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* 第三話 * ~亜弓の場合~ ⑧終

翌日。

仕事上がりに、職場から少し離れた裏道で待ち合わせ、横付けされた鈴木の車に亜弓は素早く乗り込んだ。

「昨日はビックリしたよ。で、どうしたの、亜弓が誘うなんて珍しいじゃん」

「うん…、話さなくちゃいけないことがあってね」

鈴木はふかしていた煙草を消した。

「嬉しい話?」

「うーん、どうかな。鈴木くんにとって嬉しい話かもしれないよ。着いてから話すけど」

二人は薄暗い和食の店に入った。

「亜弓、飲み物は?」

「今日は飲まない。このお茶でいいよ」

鈴木は少しピンときた顔で亜弓を見たが、すぐにメニューに目を移し、注文を済ませた。

最初に来た冷奴をつつきながら、亜弓はどう切り出すか迷っていた。

これは、嬉しい話なのだろうか。

にこやかに伝えればよいのだろうか。

迷いつつ、ふいに口から勢い良く言葉がこぼれた。

「あのね、私、離婚することになった」

言われた鈴木の虚を突かれた表情はきっと忘れない。

真面目な顔を装おうと、結果半笑いになった鈴木は返答に窮しているように見えた。

亜弓は笑った。

「嘘だよ。妊娠したの」

「えっ?」

沈黙が漂った。

「どっちが本当?」

「…子供が出来たのが、本当」

「そか…、うん、そっか。やっぱりな、さっき、そうかなって思ったんだ」

鈴木は一生懸命平静を取り戻そうとしていた。

「そっか…、えっと、じゃあ、おめでとうだよな」

亜弓の胸がドキンと鳴った。

「そうだね…」

とびきりの笑顔を作らなきゃと、亜弓は真っ正面から鈴木を見た。

「だから、今日が二人で会う最後だよ」

その後、二人は当たり障りのない話をして、食事を終え、店を出た。

「じゃ、帰るね」

一人で行こうとした亜弓を鈴木は引き止めた。

「いや、途中まで送るよ」

と、亜弓を助手席に乗せた。

いつもは通らない国道へ出る。

心なしか、いつもよりスピードを感じた。

「俺ね、彼女と本気で別れようかと思ったの」

亜弓は窓の外の流れを見ていた。

「亜弓のこと本当に好きになったから、このままじゃ彼女に失礼だなって」

胸が締め付けられ、どうしていいかわからなくなった亜弓は、場違いに声高らかに笑った。

「あははは、な~に言っちゃってんのよ」

わざと笑い続けた。

そうでもしないと泣きそうだった。

「でも事実だ」

亜弓は真顔になった。

「ありがとう。私だって…」

 ―― 好きよ。

最後の言葉は飲み込んだ。

「授かったからには子供は産まなきゃ。私はこれから主人をもう一度好きになる」

「そうだな」

車は人気のない河川敷の脇道に停車した。

ボツッ。

大きな雨粒がフロントガラスを叩き始めた。

二人は黙ったまま、どれだけの時間が流れただろう。

雨足は強まる一方に思えた。

亜弓はやっとの思いで鈴木を見た。

「ごめんね、今まで、優しくしてくれてありがとね」

「ううん、俺もごめん」

鈴木はハンドルに両手をかけ、うなだれた。

「優しくなんかない。…俺、ずっと隠してたことがある」

亜弓は窓にコツンと頭を付け、目をつぶった。

「それは、妻子持ちってこと…かな?」

鈴木がハッと亜弓の方を向いたのが分かった。

「気付いてた…のか」

「ん、一緒にいれば大体は察しつくよ。最初からずっと葛藤してたの分かったもん」

「は…、なんだ、力抜けるな」

鈴木は背もたれに体全体を預けた。

「けど、さっき言ったのは、別れようとかは、本当に考えたんだぜ」

「いいよ、もう。お互い様じゃない」

鈴木は亜弓の左肩に手をのばし、自分の方を向かせた。

「一度くらい、抱いときゃ良かった」

鈴木の顔が近づく。

「あなたがそういうこと出来ないのも分かってる」

「…参ったな」

鈴木は亜弓の身体を引き寄せると、背中をポンポンと二度叩いた。

「たまには宝くじ付き合えよ」

亜弓はかぶりを振った。

そっと身体を離すと、うつむく亜弓の頭を鈴木の手がわしわしと撫でて、ニヤリと笑った。

「本当に振られたな、俺」

亜弓は、鈴木の明るさに救われる思いでいた。

「元気な子、産めよな」

「うん」

きっと忘れられる。

亜弓はそっと下腹部に誓った。

「梅雨入り…かな」



 -終-

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Comment

HIRO | URL | 2008.10.25 16:38
あなたの場合、
恋をしているいろいろな女性の出逢いと成り行きを繊細なタッチで展開されていて面白くそれだけの観察力がないとと感心しました
また見せてください
香月 瞬 | URL | 2008.10.25 16:39
>HIROさん

本格的に作家志望の方に読んでいただけて、嬉しいです。
拙い文章ではありますが、懲りずにまたお越し下さいませ。
まきっちょ | URL | 2008.10.25 16:40
■久々に

一章読めましたわ。
こういうプチ浮気心って、何となく分かるなぁ
私も結婚しても、ちょっとイイなって思う人
いたも~ん。まぁ、思うだけですがっ!!
香月 瞬 | URL | 2008.10.25 16:41
>まきっちょさん

ご結婚されている方に、なんか分かるなって思っていただけたら、それ以上のことはないっす。
まあ、プチなら…ね。
小町 | URL | 2009.01.28 18:23 | Edit
絶妙な女心、捉えてますね。
まきっちょさんの言うぷち浮気心、いいネーミングです。
亜弓の場合、私は好きです。
鈴木君、何故君は結婚していた事を隠していたのだ?
何故、自分の子を隠すのだ?
そこが私は知りたい!
香月 瞬 | URL | 2009.01.28 21:03
好きですか!
嬉しいお言葉、ありがとうございます!
さては、既婚者ですね?
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香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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