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* 第三話 * ~亜弓の場合~ ②

『サキニ イッテルネ』

亜弓は、鈴木にメールした。

職場を出て、鈴木がよく買う宝くじ売り場のある駅の方に向かって、亜弓はゆっくり、ゆっくり歩いていた。

携帯が鳴るか、後ろから車で来る鈴木が拾ってくれるだろうという考えだった。

しかし、歩いても歩いても、鈴木の接触はない。

おかしいなと感じつつも、亜弓は歩き続けた。

20分位経った頃、携帯電話が鳴った。

「もしもし」

鈴木からだった。

「宝くじ、買いに行くんじゃないの?」

「行きたくなくなったから、もう帰り道」

「は?」

亜弓の頭は混乱した。

「だったら、なんですぐに言ってくれなかったの?私、待ってたんですけど」

「更衣室出たら、もういなかったし」

「メールしたでしょ?」

「ばーか、お前となんか行かないし」

いつも優しい鈴木が何故か喧嘩越しでいる。

「だったら、普通に電車乗って帰ったのに。私、バカみたいじゃん」

「え?今、どこにいるの?」

「道路」

亜弓は、わざとそう答えた。

割と車の通りの多い環状線の脇を目的の駅に向かって歩いていた。

車の騒音が電話越しに聞こえたらしい。

「なあ、お前、マジでどこにいんの?」

鈴木がちょっと焦った様子で聞いてきた。

亜弓は涙声になった。

「売り場のある駅に向かって、歩いてる!ずっと来てくれると思ったのに!」

「ええ?どんだけ歩いたんだよ?なんで先に言わねえの?」

「そっちが言わさなかったんでしょ。もういいよ、帰りなよ」

「ウソだろ、今、そっち行くから、待ってて」

「いいってば!」

亜弓は初めて鈴木と口喧嘩をした。

とても不思議な感覚だった。

どうして、こんな事で言い合っているんだろう…。

なんで、こんなに悲しいんだろう…。

鈴木は何故、急に冷たい事を言ってよこしたんだろう。

数分後、後ろからクラクションが鳴った。

振り返ると、鈴木の車だった。

「亜弓!」

なんだかもう泣きそうだった。

ニコリとする元気もなく、顔をそむける。

「なあ、とにかく乗れって」

亜弓は仏頂面で車に乗り込んだ。

もう駅は目と鼻の先だった。

「こんなところまで、歩くなんて思わないしさ…、ごめんね」

いつもの優しい鈴木だった。

「なんで?…急に怖くなったの?」

亜弓は、やっとの思いでそう尋ねた。

もう少しで涙がこぼれそうだった。

「やっぱ、まずいかなと思ったんだよ。だから、わざと冷たくした…」

鈴木は素直にそう言った。

「私に夫がいるから?」

鈴木は答えなかった。

車を駅の近くのパーキングに入れた。

「さ、宝くじ、買いに行こうか」

車を降りて、二人で、宝くじを買いに行った。

ただ、それだけのことなのに。

まずいもへったくれもあったものじゃない。

これだけのことに怖気づいて、突然手のひら返したように冷たくされて、振り回されて、亜弓は心が落ち着かなかった。

「これ、結果発表の日まで、黄色いハンカチに包んでおくと金運上がるから」

やっぱり、鈴木は何かダサい。

「さっき、ごめんね。お詫びに奢るよ。ちょっとお茶しよ」

鈴木は、さっきの電話口での自分は別人かのように優しくそう言った。

 ―― 私のこと、バカって言ったくせに…。

亜弓の気持ちは、どうにも納得がいってなかったが、夫が帰宅するまで時間もあったので、鈴木に付き合うことにした。

 

 

鈴木と別れ、亜弓が最寄駅に到着すると、ちょうど鈴木から携帯メールが入った。

『ゴメンネ アイシテル』

ムカっとして、受信したばかりのメールを削除した。

この夜、求めてきた夫に身体を預けながら、亜弓の脳裏には鈴木の顔ばかり浮かんでいた。


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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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