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* 第七話 * ~久美の場合~ ③

半年前。

郵便が届いたあの日。

「宮尾久美さん宛に書留です」

母が判を押し、それを久美の代わりに受け取ってくれていた。

会社から帰宅した久美に、母が手渡してくれたその差出人を見て、全身に電気が走った。

 ― 八木隆徳。

「あれ、上司の八木さんじゃん。書類かな」

母に動揺を気取られぬよう、何気なく受け取り、自室へ入った。





数日前に、付き合っていた八木から別れを切り出された。

「あのムービーを妻に見られた。バレたからには、今までの様には付き合えない」

久美は別れにはあっさり承知したが、乞われるまま軽率にいやらしい映像を撮ったことを全身全霊で後悔した。

元々、妻子持ちであることも分かっていたこと。

近いうちにバレるんじゃないかと覚悟もしていた。

そう、最初はお互いの同情心から始まった。

久美は売れない劇団員の彼氏とうまくいかず、会えば喧嘩ばかりの日々。

八木は、妊娠・出産・育児で、奥さんにまるで構ってもらえない毎日に疲れていた。

そんな二人が慰め合うようになるのには、大して時間も掛からなかった。

しかし、紛れもない不倫。

割り切った関係だった。

そんなことは痛いほど理解していた久美だったが、やはりいざとなると辛いものだった。





久美は、自分のベッドの上に座り、ゆっくり書留の封を切った。

中にはA4の紙が二枚と返信用封筒が入っていた。

一枚には、誓約書と書かれてある。

もう一枚には、久美に宛てた手紙。

すべて印字だった。

「あれ、これ…、奥様からだ」

久美は一気に警戒した。

 ― 誓約書?

訝しみながら読み進めていくと、そこには、

 …この度はご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした。

 …このようなお恥ずかしい結果になり、私と致しましても大騒ぎしたくはありません。

 …(中略)

 …同封の誓約書に署名捺印し、送り返してください。

 …貴女が内容に同意出来ない場合は、訴訟など含め、別の方法を考えたいと思います。

などと書かれてあった。

誓約書には、二度と会わないこと、及び、約束を破った際は速やかに慰謝料請求に応じることとあった。

久美は大きく安堵の溜め息をついて、床に大きく寝転んだ。

「そっか、私、訴えられても可笑しくない事してたんだ」

正直、久美は不倫の代償のことまで考えてなかった。

ただ、その時が楽しければ、その時が癒されれば、それで良かった。

だけど、そんなエゴの陰に、苦しんでいる人が存在していること。

分かっていた様で、全く理解していなかったことに気付いた。

天井を見ながら、久美は浅はかだった自分の行動を悔いた。

だけど。

久美は、仰向けのまま、あふれ出る涙を止められなかった。

だけど。

「私だって、本当に八木さんが好きだった…」

嗚咽した。



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香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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