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* 第九話 * ~妙子の場合~ ⑦終

二人の乗った車は、空いた道路をスイスイと妙子の自宅方面に向かって進んでいた。




妙子は、このまま別れるのが、寂しいと感じている。




久保は信号待ちなど、事あるごとに「疲れた」と口にした。




「どこか、休めるところないかな」




「もう着きますからー」




妙子はかわしていたが、久保の言葉の裏にあるものを敏感に感じ取っていた。




さっきから何軒ものファミレスを通り過ぎている。




言葉通りの意味なら、妙子もこう答えればいいのだ。




「そこのファミレスでお茶でもしましょうか」




その簡単な台詞が言えない。




何故なら、妙子は久保とまったりお茶などしたくないからだ。




妙子も久保も、そんなことは望んでいない。




二人は、今すぐにでもセックスをしたい、ただそれだけだった。




「あ、うちの近くになっちゃうけど、横になれるところありますよ」




妙子は意を決して言った。




「マジで?そこ連れてって」




久保は、多忙な仕事の合間にこうやって妙子と会って、お酒も飲んでいて、長距離を運転して、だから疲れているんだ、明日も早くから仕事の彼を早く休ませてあげたい。




そう、妙子は自分に言い聞かせていた。




「そこ、右折するとありますから」




曲がった先には、平日の深夜だけあって、【空室】という文字が煌々と光っていた。




久保は何も言わずに、長めのカーテンをくぐり、停車させた。




さびれた薄暗い受付には、いくつもの部屋の写真が明るく映っていた。




「お、安っ」




久保は、休憩/宿泊の料金を見て、あまりの格安さに驚いている。




普段はシティホテルや、せいぜい都心の高くて綺麗なラブホテルにしか行かないのだろう。




妙子だってそうだが、もはや金なんかどうでもいい。




細長くて透明のごついキーホルダーがついた鍵を受け取ると、二人はエレベーターに乗った。




「そういえば、妙ちゃん、エレガなんだよね。違う支店だったけど、この前、取材行ったよ」




「あ、そうだったんですか?」




これから交わる二人におおよそ相応しくない何気ない会話をしながら、二人は部屋に入った。




部屋は意外と広く、清潔であった。




エアコンもよく効いていて、寒いくらいだ。




シャワーを済ませて出てきた妙子を、半裸の久保はベッドの上に腰掛けて待っていた。




タオル一枚の妙子の手を引き寄せる。




久保は自分自身を妙子に見せた。




臍についてしまうほど、元気にそそり立った太いものを見て、妙子は生唾を飲む。




二人はもつれるようにベッドに倒れ込んだ。




汗ばむ肌が吸い付くように触れ合う。




規則正しい振動に、妙子は自分でも信じられないくらいに声が出た。




自制できないくらい、気持ちが良かった。




小デブだと軽蔑していた昨夜が嘘のように、久保の身体の重みが愛おしい。




二人は本能のまま求め合い、短時間に何度も何度も愛し合い、ホテルを出た時には深夜三時をまわっていた。



真っ暗で静かな住宅街を進み、自宅近くで降ろしてもらう。




いつのまにか。




たった一日で。




久保のことを狂おしいくらいに好きになっていて、ドアを閉めた途端に妙子は泣きそうになった。




「じゃ…」




久保の車は、大音量を響かせて暗闇に消えていった。




 ―― もう、きっと、会えない…。














 *














翌朝、だるい身体を振り切って、目を覚ますと、熱いシャワーを浴びた。




たった数時間前まで、久保と一緒だったのに。




妙子の体内には、まだ久保の温もりと形が残っている気がする。




 ―― 私としたことが。こんなに簡単に寝ちゃって…、もう興味ないだろうな。




身体をバスタオルで拭きながら、深い溜息をつき、自嘲した。




自室に戻って、ふと携帯電話を見ると、メッセージが入っているマークが目に付いた。




「?」




留守番電話。




時間は明け方だった。




『妙ちゃん、さっきはありがとう。今、家についたところ。着替えたらすぐ会社に向かいます。俺は仕事柄、なかなか連絡が出来ないし、なかなか会うこともできないと思う。だけど、これっきりで終わりには絶対しないから。不安だろうけど、待っててほしいんだ。…じゃ、仕事、頑張れよ』




久保からのメッセージだった。




別れ際に我慢した涙が今になってこぼれた。




信じられなくて、何度も、何度も、再生した。




切なくて、苦しくて、だけど嬉しくて…。








 -終- (次回、武彦の場合に続く)


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香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
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