FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

* 第十壱話 * ~杏子の場合~ ⑦

二人は店を出、飲み屋の喧騒から少し離れた。


「…浩太さん、もう戻って」


芳野が杏子を見た。


「私、今日はこのまま帰るよ。あのー、斉藤君に帰ったって伝えておいてもらえます?」


芳野の眼鏡の奥が少し曇った気がした。


「斉藤に?」


「うん…、今日、家泊めてもらう予定だったんで」


 カンッ…、カン。


芳野は転がっていた空き缶を思い切り蹴った。


甲高い音が響く。


それは、飛んだ先で電柱にぶつかって、コロコロと転がった。


杏子は少し殺気を感じた。


「あのさー」


芳野の口調は明らかに怒気を含んでいた。


「好きになるかもってさー、もう斉藤んちに泊まるとかってなってんの、どういうこと?」


「え?浩太さん?」


芳野が杏子の腕を掴んで引っ張って、向かい合わせになる。


「俺さ、ずっと我慢してきたんだけど、ちょっと言わせて」


杏子が怯えた目で見つめる。


「キョンが、有野のことを好きなのはしょうがないよ。あんまり良い影響ではないにしろ、アイツにはキョンが必要なところもあるし」


掴まれたままの腕に力が入る。


「俺、報われないキョンのことずっと見てきた」


「…はい」


「有野とキョンをずっと…。お前がどれだけ辛い片想いしてるかずっと見てきたよ」


パッと腕を離された、その瞬間、杏子は芳野に遠くに突き放されたような錯覚があった。


「…俺の片想いにも気付けよ」


芳野は眼鏡を外すと、その手でぐいと顔をぬぐった。


「なんで?…なんで、俺をスルーして、斉藤んとこ行くんだよ…。なんで、無理に斉藤を好きになる努力してんだよ…」


「浩…?」


「安っぽいことしてんじゃねーぞ!」


そう強く言い放った芳野は、くるりと後ろを向いて、店に戻っていった。


ポツンと取り残された杏子の頭は混乱するばかりだった。


芳野の気持ちは知らないでもなかった。


だが、ずっと見守ってくれているお兄さんとして接してきた。


気付かぬフリをしてきた。


それ以上の気持ちを受け止める自信も度量もなかったし、杏子は有野のことで精一杯だったから。


ただ、何かが芳野のスイッチに触れたらしい。


均衡が破られてしまった。


 ― だけど、浩太さんの気持ちには応えられない…。


杏子はギュッと拳を握って、俯いた。


「キョンちゃん!」


少し離れたところから声がして、杏子はハッと我に返る。


異変を察知したらしい斉藤が店から出てきたのだった。




人気ブログランキングへ

プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

検索&ランキング
参加しています。
にほんブログ村 小説ブログへ 人気ブログランキングへ
よろしくどうぞ。
カテゴリ
最新記事
Twitter
リンク
このブログをリンクに追加する
MicroAd
CHECK IT!
RSSリンクの表示
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。