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* 第三話 * ~亜弓の場合~ ⑤

一緒に食事をした日から、亜弓の気持ちはヒートアップした。

頭の中は、寝ても覚めても鈴木のことでいっぱいで、だんだん夫に食事を作ることさえ面倒になっていた。

会えない日には切なくて、涙した時もある。

完全に恋をしていながら、しかし一方で打算も働いていた。

この際、夫に知られてもいいような気になっている反面、バレないように細心の注意を払っている。

浮気が知られて離婚なんてことになったらどうなるかは大体わかる。

結婚後まもなくの離婚なんて体裁が悪い気もする。

亜弓はそんな自分の思考に辟易していた。

だが、そもそも鈴木が亜弓夫婦の離婚なんて望んでいるのだろうか。

どんなに気持ちを確かめ合ったって、しょせん言葉である。

鈴木が彼女と一緒に住んでいる現状も変わりない。

亜弓一人がどんなに燃え上がったって、そう簡単に手に入るものでもない。

そんな気持ちが昂ぶっている時に、職場での食事会が開催された。

以前なら絶対いなかっただろう鈴木も、そして亜弓も参加していた。

「今日は鈴木くんを狙いま~す」

亜弓は、わざと公言した。

周りも盛り上がって、やんやと二人を囃したてた。

かなり酔っ払った風を装い、亜弓は隣に座るシラフの鈴木にわざとキスをねだったり、腿に触ったりと、ちょっかいを出した。

もちろん、亜弓が既婚者なのは皆知っている。

敢えて公の場で、旦那以外の男に手を出す人妻というキャラを演じていた。

鈴木もそれなりの対応で亜弓をあしらう。

時に本気で心配してくる同僚もいたが、巧みにジョークで通した。

会がお開きになって、皆一斉に店の外へ出る。

「二次会、行く人はこっちな~」

亜弓と鈴木は腕を組みながら店を出た。

「なぁに、亜弓ちゃん、マジで鈴木狙い?」

「だってぇ、鈴木くん、車だから一次会で帰るって飲んでないんだもん。私も新婚だから帰らなきゃだしぃ」

「わはは、鈴木のヤツ、アッシーだって」

二人は冷やかされながら、皆の目の前で鈴木の車に乗り込んだ。

「ばーいばーい」

「おつかれさーん」

二人が乗った車は、歩く皆と反対方向へ走った。

「あー、面白かった」

「亜弓、ちょっとやりすぎじゃない?」

「大丈夫だよ。誰も怪しんでなかったじゃん」

「まあ…ね。俺は堂々とイチャつけて良かったけど」

「もう使えない手だね」

車は、二人の住まいのちょうど中間地点の駅前で停まった。

楽しかった時間ももう終わる。

亜弓は酔っていた。

「ね…、さっきみたいな冗談じゃなくて、本当にキスして」

「え?何言ってんだよ、ダメだって」

「やだ。してくれなきゃ降りないよ」

亜弓は鈴木の顔を引き寄せた。

「ちょ、やばいって」

息を感じる距離で、鈴木は躊躇った。

「お願い。大丈夫だから」

向かい合う唇と唇の隙間を埋めまいと鈴木の首は頑なだった。

「して」

少しの攻防の末、観念した鈴木は、亜弓の唇に短く軽く触れた。

亜弓の全身に電流が走った。

ゆっくり鈴木の胸に頬を埋めた。

鈴木のなめらかな指が、亜弓の髪を優しく撫でた。

「…熱烈チュー、しよっか」

鈴木の声が擦れた。

軽く頷いた亜弓が顔をあげる。

今度は躊躇なく唇と唇が溶け合う。

ほぐされていく熱い舌を感じながら、亜弓は夫に対して申し訳ないという気すら起きなかった。

酒臭くてしまったなぁという現実的な思いと、ついに自ら踏み出してしまった危険な道に戸惑いながら、そんな気持ちを消し去るように夢中で鈴木の舌をむさぼっていた。



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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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