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* 第二十話 * ~慶子の場合~ ⑯終

「俺…、人殺し…なのか?」


翌朝、自分の起こした事故の詳細を知った永治の狼狽ぶりは半端じゃなかった。


人を死なせてしまったという事実。


目に見えて食欲が落ち、夜は眠れない。


クッキリと隈が出来、頬はこけ、口数も少なくなっていた。


運転中の携帯電話の使用、信号無視、挙句の人身事故と物損事故…。


状況から見て、罪を逃れられるような点は微塵もない。


永治は自らの過失を素直に認め、全ての交渉を保険会社等の第三者に任せ、結論に従った。


一週間で退院出来た永治は、慶子と共にその足で各被害者宅へ向かい、謝罪して回った。


「本当に、申し訳ありませんでしたっ!」


心労でフラつきながらも、土下座せんばかりに頭を下げて回る永治。


その姿を目の当たりにした慶子は、いろんな意味でショックを受けた。


自分の夫が、誠心誠意、全身全霊をかけて、謝罪し、許しを乞う。


本当に後悔し、反省していなければ、出来ない行動だった。


これまでの慶子を顧みて、今回の事故を一歩引いた立場でしか見ていなかったことに気付いた。


当日に、輝元たちのいる病院に謝りに行った慶子は、謝罪など表向きの行動だっただけで、自分も被害者だという意識が深層心理としてあったのかもしれない。


まるで理解出来ていなかった、関わった人たちの苦しみ…。


開き直った慶子に怒りをぶつけた詩真。


美園ちゃんの前で、静かに嗚咽した輝元。


全ての非を背負い、懺悔の日々を送る永治。


悲しみを受け止める人の姿勢の意味。


ようやくそれを知った慶子は、自分自身の心の甘えを恥じた。


 ―― 私が永治を支えないで、誰がやるっていうの!?


意を決して、断られていた鈴木家へも同行した。


永治は、慶子と鈴木家の関係を知らない。


自宅に一人でいた輝元は、玄関先で永治と並んで頭を下げる慶子を一瞥した。


しかし、存在はないものとして、隣の永治と会話を交わした。


美園ちゃんは既に荼毘に付され、納骨も終わっていた。


焼香は断られ、香典も頑なに受け取ってはもらえなかったが、治療費や慰謝料の話は弁護士同士で話し合いが進んでいるとのことだった。


「奥様は…?」


永治が尋ねると、輝元は暗い表情で軽く首を横に振る。


「妻は、精神病院に入院しています」


慶子の胸が痛んだ。


輝元が気丈に続ける。


「ちょっと気持ちが遠い世界に行ってしまってますが、僕がずっと側にいるので大丈夫です」


「…そうですか」


肩を落として帰ろうとした永治を輝元が呼び止めた。


「山本さん」


永治が情けない目で輝元を見上げる。


「お子さんは、いらっしゃいますか?」


「いいえ、まだ…」


敢えての輝元の問い掛けに、慶子はドキリとした。


「もし…」


輝元は目を伏せ、二の句を継ぐことを迷っているようだった。


きゅっと唇を噛んだ後、視線を上げる。


「…もし、…お二人にお子さんが授かった時は、うちの美園の分も可愛がってあげてください」


そう、一気に告げた。


輝元の口調は厳しかったが、永治と慶子にとって、この上なく優しい言葉だった。


「はい…、はい…、必ず…」


永治は、頭を深く深く下げながら、その言葉を噛み締めていた。


ガチャリと玄関の扉が閉まる。


それでも、二人は顔を上げられなかった。


涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっても、そこを動けなかった。


重い、…重い言葉だったから。










 *









 ―― 近い将来。


慶子は、永治との間の赤ちゃんを腕に抱くことになる。


 -終-

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Comment

cdoor | URL | 2008.10.28 11:37
「いい加減にやる」
「めんどくさがる」
「やる気が起きない」
「人と比べる」
「人をうらやむ」
「人にこびる」
…こんな気持ちのとき、事故が起きます。

みんなが悲しいことになるのだけは
何としても食い止めねば…。
ひとつひとつの考えや動作を
丁寧にこなそうとする気持ちや態度がとても大切。
そんな“着実さ”が幸せの基本かな?
香月 瞬 | URL | 2008.10.28 11:38
■いつもありがとうございます

>cdoorさん
いいですね。
幸せの基本。
私も見直したいです。
如月  凛 | URL | 2008.10.28 11:39
■無題

こんばんは!お久しぶりです。
慶子の場合、一気に読ませていただきました。
短編の中に余計なものをそぎとって、4者4様の立場や想い、変化する気持ちがつまっていましたね。
元カレ輝元が娘を失って初めて大事なことに気がついて。
永治に最後にかけた言葉は清々しかったです。
慶子の苦悩は女なら理解できるもので、醜い本音でも真にせまり共感できるものでした。
不妊治療は長くなると夫婦のあり方を根っこから揺さぶるものです。
最後に妊娠できて良かった(*v.v)。
香月 瞬 | URL | 2008.10.28 11:40
■うれしいです

>如月  凛さん
どうやら、この話でかなり神経すり減らしたらしく、今、脱け殻状態です。
慶子に共感していただけたなら本望です。
ありがとうございますm(__)m
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香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
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