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* 第三話 * ~亜弓の場合~ ①

昼間は汗ばむような陽気も多くなってきた新緑の頃、それでもまだ夕方になると肌寒い。

車の助手席にいた潮田亜弓は、持っていた薄手のカーディガンを肩にはおると、ドアに手を掛けた。

「乗せてくれてありがとね、鈴木くん」

亜弓は運転席の男にそう声を掛け、後部座席にいた早苗と共に駅前で車を降りた。

「じゃあね、おつかれさま」

三人は同じバイト先の同期で、勤めて一年経つ。

運転席にいたのは亜弓より三つ年上の鈴木輝元。

もうとっくに三十路を超えているというのに、アミューズメント店で平日の昼間だけバイトをしている。

早苗は、平日も土日も昼も夜も関係なく、とにかく稼ぎたくて働きまくっている。

亜弓は婚約を機に長年勤務していた企業を辞めたあと、今のアミューズメント店でバイトを始め、三ヵ月前に入籍したばかり。

鈴木と同様、平日の昼間だけ働いていた。

働きだしたその日から、亜弓にとって鈴木は気になる存在だった。

もともと気が多い質の亜弓ではあったが、鈴木はこの職場屈指の正統派二枚目でもあり、ストライクど真ん中であった。

喋りだせば性格は明るいが、端正な顔立ちの鈴木は一見冷たそうで、なかなかとっつきにくかった。

ゆえに、知り合って一年近く経つのに、今日のようによく話せるようになったのは、亜弓の入籍後からである。

それは結婚式の写真を皆に見てもらおうと、バイト先にアルバムを持ってきたのがキッカケだった。

「亜弓ちゃん、すげえ綺麗じゃん。遅かったなあ。失敗したなあ」

休憩室で、鈴木に冗談まじりに言われた言葉が現在に至る。

そこから鈴木は亜弓がお気に入りということが知れ、いつのまにか休憩も同じ時間に合わせたりして、誰の目からも亜弓と鈴木は仲良しという図が出来上がっていった。

事実上の恋愛関係はなく、周りの目を盗んで小さく折り畳んだ手紙を渡したり、それぞれの更衣室から携帯電話でメールしあったり、その程度のドキドキ感を楽しんでいた。

亜弓はこの関係が好きだった。

鈴木は周囲にプライベートを明かさないタイプだ。

土日や夜にシフトを入れない理由も誰も知らないが、ごく稀にそんな日にも顔を出すので、どうしてもというワケでもなさそうだった。

亜弓と仲が良くなってから、急に鈴木は退勤後の付き合いが良くなった。

今まで飲みに誘っても断っていた鈴木が最近参加するようになったのは、亜弓がいるからだと早苗はよくからかう。

亜弓も一応新婚であるし、退勤後はまっすぐ帰宅していたが、鈴木と親しくなってからは参加しているからだ。

同僚の集まりで会うのが、 二人が長く同じ時間を過ごせる言い訳に最も都合が良かった。

世間で言われる関係にあてはめるとすれば、浮気心あり…とでもいったところか。

しかし、鈴木のプライベートは相変わらず、謎に包まれていた。

休日は何をしているのか、彼女がいるのかいないのかさえも、誰にも答えないのだ。

フリーターのくせに自分名義の3LDKのマンションと車を持っている32歳の独身男性…というのが、周りの認識。

一人暮らしをしているらしいマンションの近くに実家があって、そこに両親と姉と姪っ子がいる。

昼食は自分でお弁当をこしらえてくる。

趣味は、週一回の宝くじ。

よく聴く音楽は、若い女性アイドルや、ヒットチャート上位の流行のもの。

見た目完璧な鈴木には、正直言って、少しダサいなと感じたことがある。

亜弓の知っている鈴木は、そんな男だった。

「これじゃ、いくらカッコよくても不倫しようなんて気にもならない」

と、よく早苗に冗談まじりに話したものだ。

ある日の休憩室で、亜弓と鈴木は一緒に宝くじを買いに行く話になった。

二人きりでどこかに行くのは、目的が宝くじであろうと初めてのことだ。

腐っても新婚の亜弓に躊躇の心が芽生えるのも致し方ない。

しかし、せっかくの鈴木の誘いでもあったので、亜弓はいつもより少しだけ念入りに化粧直しをして、先に職場を出た。


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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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