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* 第一話 * ~珠子の場合~ ⑤

「うわ、私、何やってんだろ」


珠子が我に返ると目の前の歩行者用信号がもう何度めかの点滅を始めていた。

あわてて小走りで横断歩道を渡る。

あれから、もう十年も経つのだ。

それなのに、まだ鮮明に思い起こすことができる、アイツの記憶…。

今まで立ち尽くしていた分、少し早足で目的の建物へ向かう。

思い出したからって、今日こうしている珠子はもう変わらないのに。

自動扉を抜け、案内板に従う。

珠子は足を止め、文庫本に挟んであった封を手にとった。

これを出せば用事は済む。

これが珠子の人生の方向を変えてくれる。

わかっているのに。

 ― やっぱり二人で来れば良かった。

封を持ったまま、近くの長椅子に腰をおろした途端。

ピピピ…。

携帯電話だ。

「もしもし~、珠子、提出できた?」

「ん、まだ…」

珠子は手元の“婚姻届”に目を落とした。

「さすが、月曜のお役所は混んでるわ」

咄嗟に嘘が口をついた。

珠子は、まだ結婚に迷っていた。

迷う意味もないのに。

「ごめんな、一人で行かせることになっちゃって」

電話口の優しい声に胸が苦しくなった。

つい今まで、昔の男を思い出して、今日しなければいけない、この人生の契約に躊躇していたのだ。

あの頃は、契約や肩書きをあんなに欲していたのに。


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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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