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* 第二十話 * ~慶子の場合~ ⑮

「所謂二人目不妊ってヤツで。俺もせっつかれて、よくウザがったもんだよ…」


輝元は、ベッドに横たわっている美園ちゃんの遺体を見つめながら、話していた。


「たまに上手く着床しても報われずに、ことごとく流れてさ。詩真は、ぬか喜びってのを散々味わって…」


「そう、だったの。私、知らなくて…」


慶子の言葉を遮り、輝元は続けた。


「そう考えるとさ、お前は、奇跡の子どもだったんだなあ…」


美園ちゃんに向かって震える声で投げかけるように言うと、目頭を押さえた。


「詩真は…、あいつは…、美園の事故死で…、三回も我が子の死を体験したことになるんだ…」


慶子は息苦しくなった。


「俺、…俺さ、今日、美園を亡くして初めて、詩真の気持ちが分かったんだ」


立ち上がって、美園ちゃんの身体をシーツの上から、そっと触る。


「…情けないけど…、俺には流産の辛さなんか他人事でしかなくて…。恥ずかしいよ……、やっと今日、彼女の痛みや苦しさを知るなんて…」


輝元がボロボロと涙をこぼして、泣いている。


慶子にとって、初めての光景だった。


「…みそ…の…」


輝元の涙が、次々とシーツに新しい染みを付けていく。


 ―― 私は、自分のエゴで…。


大の大人の男性が、背中を丸め、しゃくりあげて泣いている姿。


失言に対する後悔の念は、益々慶子の心をえぐった。


「詩真は、もともと心が弱かったけど、流産してからは、更に精神的に病んじゃってて」


リストカット騒動やらで、昔、散々詩真に振り回された慶子には、その様子が目に見えるようだった。


「本音言うとさ、なんで、こんな面倒な女と結婚しちゃったんだろうって。自業自得だったけど、あの時、慶子を裏切って、詩真に手を出したこと、今まで何回も後悔した…」


輝元が手で何度も涙を拭う。


「勝手だろ?…いらないって思ってたんだぜ…?」


「……」


「でも、俺、もう、誰も失いたくないよ…」


ギュっとシーツを拳で握る。


「だから…、決めたんだ」


背を向けていた輝元が、ゆっくり慶子の方へ向き直る。


「これから一生、俺が詩真を守り抜く」


慶子にとって、ガツンと殴られたような衝撃だった。


「あいつ、俺がついてないと、多分…今度こそ本当に、死んじゃうから…」


そう言うと、決心したように、扉の方へ向かって歩き出す。


慶子も慌てて立ち上がると、輝元を追った。


病院の外に出る。


先を歩いている輝元の背中は、すごく、遠かった。


「あの…」


輝元が歩みを止めて、ひとつ深呼吸をした。


「主人が退院したら、また…一緒に謝罪に伺うから…」


くるりと振り返った顔には、もう涙はなかった。


「君は、もう来ないで」


「え?」


「慶子は当事者じゃない…。あとはご主人と弁護士と保険屋とで話をする」


キッパリとした口調だった。


「もう二度と…」


最後の言葉を濁すと、輝元は病院の中へ戻っていった。


慶子は、ただ立ち尽くすしかなかった。





 ―― 私は…、許されない…。





月明かりの下、虫の声が響く。

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Comment

まきっちょ | URL | 2008.10.28 11:33
■ドロドロだぁぁぁ

瞬さんのお話
ごめんなさい・・久々になりましたが
読ませてもらいました。
もぉーーーこれ、めっちゃ面白い!
面白いって言っていいのかどうか微妙ですが
一気読み一気読み!
次も待ってます♪

cdoor | URL | 2008.10.28 11:34
やっぱり、命の周りを巡るお話は
簡単にコメントできないワ…。
応援☆☆☆
香月 瞬 | URL | 2008.10.28 11:36
>まきっちょさん

おひさです。
えええ?!ありがとうございます。
面白いですか、そうですか。
まきっちょさんが東京駅から脱出出来なくなった話には負けますが(違。


>cdoorさん

ごもっとも。
書いている私も迷いながら進めています。
いずれ、あとがきに言いたかったことを書きますね。
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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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