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* 第九話 * ~妙子の場合~ ④

お開きになって、出口へ人の流れができる。


始まったばかりは知らない男女だった大勢の人たちが、今は楽しそうに、名残惜しそうに、言葉を交わしている。


何人かの人に二次会に誘われたが、妙子はそれを断り、そのまま帰途につくことにした。


明日も休暇をとっている妙子は、参加できないこともなかったが、今夜はもう充分だろう。


潤奈や杏子は、それぞれ自分がいたテーブルの皆さん方と別の店に流れるようだ。


玄関前で何人かとどさくさに写真を撮ったりしたあと、あまり目立たないように、妙子は六本木駅へと向かった。


盛夏の夜はムッした熱気に包まれ、じっとしていても汗が出る。


ネオンや嬌声が相まって、異国のような街と化していた。


そんな雰囲気から抜け出したくて、行きとは違い、さっさと涼しい場所へ入ろうとスタスタと早足で歩いていた。


「おい、待てよ」


後ろから男性の声がする。


妙子は自分に言われているとは思いもしなかったので、そのまま早足を緩めなかった。


「待てって」


急に道を抜かされバッと行く手を塞がれた。


「きゃ」


ぶつかりそうになって止まると、久保であった。


「もう帰るの?」


「はい、家が遠いので」


妙子はそっけなく答えた。


久保は妙子に並んで歩き出す。


振り切りたかったが、ミュールではそうそう早くは歩けない。


「明日、会えないかな」


久保の唐突な言葉に思わず妙子の足が止まった。


「はい?」


素っ頓狂な声を出してしまった。


が、再び、地下鉄駅の階段を下り始めた。


「俺、明日の午後休みなんだ。会社の休みなかなか取れないんだ。明日しかないから。妙ちゃんは仕事?」


久保は必死に食い下がってくる。


「いやぁ、休みですけど…。一応、予定あるし」


「そんなの、いいよ。俺と会おう。夕方、表参道まで出るから」


「急に困りますって」


妙子は心底迷惑に思った。


そもそも、そんなラフな格好で、小デブで、粗野で、自分勝手な男と二人きりでなんて会いたくない。


妙子は黙って、切符を買った。


「ね。さっきの名刺に書いてある携帯に電話してくれればいいから。俺、ホント、明日しかないんだ」


懇願に近い久保の言い方に、少し憐れになった妙子はわざと大袈裟に溜息をついてから答えた。


「わかりました。じゃあ、明日の予定はキャンセルします。表参道のどの辺に行けばいいですか?」


「青山通りとの交差点。富士銀行の前に17時で」


久保はニッカリと笑った。


妙子は改札を抜けた。


向こう側にいる久保に営業スマイルを返し、バイバイと軽く手を振った。


 ―― あー、めんどくさい!!!


明日になって電話で断ればいいかと軽い気持ちで受けてしまったが、心は既に萎えていた。


すぐにホームに滑り込んできた日比谷線に乗り込んだ。


 ―― なんだって、あんなに気に入られちゃったんだろう…?


汗と埃と酒で臭い電車内にも滅入る。


妙子の全身にどっと疲れが押し寄せてきた。



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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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