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* 第二十一話 * ~佳澄の場合~ ⑧

新橋の駅のホームで電車を待つ間、時計を確認しようと佳澄は携帯を取り出した。


「あ…」


そういえば映画館に入った時に電源を切ったままだった。


ボタンを長押しし、携帯画面が立ち上がると同時に、通信のマークが点滅する。


しばらくすると数件のメールを受信した。


全部、佑介からだった。


ちょっと驚いて、メールを開いて、またビックリした。


【死ぬかも~。ただいま、39.6度の熱><】


最後に受信したメールは、まだ15分程前のものだった。


高熱で苦しんでいる佑介の姿が浮かんで、佳澄は胸が苦しくなった。


慌てて返信する。


【お母さんは?】


佑介は実家暮らしだ。


「どうしたの?」


携帯を握り締めて俯いている佳澄を秋谷が振り返った。


「ううん、なんでもない」


答えると同時に携帯が振動した。


【親、旅行中】


 ―― こんなときに。


佳澄はイラっとした。


目の前にいる秋谷との時間よりも、頭の中は完全に寝込んでいる佑介に囚われている。


いつもなら、何よりもまず佑介のもとへ飛んでいっていた。


 でも、今は…。


異変を察知したのか秋谷が言った。


「例の彼?」


佳澄は肯定も否定も出来ず、ただ黙ってしまった。


ホームに滑り込んできた電車は、ふたりを乗せずに駅を出て行った。


「何かあったのかな」


秋谷が優しく佳澄に問いかける。


「ん…、ちょっと、一人で寝込んでるらしくて…」


それを聞いて秋谷は少し考えてから、ふっと微笑んだ。


「行ってあげたら?」


「え?」


「佳澄さんのこと、頼りにしてるんでしょ、彼」


「でも…」


佳澄は、素直に提案に甘えられず、かぶりを振った。


「いいんだよ。僕は彼氏じゃないし、君を引き止める権利まだないんだ。佳澄さんが彼のこと心配なら、その心のままに行動するべきだよ」


自嘲気味にそう言った秋谷の表情はとても寂しげだったが、口調はきっぱりとしていた。


厚意を無にしてはいけない気がした。


「…ありがとう」


佳澄はそう言って、再度、携帯メールを打った。


【今から行く。何か欲しいものある?】


そして、ちょうどやって来た秋谷の家とは違う方向の隣の電車に佳澄は乗り込んだ。


「じゃ、またね。今日は楽しかったよ」


「はい。それじゃ…」


「ほら、笑って!僕、まだ諦めたわけじゃないし。今日は譲るけど」


申し訳なくて、うまく笑えなかった。


ドアが閉まる。


ホームの秋谷に向かって、小さく手を振った。


秋谷はこれ以上ない笑顔で佳澄を送り出してくれた。


 ―― ごめんなさい。


電車が走り出すと、反対の手に持っていた携帯が震えた。

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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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