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* 第十壱話 * ~杏子の場合~ ⑫

バイトから自宅へ戻ると、ちょうど杏子の部屋のファックスから白い紙が吐き出されているところだった。

「…あ、毅からだ」

文字を見てすぐ分かる。

文面にはしっかりとした文字が、いつになく長々と綴られていた。

読み進めて、杏子は全身の力が抜けた。

「そんな…」

そこには、こうあった。



…お前は最低だな。

…俺を理由に別れるとかやめてくれよ。

…迷惑だ。

…斉藤君に電話したら、出てくれなかったよ。

…おかしいなと思って、芳野君に聞いたら、俺のせいだって言うじゃない。

…お前が誰と付き合って、どう別れようが勝手だけど、俺を巻き込まないでくれ。

…自分が何をしたわけじゃないのに友達としていられなくなるなんて、冗談じゃない。

…悪いけど、お前としばらく距離をおくことにする。

…二度と俺に関わるな。



「ああ…、どうしよう…」

口を開いたら、杏子の両目からどっと涙が溢れた。

あとからあとから頬を、顎を伝い、落ちていく。

「も…だめだ…」

印字された有野の文字が脳内を駆け巡る。

…距離をおく

その言葉が胸に突き刺さった。

有野に会えなくなるかもしれない。

もう声すら聞けなくなるかもしれない。

自分の居場所はただ一つ、有野の隣しか望まなかったのに。

杏子自身のエゴで、最も大切な人を傷つけてしまった。

ひどい理由で斉藤に別れを切り出した。

そのことで斉藤を傷つけても、大して痛まなかった杏子の心が、今ズタズタになった。

 ― 毅を怒らせてしまった。

何よりも恐ろしいことだった。

有野が好き過ぎて辛くて、斉藤に逃げた自分の過ち。

やっぱり無理だと自分の心に正直になったら、有野が杏子の手の内から逃げていった。

杏子は、全てを失ったと感じた。

…距離をおく

もう有野の傍に居られない。

嫌われてしまった。

杏子は泣きじゃくった。

どこにこんなに涙があったのだろう。

しゃくりあげ続けて、息苦しい。

 ― このまま消えてしまいたい。

そう思った瞬間、杏子は決心をし、机に向かった。

 ― 毅に全ての思いをしたためよう。

杏子はペンを取ると、有野宛てに手紙を書いた。

申し訳ない気持ちと、努力では消せなかった恋心と、これから杏子に対して有野が望むこと、それを二枚の便箋に綴った。

明日は一日休みだ。

部屋を掃除して、思い出を処分するつもりだ。

そして、最後に、この手紙を送信する。

「ごめんね、毅…。私、いなくなるから…、許してね…」

有野のいないこれからの生活は、杏子にとって、何の希望も見いだせなかった。

杏子は、いわゆる遺書になるであろう、それを読み返して、また泣いた。

窓の外に小雪がちらついていた。

夜は更ける。



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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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