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* 第二十二話 * ~忠則の場合~ ⑦

翌朝、窓香は休暇の日だった。


昨夜のことがどうにも腑に落ちないままに、時間になってしまった忠則は、ラブホの出入り口で窓香と分かれ、しぶしぶ出勤した。


ロッカールームで例の社員に会う。


「おはようございます…」


「よう、兄弟!」


社員はそう言って、腕を大きく回すと、忠則の肩にガッチリ組んだ。


「どうだった?」


「は?」


忠則が素っ頓狂な声を出す。


「とぼけんなよぉ。ヤったんだろ?窓香嬢と」


社員の言葉にギョッとした。


忠則の反応に、何かが違うと感じ取ったらしい社員が腕を外した。


「何、お前。昨日、窓香ちゃんと一緒だったんじゃないの?」


「一緒…でしたけど…。それって、どういう意味ですか?」


着替え終えた社員が、煙草の箱とライターを片手にそそくさとロッカールームを出ようとしたが、忠則が引きとめた。


「教えてくださいよ!それに昨日言ってたアレも。何なんですか?」


憐れみの表情を一瞬見せて、社員が答える。


「だからさ、ここの男性スタッフは、お前も含め、全員窓香ちゃんを介した兄弟ってことだよ」


「兄弟…」


「店長が、窓香ちゃんの本命。身体使って情報集めて、店長にいろいろご報告してんの」


忠則があっけにとられている。


つまり、スパイみたいなものか。


「…っていう噂ね、ウ・ワ・サ」


社員が、取ってつけたように言葉尻をフォローした。


「俺、奥居さんに、店長から自分を守ってくれって、お願いされて…」


忠則は、思わず昨日の様子をポロリと漏らした。


「本気にした?」


 ―― 本気にしたさ。俺が絶対守ってあげようって…。


「可哀相になあ。言いたかないけど、要はただのサセコだよ」


プイと横を向いた忠則があまりに情けない顔でいたのだろうか。


社員がやや戸惑っているのが分かる。


「ていうか、なんで、俺なんかにそんな大事なこと話しちゃうんですか?」


人差し指を一本立て、口元に寄せて、社員が続ける。


「そりゃ、モチロン、俺が知ってるのは内緒な。…俺はこの店唯一の店長派閥だ」


「派閥…?」


忠則も、ここの店長が会社組織の中に於いて、正念場を迎えていることはそれとなく知っていた。


「他の連中は、自分だけが、窓香ちゃんのお相手だと思ってる。ヤツらは、副店長やら、サービスマネージャーやら、スーパーバイザーやらのいろんな話が、店長に筒抜けなのを知らないお間抜けさん連中ってわけ」


「バイトは…、派閥とか関係ないんじゃ…」


「まあな。でもな、斉藤ちゃん、あんたは遅番の最後の砦。結局、彼女はしたいだけだし」


忠則が不思議そうに社員を見る。


「もうひとつの理由は、俺が窓香ちゃんの色香に落ちなかった類の人間だから。俺がお前にこんなことを話すのも俺にとってお前が可愛いから」


そう言って、忠則の肩を軽く叩くと、社員は目を逸らした。


「詳しくは察しろ、な」


忠則はがっくりと肩を落として、かぶりを振った。


「そうですか…」


忠則の頭の中は、だいぶ混乱した。


「でも、奥居さん…、本当に辛そうな目をしてたのに…」


社員が急に真面目な顔になり、尋ねる。


「おいおい、ハマっちゃった?」


「それに俺…、ヤってないすから」


何故か、忠則は自嘲した。


それを見て、社員は何かを悟ったような眼差しを向けたあと、ポンポンと忠則の頭に手を乗せた。


「よしよし、落ち込むな」


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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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