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* 第五話 * ~潤奈の場合~ ⑤

隣に座っている【HARU】の体温が、潤奈の腕に伝わってきた。


 ―― どうしよう…。


「い、今何時かな」


動揺を隠せずに、潤奈は立ち上がった。


「カップ捨ててくるよ」


【HARU】の手から空になったディッピンドッツのカップをとると、近くのゴミ箱に捨てた。


多分、このままだと身体の関係を迫られるのだろうと感じている。


今日会ったばかりの人と、このあと。


異変を察知したらしい【HARU】は、潤奈の手をとって引いた。


「カラオケ行けへん?」


そのまま【HARU】はエスカレーターの方へと向かって歩いていった。


「音楽好きなんやろ?歌声聴いてみたいし」


「う、うん、カラオケね、いいよ、行こう」


ホッとして、ノリノリで応じた。


心の中を見透かされたようで、潤奈はとても恥ずかしかった。


「よし、決まりな。カラオケのある個室でええよな」


「そ…、そうだね、カラオケカラオケ」


下りのエスカレーターに足を乗せる。


一人のスペースでいっぱいになってしまう幅のないエスカレーターを二人は前後になって下っていった。


前に乗った潤奈の首筋に冷たい感覚が走った。


「首、細いな…」


背後から首に触れた【HARU】の両手を潤奈の右手が押さえた。


「きゅってすぐ絞まっちゃいそうな細い首…」


全身をゾワっと何かが駆け巡った。







外に出ると、もう辺りは薄暗くなっていた。


街中はイルミネーションで輝いている。


【HARU】は、ずっと潤奈の手を離さなかった。


華やかなのに埃っぽい新宿の裏路地を進んだ。


「この辺にあったかなー、カラオケのある部屋」


握っている手に軽く力が入った。


潤奈はそこで初めて気付いたのだ。


 ―― あ、ホテル、探してる…?


さっきはあまり深く考えずにカラオケだということしか頭になかった。


「ここあるか聞いてくるわ」


【HARU】は、白いキレイめなラブホテルの受付に向かった。


手は離してくれない。


「どうする?ここはカラオケないんやって」


「じゃ、じゃあダメだよ、歌いに行くんだから」


潤奈はそう答えるのが精一杯だった。


腰が引けているのは自分でもよく分かるが、今更帰るとは言い出せない。


さっき触られた首の感覚が蘇った。


「向こうにカラオケボックスいっぱいあるんじゃない?」


途端、黙れと言わんばかりに、潤奈の唇が塞がれた。


「こういうことがしたくて今日来たんやろ?」


【HARU】の声のトーンが低くなっていた。


強めの口臭がした。


潤奈は思考が停止した。


怖かった。


周囲を行き交う人々は、そんな二人に目もくれない。


「さ、こっちはどうやろ、おばちゃーん」


少し歩いたところにあった古そうなホテルのおばさんに【HARU】は気さくに声をかけた。


「そうそう、カラオケないと駄目やねん」


あまりのボロ加減に潤奈は逆に圧倒されていた。


 ―― こんなところで…?


だったら、カラオケだなんていう建前にこだわらずに、さっきのキレイなホテルに入っておけば良かった。


少しズレた後悔をしていると、手をグイと引っ張られた。


「あるって、カラオケ」


狭い階段をギシギシ言わせて昇った。


昇りきったすぐ脇には引き戸が少し開いた部屋があり、数人の若者がガヤガヤと騒いでいた。


連れ込まれた部屋の鍵も閉まるのか閉まらないのか、怪しい。


とんでもなく狭く汚い部屋には間違いなくカラオケのセットがあった。


用意された時代遅れのカラオケの歌本を申し訳程度にパラパラとめくった。


部屋の戸を閉めても、先ほどの若者たちの声が少し聞こえる。


「ちょっと待って、こんなところでカラオケなんか歌えないよ」


ここでマイクを使うのは憚られた。


「じゃ、やめよか」


【HARU】の腕が潤奈の肩に伸び、そのまま病気になりそうなベッドに押し倒された。


 ―― 今日、人と会うって、妙子に言っておくんだったな…。


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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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