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* 第一話 * ~珠子の場合~ ⑥

 ―― 少し頭を冷やそう。

珠子は電話を切り、屋外へ出た。

相変わらず風が強い。

近付いてきた轟音に空を見上げた。

頭上低い位置を飛行機が越えていき、それと同じくらいのスピードで雲が流れていく。

珠子は手にしていた携帯電話のメモリーを呼び起こした。

…た、谷内貴昭。

この番号に一体何度かけただろう。

今、このまま、通話ボタンを押しても、アイツには繋がらないことを珠子は知っている。

きっと今も「現在使われておりません」と無機質なアナウンスが流れるのだろう。

それでも消せずにいる。

このメモリーが残っていることが、アイツと出会った証の様に思うからだ。




あの日の夜、珠子は思い切ってアイツに電話をかけた。

当時、まだ携帯電話は現在ほど普及していなくて、アイツが教えてくれた番号は一人暮らしの家のものだった。

珠子からの受信だと予想して出たであろうアイツは、普段の印象とはまるで違うユーモアのある好青年で、二人はこの電話で一気に近付いた。

この日を境に、同じ時間帯の勤務の時はなんとなく朝のバスの時間を気にするようになった。

少しでも会って、話がしたかった。

自身の職場では孤立気味で少しも楽しくなかった仕事が、楽しくなった。

アイツに会えることが嬉しかったし、ひとりじゃない気がして楽になった。

佐和子をはじめ、周りも好奇の目で見てきたが、そんなことより一緒にいられる時間が大切だった。

まだ、そんな自覚もない頃、珠子は同僚から思わぬ質問をされた。

「珠ちゃんて、警備の谷内くんといつから付き合ってるの?」

二人は恋人関係にはない。

自分達の状況を客観的に見る。

交際していると思われて当然だ。

それくらい二人はいつも一緒だった。

 ―― 私たちって何?

珠子は、急激に肩書きが欲しくなった。


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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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