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* 第二十二話 * ~忠則の場合~ ③

ランチの時間も過ぎ、少し客足も落ち着いてきた頃、窓香が洗い場に来た。


「斉藤くん、ここ代わるから。一服しておいで」


予定の休憩が取れず、早朝から働きづめだった忠則には天の声に聞こえた。


「あ、すんません。すぐ戻りますから」


「いいよ。ちゃんと賄い食べてきな」


「でも、奥居さんは…」


カチャカチャと皿洗いを始めた窓香が手を止め、忠則の顔を見た。


「私、もう先に食べたよ。そんなにお人好しじゃない」


そう言って、ニッと笑った。


なんだか恥ずかしくなって、忠則はそそくさと中に引っ込んだ。


社員の一人がひとり煙草を吹かしていた。


「おう。しんどかっただろ、お疲れ」


軽く右手を挙げて、労ってくれた。


「足腰パンパンっすよ。慣れてないとキツイもんですよね、皿洗いも」


出来上がった賄い飯を忠則がテーブルに置くと、社員が灰皿に煙草を押し付け、顔を寄せた。


「お前、知ってるんだろ?」


ヤニ臭い息が忠則の顔にかかる。


「窓香ちゃんさ…」


「はい?」


意外な言葉に、食べ始めた白飯を少し落とした。


「あの子、いろんな意味でやり手だろ?」


下世話な事を指しているんだろうと察しがついた。


「はあ、そうなんすか…?」


気のない返事をする。


「おっとぉ?その返事はお前はあんな有名な噂を知らないってことかよ」


「どういう意味ですか」


少し馬鹿にしたような下衆な笑みを浮かべると、


「それは斉藤ちゃんが自分で知ってちょうだいよ。でも、知っておかないと、この職場では損するかもしれないぜ」


と手をひらひらさせて部屋を出て行った。


「ちょ、そこまで言ったら、教えてくださいよー」


声を掛けてみたが、彼は戻ってこなかった。


 ―― なんだ?奥居さんには何かヒミツでもあるのか?


チラっと壁掛け時計に目を遣る。


あまり窓香を待たせちゃいけないと、飯をかきこむスピードを上げた。


 ―― 噂…ねえ。


想像するに、あまり良さそうな噂ではなさそうだった。


知っておかないと損をするかもとは、どういう意味だろう。


パートのおばちゃんはおばちゃん同士で固まっている。


遅番の女の子たちも業務中に紙切れのような手紙を回したりして、それなりに情報収集はしているようだ。


そんな中に混じってミーハーな話題に興じるような性格ではなかった忠則は、もう3ヶ月以上もいるこの職場の中で急速に疎外感を感じた。


食事を終え、手洗いうがいを済ませ、手をアルコール消毒する。


「お疲れさんです」


洗い場に戻ると、窓香が流しの縁に両手を乗せて、休んでいた。


「あ、一段落ついたんすね」


忠則の声に窓香がジロっと睨む。


大きな印象的な瞳にドキリと、一瞬たじろいだ。


「あんた、要領悪すぎ。モテないでしょ」


なかなかキツイ言葉を浴びせてくれる。


さっき、仕事の出来ないヤツは嫌いだと言われたことを思い出した。


「斉藤くん、仕事終わったら、ちょっと顔貸して」


「え?」


「ダメなの?」


特に用事はなかったが、嫌な予感がしたので断りたかった。


「いえ、大丈夫…です」


弱気にそう答える。


「じゃ、あとで」


窓香がバシッと忠則の背中を叩いてから、ホールに出て行った。


「い…ってぇ…」


身もだえしていると、キッチンから視線を感じ、振り向く。


さっきの社員がニヤニヤと忠則を見ていた。


「ハハ…」


愛想笑いで切り返す。


 ―― なんなんだよ、一体…。


忠則は、非常に不愉快だった。

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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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