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* 第十壱話 * ~杏子の場合~ ⑩

斉藤と杏子が付き合いだしてからも、以前と同様に有野と三人で会う時が続いていた。


斉藤抜きで、有野と杏子が二人で遊びに行く日も変わらずあった。


杏子は、そのスタイルでいいと思っていたし、斉藤も分かってくれているのだと思っていた。


今夜はクリスマスイブ。


バイト後、斉藤の部屋に杏子が一人で来ていた。


ケーキを食べた皿を片付けたあと、流しで振り返った斉藤が立ったまま、重い口を開いた。


「…あのさ、キョンはどうして、有野君と一緒に俺んちに来たり、二人で帰っていったりするの?」


ボーッとテレビに向かって、ゲームをしていた杏子は、あまりの驚きに手元が狂った。


「おかしくない?」


「そう…かな。毅とはいつも一緒にいたから、あんまり気にしてなかった」


「ちょっと、それ止めて」


斉藤が近づいてきて、テレビの電源を切った。


「俺はちゃんとキョンと付き合いたい。二人きりになりたい。お互い、好きだから付き合ってるんだろ」


あまりにストレートで、思わず杏子は赤面した。


「有野君が一緒にいたら、俺ら、手も繋げないんだよ?」


 ― そっか。付き合うって、そういうこともあるんだよね…。


杏子は当たり前のことに今気付いた。


というより、正直なところ、向き合わないように避けてきた事柄であった。


「分かってる?今日が、この部屋で俺とキョンが二人きりになった初めての日だって」


「あー、言われてみれば、そうかも」


「そうかもじゃないよ」


斉藤は、ワンルームの隅にある冷蔵庫から缶ビールを二本出してきた。


すっとソファの隣に腰を降ろすと、それを杏子に渡した。


 ― こうやって、隣に並んだことすらなかったな…。


プルタブを開けると、プシュッと良い音がした。


チラッと斉藤に目をやると、ゴクゴクと喉仏が動いている。


顎のラインから首筋にかけてクッキリとした線が見える。


着古したトレーナーを捲り上げたその腕は、たくましかった。


 ― ああ、男の人なんだな。


杏子は改めてそう思った。


その瞬間、杏子の中で急に手足がキュッと縮むような緊張感が走った。


 ― 男の人…。


ローテーブルに缶ビールを置く。


斉藤の手が杏子の肩にまわった。


 ― 違う。


引き寄せて、斉藤の顔が近づいた。


 ― 違う。


「だめ…」


杏子は身をよじった。


「そういうことするんだったら、私、帰る」


「キョン!?」


杏子は上着と鞄を抱えると、玄関に急いだ。


「ちょ、待てよ」


斉藤が追いかけてくる。


「どうなの?それって。俺たち、キスも出来ないの?」


杏子の後姿に投げつけてくる斉藤の疑問。


もっともだと思う。


早く出て行きたいのに、ブーツを履くのに手間取った。


「ねえ、本当に帰るの?俺、プレゼントも用意したんだよ」


斉藤が肩に手をやり、杏子を振り向かせようとするが、頑として受け付けなかった。


クリスマスプレゼント。


杏子の鞄の中にも、斉藤のために用意したプレゼントが入っていた。


 ― 毅と一緒に選んだプレゼント…。


杏子がようやく振り返った。


表情は固い。


「別れる」


「は?」


「プレゼントもいらない。私も渡さないから、そっちも勝手に処分して」


「おまっ、ちょっと…、ふざけるのもいい加減に」


バタンッ。


杏子は後ろ手に玄関のドアを閉めた。


息が上がっている。


吐く息がすぐさま白くなった。


「もう…、嘘はつけない」


声にならない声で呟いた。


 ― 斉藤君は…、毅じゃない…。




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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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