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* 第一話 * ~珠子の場合~ ⑧終

頭上を越えていった飛行機の音が小さくなる。


珠子は、昔を思い出して、思わず屈んでいた。


未だに、アイツのことは鮮明に思い出せる。


その後に、数回、恋もした。


忘れかけた一瞬だって確かにあったから、だから、今こうやって婚姻届を提出しようとしているのだ。


好きという想いだけで比べれば、きっと今日から生涯の伴侶となる彼の方が好きだろうと思う。


ただ、あの時、アイツが一言でも、珠子の気持ちに沿う言葉をくれたら、こんなに引きずることもなかっただろう。


それが、別れを意味する言葉だって構わなかった。


珠子がこうしているのは、アイツがあの告白の日以降、何も言わずに姿を消したせいだからだ。


風の噂では、もともと海外に留学する予定だったと聞いた。


どうせ離れてしまう珠子に、良かれ悪しかれ、本当の返事は出来なかったということか。


それとも、あの壮大な夢の告白が、留学という現実を隠した真実の言葉だったのか。


着地点が見つからず、宙に浮いてしまった珠子の気持ちは、そのまま残っている。


携帯電話に登録してあるアイツの番号は、数年前に一度かかってきた無言電話だ。


珠子は、勘ではあるが、その時通知された番号をアイツのものだったと信じている。


何度掛け直したところで、出なかったし、現在はもう使われていない。


全てが、未練だ。


珠子は、あの時の気持ちの返事を今でも聞きたいと思っている。


知ったからといって、何が変わるでもない。


でも、きっと、それを聞けたなら、忘れることが出来るのだろうと思う。


また、強い風が砂を巻き起こし、咄嗟に目をつぶる。


「痛っ」


砂が目に入った。


 ―― 消そう。


もうゴメンだと思った。


こんな強風に吹かれる度に、十年も前の事を思い出して、胸が締め付けられるなんて。


思い立った勢いに任せて、携帯電話のメモリーを消去した。


珠子は立ち上がると、もう一度、自動扉をくぐった。



  ‐終‐

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Comment

まきっちょ | URL | 2008.10.25 16:27
■や~っと

第一話を読ませてもらいました。
ハイハイ・・・って、なんか昔のバイト時代を
思い出しながら読んでました。
小説だけど気になる貴昭のその後。
ずっこいわ~って女の私は思うなぁー。
都合のいい女なのか珠子は・・・などなど
何か一杯思うことがありましたわん。

私、どっちかというとミステリーが好きなんですが
恋愛小説を読みたい気分でもあります。
瞬さんの好きな小説家は誰なんでしょう!?
香月 瞬 | URL | 2008.10.25 16:28
>まきっちょさん

嬉しいです。
読んでくださってありがとうございます。

そういえば貴昭氏の話はまだ書いてなかったですねえ。

私もミステリー好きですよ!
てか、好んで読んでいるのはほとんどミステリー系でございます。
救いのない話が多いけど、桐野夏生さんとか好きです。
あざみ | URL | 2008.10.25 16:29
■第一話 読み終わりました。

う~ん、アイツに惹かれていった、そもそもの心の過程が些か省略され過ぎかと~?
笑えたのが、一箇所あったわ。
この会社は皆美人だから覚えている~とか云うアイツの台詞のところね。
でも、ご免ね、絶賛もせずに辛口で・・・

第二話も読んでみるから~
今度は期待させて貰うわ。 (p_-)
簡単に小説を書ける気にはなれても、実際にはやっぱり難しいのよねぇ。

そうか!
それよりも貴女の一番の自信作はどれ?
それを先に読ませて貰った方がいいかな?
香月 瞬 | URL | 2008.10.25 16:30
■ありがとうございます

>あざみさん
ありゃ、省略されすぎでした?
自分では過程を入れたつもりだったので、やっぱり感想を言っていただかないと気付けないものですね。
解説するのは野暮なのでやめておきますが。

自信作はコレ!なんて、おこがましくて言えませんっ(≧ω≦)
共感していただけるシチュエーションがどの話かにあればいいんですけどねえ。
如月 凛 | URL | 2008.10.25 16:31
■こんばんは!

”アイツ”は・・・けして悪い男じゃないですね・・・
だから。宙に浮いたままの、結果の出なかった・・・気持ちが残って。
何年経っても どうして?って感じで・・・ふと思い出してしまう
あるなぁ・・・そういうのって・・・なんて思いました^^
なんか変な言い方で恥ずかしいのですが。
こうしたきちんとしたつづり方ができて素敵です。
また順番に読ませてくださいね。
香月 瞬 | URL | 2008.10.25 16:32
>如月  凛さん

やっぱ中途半端だと、引きずるんじゃないかなーと思います。
“アイツ”は、他の話にも出てきてますので、良かったら、探してください。


小町 | URL | 2009.01.28 16:54 | Edit
何だか個人的に出だしからどきどきして読みました。
いつの間にか、物語に引き込まれてました。
とても読みやすかったです。

確かにいるな~自分の中のあいつ、あいつ、いいね、あいつ。
香月 瞬 | URL | 2009.01.28 17:43
コメントありがとうございます。
やっぱ、いますか、あなたの心の中にも。
あいつ(笑)。
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香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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