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* 第九話 * ~妙子の場合~ ⑤

翌日。


昼前に起床した妙子は、えもいわれぬ憂鬱感にとらわれていた。


ベッドの上に転がりながら、昨夜もらった久保の名刺を眺める。


「はぁ…」


出るのは溜息ばかりだった。


まったくタイプではない男、久保。


二人きりで会うなんて大丈夫だろうか。


昨夜のあの調子でパカパカと頭をはたかれるのかと思うとゾッとした。


 ―― プライドは高そうだったからなぁ。断って、恨みを買うのも嫌だし。


いろいろ断る口実を考えてはみたが、なかなか良い案は思いつかなかった。


「行くしかない…か」


脚から大きく反動をつけて、一気に上半身を起こした。


 ―― とりあえず、お金はありそうだし。私にどれだけ使ってくれるのか見てみよう。



 *

 


夕方、17時をまわっていた。


妙子は、とっくに表参道の富士銀行の前に到着していたが、久保の姿はなかった。


着いた時点で久保の携帯電話に数回かけていたが、呼び出し音が鳴るばかり。


妙子は当然おかんむりである。


とりあえず、もう一度電話をかけてみる。


 ―― これで出なかったら、帰るっ!


「もしもし、妙ちゃん?」


やっと久保の声が受話器の向こうに響いた。


「あの、もういるんですけど」


腹立たしさがどうしても声に出てしまう。


「ごめん、もう着く。ちょっと仕事が時間通りに終わらなかったのよ」


「暑いし、もう帰りたいんですけど、いいですよね」


「ちょちょちょ、待ってって。もう交差点に差し掛かるから」


思わず、え?と顔をあげる。


「車で来てんのよ。シルバーのレグナム、わかる?あ、俺、妙ちゃん見つけた」


「レグナム…ですか?」


車種を言われたところで、皆目見当がつかない。


「今、信号で止まってるから」


ピンクのシャツの久保が、妙子の目に入った。


「あ…。わかりました、今、そこ行きます」


電話を切って、慌てて信号待ちで停まっていたレグナムに駆け寄った。


久保は運転席から身体をのばして、助手席のドアを押し開けてくれた。


「乗って、早く」


妙子が身体を車内に滑り込ませた途端、信号が青になった。


「おー、セーフ。ごめんね、遅くなって」


怒っていたはずの妙子だったが、なんだか今のドタバタですっかりどうでもよくなっていた。


「ふーん、今日は随分ラフな格好なんだね」


久保に指摘されて、妙子はシマッタ!と思った。


張り切って会いに来たと思われたくなくて、ちょっと襟ぐりの開いたカットソーとデニムで、サンダルをつっかけてきたような…「あえての」ご近所ファッションで来たのだ。


「お休みですからね」


TPOの分からない女だと思われただろうか…。


「お腹すかせてきた?」


久保は昨日と少し違う優しいトーンで、真剣にハンドルを握っていた。


「代官山にね、この間取材に行ったレストランがあるんだ」


「取材?」


「そう、俺ね、今、情報バラエティの担当だからさ。多いのよ、お店の取材とか」


気軽に入れるお店だったらいいが、やっぱりデートらしいフェミニンな装いをしてくるべきだったかと、妙子は心底後悔していた。


「取材の時に感じ良かった店はね、プライベートでも必ず行くんだ。御礼も兼ねて…」


 ―― 意外と真面目な人なのかしら。


到着したお店は、カジュアルなダイニングバーといった風情だった。


まあ、友達と来たと思えば、この格好でもセーフであろう。


少し外観も内装もお洒落過ぎて、気後れしたが、内心「なかなかやるじゃん」と思っていた。


久保は店長に軽く挨拶をすると、オススメのメニューを一通り頼んだ。


「ダメなものあった?」


「いえ、大丈夫です」


かなりリードするタイプらしいと感じた。


妙子は、いつのまにか久保のペースにハマっていた。


久保は自分ばっかり話をしていたが、喋っている内容は面白くて、聞いているだけの妙子も飽きはしなかった。


選んでくれた料理もお酒も美味しかったし、一緒にいて楽しいなと素直に思った。


小さなテーブルを囲んで、向かい合う妙子と久保。


こうしてまじまじと見ると、体型はともかく、意外と顔は凛々しい。


テーブルの下では、二人の膝頭と膝頭がずっと触れ合っていた。


膝から久保の温もりが全身に伝わってきて、妙子はドキドキしていた。


 ―― 酔った…かな。


「ちょっとゴメンナサイ…」


妙子はお手洗いに立った。


鏡の前で化粧直しをしながら考えた。


昨夜のあれはなんだったのだろう。


あんなに印象最悪だったのに。


逆に、昨夜は妙子を気に入ってくれた久保だが、今夜は気に入ってくれないかもしれない。


漠然とそんな不安さえ感じる変化に、妙子自身が驚いていた。


ホールに出ると、久保はカウンターの中の店長と話をしていた。


戻ってきた妙子に気付いた久保は、「また来ます」と会釈した。


「じゃ、妙ちゃん、行こうか」


久保が出入り口の扉を押す。


外に出てから、妙子は鞄の中の財布を探りながら聞いた。


「あの…、お支払いは…?」


野暮だった。


「済ましたよ。心配しないで」


 ―― いつのまに…。


「あの…、ごちそうさまです」


「うん」


久保はニッカリと笑って、スタスタと車に向かった。


 ―― スマート!!!


妙子は、少し感動していた。


そりゃ、会計は男に払ってもらうのが一番である。


払ってくれる男は沢山いるが、「次に出してくれればいいよ」だの、何か一言つくのが常だ。


それが、支払いの姿すら見せないなんて。


割り勘だなんて論外という考えの妙子にとって、恩着せがましくない久保のご馳走する態度はとても新鮮だった。


妙子はスキップまじりに久保の後を追った。

 


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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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