FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

* 第二十話 * ~慶子の場合~ ⑭

送っていくという警察官の申し出を慶子は断り、一人で病院の外に出た。


警察官も、厄介な事に関わってしまったという態度を隠そうともせず、ホッとした表情で去っていった。


門を出ようとした時に、背後から高らかに足音が聞こえて、慶子は振り返った。


輝元が駆けて来る。


「慶子…、ちょっと、来てくれ」


輝元が驚いている慶子の手をとり、また病院へと引き返した。


何も言えず、されるがままに連れて行かれた先は、地下の霊安室だった。


重い扉を開けると、冷たい空気の中にお線香の匂いがした。


白いシーツが目に入り、慶子は思わず、目を背けてしまった。


失礼かもしれないが、顔は見られなかった。


いや、様々な葛藤から、見たくなかった。


輝元は、所在なさげにただ突っ立っている慶子にパイプ椅子を差し出し、自分も座ると口を開いた。


「さっき、慶子にとって今夜は大事な日だったって言ってたよね?それ…良かったら、聞かせてくれないか?」


慶子は躊躇ったが、輝元の真摯な姿勢に心を決めた。


美園ちゃんに対し合掌すると、そのままの姿勢で話し始めた。


「男の人には、わからない話かもしれないけど…」


そう言って、慶子は話し始めた。


「私、結婚してから、五年経つんだけど…、なかなか赤ちゃんが授からなくて。…実は、半年くらい前から、本格的に不妊治療を始めたの」


「タイミング療法ってやつか?」


輝元の知識に、少しビックリして慶子は頷く。


「知ってるのね。…今回は、いい感じで卵も育ってて、昼間、排卵させる為のHCGって注射を打ったの。排卵誘発剤。今夜、夫婦生活をもてれば、念願の妊娠の確率がとても高かった…」


「そっか…」


「でも、こういうのって、私ばっかり必死でね。主人にもついつい“今日だからね!”なんてプレッシャー掛けちゃったりして、なかなか毎月上手くいかなくって…。排卵日以外にするのも精子が勿体なく感じちゃったりね」


ふっと自嘲する。


「こんなこと言うのも何だけど、多分、テルと別れた時の詩真の妊娠が自分が思っている以上にトラウマになってるっていうか…、自分にも早く子どもが出来ないと、また誰かに盗られちゃうんじゃないかとか、被害妄想でいっぱいになっちゃってて…」


今まで、口に出せなかった思いが、あとからあとから口をついてくる。


慶子が内に秘め、引きずっていた傷を今やっと輝元に話せていることに、不謹慎ながら安堵していた。


「子どもが産めない私は女としての価値がないんじゃないかとか、なんでろくでもない母親ばっかり簡単に妊娠出来るんだろうとか、……」


慶子は、いつのまにか合掌を解いていた両の手で、顔を覆った。


「この歳になると、周りの友達が次々とおめでたを教えてくれるけど、おめでとうなんて、言えなかった…。子連れで街を歩いている他人ですら、妬ましかった…。たった一人で…どんなに努力しても…、私には得られない…んだって……」


これ以上は、涙が邪魔をして、話せなかった。


輝元が、そっと慶子の肩に手を置いて、俯いた。


掌が温かい。


 ―― テルの優しさに、甘えすぎちゃいけない。


「…詩真はね、美園のあと、二人流産してるんだ」


輝元の思わぬ言葉に、はっと顔をあげた。


「え?」

人気ブログランキングへ

 

Comment

美琴 | URL | 2008.10.28 11:31
■この落ち着きはなんだ?!

輝元は「この子を見ろ!なんで君はあんな事が言えたんだ!」とわめき散らすのかと思っていました・・・なぜ輝元には我が子に対する悲しみが足りないのか?我が子の遺体を前にして、昔の恋人の心境を聞こうとした輝元の心境の静けさにぞっとしました・・・
香月 瞬 | URL | 2008.10.28 11:31
■ほほう、なるほど

>美琴さん
そういう感情が普通なのかな。
とりあえず、輝元として、その系統の台詞は、考えられませんでしたねえ。
輝元は×××ていますよ。
先に影響するといけないので伏せておきますが。
Comment Form
公開設定

プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

検索&ランキング
参加しています。
にほんブログ村 小説ブログへ 人気ブログランキングへ
よろしくどうぞ。
カテゴリ
最新記事
Twitter
リンク
このブログをリンクに追加する
MicroAd
CHECK IT!
RSSリンクの表示
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。