室でええよな」


「そ…、そうだね、カラオケカラオケ」


下りのエスカレーターに足を乗せる。


一人のスペースでいっぱいになってしまう幅のないエスカレーターを二人は前後になって下っていった。


前に乗った潤奈の首筋に冷たい感覚が走った。


「首、細いな…」


背後から首に触れた【HARU】の両手を潤奈の右手が押さえた。


「きゅってすぐ絞まっちゃいそうな細い首…」


全身をゾワっと何かが駆け巡った。







外に出ると、もう辺りは薄暗くなっていた。


街中はイルミネーションで輝いている。


【HARU】は、ずっと潤奈の手を離さなかった。


華やかなのに埃っぽい新宿の裏路地を進んだ。


「この辺にあったかなー、カラオケのある部屋」


握っている手に軽く力が入った。


潤奈はそこで初めて気付いたのだ。


 ―― あ、ホテル、探してる…?


さっきはあまり深く考えずにカラオケだということしか頭になかった。


「ここあるか聞いてくるわ」


【HARU】は、白いキレイめなラブホテルの受付に向かった。


手は離してくれない。


「どうする?ここはカラオケないんやって」


「じゃ、じゃあダメだよ、歌いに行くんだから」


潤奈はそう答えるのが精一杯だった。


腰が引けているのは自分でもよく分かるが、今更帰るとは言い出せない。


さっき触られた首の感覚が蘇った。


「向こうにカラオケボックスいっぱいあるんじゃない?」


途端、黙れと言わんばかりに、潤奈の唇が塞がれた。


「こういうことがしたくて今日来たんやろ?」


【HARU】の声のトーンが低くなっていた。


強めの口臭がした。


潤奈は思考が停止した。


怖かった。


周囲を行き交う人々は、そんな二人に目もくれない。


「さ、こっちはどうやろ、おばちゃーん」


少し歩いたところにあった古そうなホテルのおばさんに【HARU】は気さくに声をかけた。


「そうそう、カラオケないと駄目やねん」


あまりのボロ加減に潤奈は逆に圧倒されていた。


 ―― こんなところで…?


だったら、カラオケだなんていう建前にこだわらずに、さっきのキレイなホテルに入っておけば良かった。


少しズレた後悔をしていると、手をグイと引っ張られた。


「あるって、カラオケ」


狭い階段をギシギシ言わせて昇った。


昇りきったすぐ脇には引き戸が少し開いた部屋があり、数人の若者がガヤガヤと騒いでいた。


連れ込まれた部屋の鍵も閉まるのか閉まらないのか、怪しい。


とんでもなく狭く汚い部屋には間違いなくカラオケのセットがあった。


用意された時代遅れのカラオケの歌本を申し訳程度にパラパラとめくった。


部屋の戸を閉めても、先ほどの若者たちの声が少し聞こえる。


「ちょっと待って、こんなところでカラオケなんか歌えないよ」


ここでマイクを使うのは憚られた。


「じゃ、やめよか」


【HARU】の腕が潤奈の肩に伸び、そのまま病気になりそうなベッドに押し倒された。


 ―― 今日、人と会うって、妙子に言っておくんだったな…。


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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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