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* 第十話 * ~武彦の場合~ ⑤

「ゲホ、ゲホッ」


「おはよーございまーす、ちょっとぉ、久保さん、大丈夫っすかぁ?」


あのあと品川から会社に直行した俺。


どうやら前の晩、雨に打たれたせいか、裸で一晩過ごしたせいか、咳が止まらない。


生放送の担当で、スタジオにいなきゃいけない。


なるべく隅っこで、タレントはもちろん、音声さんやマイクに近づかないようにした。


みるみる具合が悪くなる。


最初は立っていたが、ちょっと辛くなってきたのでディレクターチェアを引っ張り出した。


本番が始まって数分。


ピピピピピ。


胸ポケットの中の携帯電話がけたたましく鳴った。


「やべ」


ボーッとしていて、サイレントモードにし忘れていた。


慌てて、携帯を止める。


俺としたことが、なんて初歩的なミスだ。


チラっと携帯画面を見ると【大隈妙子】と出ていた。


「ちっ…」


思わず、舌打ちしてしまった。


無視して、本番に集中する。


背中からゾクゾクと寒気が襲ってきた。


反面、額からは脂汗が流れ行く。


ADが気付いて、声をかけて来た。


「久保さん、顔色悪いですよ。休まれた方が…」


俺は、ADを手で制して、スタジオの様子に集中した。


椅子に腰掛けたまま、前のめりに腿に肘をついた体勢で、じっと司会の男性アナウンサーと女性タレントのやりとりを眺めていた。


 ―― あと20分で終わる…。


さっきから、何度も俺の胸ポケットが緑色に光っていた。


集中。


集中だ。


集中しろ。


「はい、オッケーでーす」


スタジオ内に声が響く。


「おーっし、お疲れ」


スタジオに入ってきたプロデューサーが俺の背を叩いた。


「!?」


汗がぐっしょりと染みた背中にプロデューサーがビックリしたように手を引いた。


「おい、…おい、久保!」


プロデューサーの声が耳の奥で響いていた。


俺の視界は反転した。





 *





そのまま倒れた俺は、数日、自宅療養となった。


過労で身体が弱っていた上に性質の悪い風邪をひいた。


喉は真っ赤に肥大し、声が出なくなった俺は休むしかなかった。


住まいは横浜だったが、実家のある藤沢に帰った。


たまにゆっくりするのも悪くない。


こんなに連続で会社を休むのは入社以来初めてのことだった。


それほど、テレビの世界は忙しい。


スタジオ収録、ロケハン、取材、企画会議、反省会、打ち上げ、編集…。


熱も下がり、明日から出勤しようという日。


俺は久々に海岸を走った。


昔は、行き詰ると海に来て、筋トレをしたり、ひたすら砂の上を走ったものだ。


不規則な生活で、かなり身体には肉がついてきていた。


傍目に動きは悪くないが、自分で全身が重く感じる。


例えるなら、プロレスラーの橋本真也のような体型になっている。


「いかんな…」


病み上がりでもあったし、少し走っただけで、息が上がる。


俺は、思い切って、砂浜に寝転んだ。


仰向けになって、暮れかけている空を眺める。


「疫病神…」


心が弱気になっていたのか、そんなことをつぶやいて、妙子を思った。


倒れた日からもずっと一日一回は携帯が鳴る。


電話には出ていない。


たまに留守番電話にメッセージが入っていた。


 …今度、いつ会えますか?


俺は、ふと妙子に話した女のことを思い出した。


昔、高飛車な態度に腹が立って、水をぶっかけた、あの女だ。


 ―― あれくらい強気でいてほしいよな。


何を思ったか俺はその女に電話をかけ、数分後には会う約束を取り付けていた。



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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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