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* 第三話 * ~亜弓の場合~ ④

待ち合わせの駅のロータリーで鈴木の車を見つけた。

ついさっき自重しようと思ったばかりなのに、鈴木の顔を見た途端、亜弓の頬は緩んだ。

「どこ行こうか。大丈夫なら夕飯食っちゃうか」

「そうだね、今日はうちのが帰り遅いから平気よ」

二人を乗せた車は、亜弓の家の方向に進んだ。

「近いほうが、帰るのに楽でしょ」

と鈴木は言ったが、亜弓は内心怯えてもいた。

結婚してから移り住んだ土地なので、周りに知人がいるわけでもない。

ただ、やっと見慣れてきた景色に、鈴木の存在がプラスされることに少し抵抗を感じたのだ。

しかし、思いの外、通り道にこれといった飲食店がなく、みるみるうちに亜弓の住まいの近くにまで達していた。

結局、亜弓の住む町の区役所の隣にあるファミレスに車を停めた。

案内された席に向かい合わせに座ると、亜弓は妙に照れた。

鈴木もなんとなく伏し目がちに会話をする。

ガッツリと食事をするということに恥ずかしさを覚えたのだ。

「なんか可笑しいね、こんなところに二人きりでいるの」

鈴木も亜弓といることにまだある種の抵抗を持っているんだと感じた。

「ねえ、今度、自宅の電話に掛けてもいい?」

「え、なんで」

「携帯より親密な感じがするから」

亜弓はいたずらっぽく笑った。

「イエ電はな~」

渋る鈴木に、亜弓はわざと聞いてみた。

「一人暮らしじゃないからダメなんでしょ」

「え?…ああ、まあ…ね」

鈴木は、まだ食事中にも関わらず煙草を手にした。

「うーんと、彼女…はいるんだよね?」

亜弓は思い切った。

煙草を吸いだしたのが肯定の返答だと思った。

「だってさ、メルアド、あれって彼女の名前モジッたんじゃない?」

鈴木の携帯メールのアドレスが女名前のようで、以前から気になっていた。

「違うよ。それをいうなら、亜弓のだって旦那の名前入れてるじゃん。俺、受信するたびに結構複雑な気持ちになってんだぜ」

「お互い様…だったか…」

亜弓は下を向いて小さく笑った。

「あのね、この休み、亜弓と会えなくて、俺もしかして本気で好きになっちゃってんのかなって」

「え?」

「彼女にもさ、言われたんだ」

鈴木は目を合わせない。

「他に好きな人出来たでしょって…さ」

「ふうん」

亜弓は箸を置いた。

「浮かれちゃってるみたいよ、俺」

灰皿に力強く煙草を押しつけると、鈴木は亜弓を見て笑った。

何も言えなかった。

すごく嬉しい気持ちになったのを必死で隠そうと思った。

そんな亜弓に気付いたのか、鈴木は伝票をとり、立ち上がった。

「行こっか。さすがに徹夜辛えや」

店を出た二人は、まっすぐ車に戻る。

「手、貸して」

亜弓が両手で、鈴木の左手をとった。

「どうしたの」

「ん、綺麗な手してるから」

「初めて言われた」

手をつないだまま、駐車場を出た。

亜弓は自宅と反対方向の道を指示し、路上駐車しやすい脇道で降ろしてもらった。

「じゃ、ここ真っすぐ行けば、来た道戻るから」

久しぶりに名残惜しい気持ちになっていた。

「着いたらメールして」

亜弓は、完全に鈴木に惚れたなと自覚した。

軽く手を振り、テールランプを見送った。

鈴木を独り占めしたい。

それには、亜弓自身が一人にならなければいけない。

自宅に向かって歩きながら、離婚するにはどうしたらいいんだろうと浮かんだ考えを亜弓は慌てて打ち消した。


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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
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