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* 第三話 * ~亜弓の場合~ ③

「おはようございまぁす」

アミューズメント店掻き入れ時の大型連休も過ぎ、鈴木が久々に職場に顔を出した。

顰蹙覚悟で連休丸々シフトを入れなかった鈴木は、何故か連日の繁忙期を乗り切った同僚たちよりも疲労感を漂わせながら出勤してきた。

あまりの負のオーラに、亜弓は声を掛けられずにいつのまにか退勤時間になっていた。

この休みの間に亜弓がメールを送っても、ただの一通の返信も入らなかったので、話し掛け辛くもあったのだ。

そのまま亜弓が帰途につき、駅の階段を昇っていると携帯電話が鳴った。

着信音は鈴木用のものだ。

一瞬の躊躇いはあったが、亜弓は電話に出た。

「もしもし、おつかれ~」

「あー、やっと声聞けたよ。今日全然話せなかったね」

「ん、疲れてるみたいだったし、なんとなくタイミング逃した感じで…」

「実は、夕べ寝てなくてさぁ」

鈴木は、近所に住む姪っ子が夜中に高熱を出したので、姉に寝入りばなを起こされ、救急病院に行っていたと話した。

「車出せるの俺しかいないから、参ったよ」

お姉さんは出戻りなのかとも聞けずに、とにかく鈴木の愚痴を一通り聞いた。

ホームで電車を二本見送った。

電話口で鈴木の声を聞きながら、よく分からないが、やはり彼に魅力を感じた。

少なくとも、会えなかった連休の間、亜弓は寂しかったのだ。

一切の連絡をしてこなかったクセに、今こうやって平気で会いたかったと言える鈴木をズルいと感じた。

亜弓は、その言葉を口にしてはいけないんだと、自分の気持ちにブレーキをかけ、ようやく次来た電車に乗り込んだ。

「じゃ、乗ったから、切るね」

亜弓はドアの脇に立ったまま、窓の外を眺めた。

突き放しては、引き寄せる。

鈴木は、そんな駆け引きを楽しんでいるのだろうか。

亜弓なら、夫もいるし、深入りしない。

そんな気持ちでからかっているのだろうか。

このところ、自宅にいても鈴木の事ばかり考えている自分に、亜弓は警鐘を鳴らした。

 ―― もう少し、自重しよう。

亜弓は電車を降りると、駅前の本屋に入った。

こんな自分を投影出来る本を読みたいと思ったからだ。

浮気、不倫…、そんな文字を探していた。

ある女性作家の文庫本を手に取ろうとした時、亜弓の携帯電話がまた鈴木の着信音を鳴らした。

静かな書店に響く音に慌てて出入り口を目指しながら電話に出る。

「もしもし、どうしたの?」

「夜、暇になっちゃったんだ。これから会えない?」

「何言ってるの?寝てないんでしょ」

「そうだけど、会いたいから」

亜弓は口では渋りつつ、頭では夫の帰宅時間を計算している。

「わかった。じゃ、あそこの駅のロータリーで拾って」

亜弓は元来た道を逆方向に進み、さっきとは反対側の電車に滑り込んだ。

 ―― いいの?

心臓が飛び出そうな程の鼓動を聞きながら、亜弓は何度も自問自答していた。

大げさに考えなければいいのだ。

友人と食事に行くだけだ。

何が後ろめたいのか。

夫にだって、隠さず言えばいいじゃないか。

だけど、やはり胸の高鳴りはおさまらなかった。

 ―― 私、恋、しちゃってるんだ…。

そう思った瞬間、亜弓の胸はキュッと苦しくなって、車窓の景色が少し滲んだ。

 

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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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