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恋愛小説短編集。
「亜弓ちゃん、帰ってるかな」
ホテルの前に辿り着いた佐和子はどうか戻っていてほしいと願った。
「先にエレベーターの前で待ってて」
なんとなくフロントの者に気が咎めた佐和子は正和にそう言って奥の通路を指差した。
フロントに部屋番号を告げると、あっさり鍵が手渡された。
亜弓は帰ってきていないのだ。
部屋に行く意味はないが、正和の尿意が気になっていたので、とりあえずエレベーターに乗った。
「亜弓ちゃん、まだだったよ。トイレ、部屋の使って。そしたらまた外戻ろう」
佐和子は、自分達が宿泊している部屋に正和を招き入れた。
「散らかってるけど…。はい、ここ」
トイレの戸を開けようとすると、正和は構わず部屋の奥へ進む。
佐和子は手首を掴まれ引っ張られた。
ぎゅっと抱き締められる。
「ちょ、トイレは?」
「しよ」
正和は無視して、ツインベッドの片方に佐和子を押し倒す。
「ここはまずいって、亜弓ちゃん帰ってくるかも知れないし」
虚しい抵抗だった。
騙された。
トイレなんて、セックスする場所を確保する為の嘘だったんだ。
何を今更。
分かっていながら、連れてきた。
佐和子は、初めての出来事に混乱していた。
受け入れるべきなのだろうか。
「ちょっ、ちょっと待って。私がトイレ行かせて」
佐和子は正和の身体を押し退け立ち上がった。
二月の京都は寒いだろうと、ジーンズの下に厚手のタイツを履いていた。
しかも、その上から靴下だ。
上も、何枚か重ね着している。
さすがにこんなに着膨れている女を脱がすのは嫌だろう。
佐和子は覚悟を決めて、タイツとTシャツを脱ぎ、脱衣籠のタオルの下に隠し、軽装になって正和のもとへ行った。
仕切り直して、ベッドに倒れこむ。
もう逃げられない。
喘ぎ声はいつ出すのだろう。
両の手はどうしたらいいのだろう。
正和は佐和子のセーターを脱がさず、ブラと一緒に上にたくし上げ、小さな胸を揉んだ。
手が冷たい。
ふと天井に目をやると、電気がこうこうと照っていた。
消す…べきだったかな、と佐和子は悩んでいた。
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Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。