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* 第二十話 * ~慶子の場合~ ⑦

あれから、輝元からの返信はない。


湯呑みの中は、もう空っぽだった。


気付けば、付けっぱなしだったテレビは、夕方のニュースも終わり、賑やかなバラエティ番組が始まっていた。


 ―― いけない。随分、ボーッとしちゃったわ。


慶子は、慌てて台所に入る。


冷蔵庫から下拵えしてあった食材を取り出し、調理を始めようとして、手が止まった。


 ―― そういえば、珍しく帰り遅いなぁ。


いつもなら、七時ジャスト位に帰ってくる夫である。


「逃げてるな」と慶子は思う。


今夜は、月一回の夫婦が仲良くしなければいけない日なのだ。


不妊治療の一環である。


今日が慶子の排卵日であり、今夜が医師に指定された一番妊娠の可能性が高い日なのだ。


夫には、昼間、婦人科の帰りに携帯にメールをしてある。


だけど、夫婦の揉め事が起こるのも毎月のこの日だった。


慶子は、この日の為に、指定された期日きちんと薬を服用し、とんでもなく痛い注射にも耐えている。


仕事だって何日も早退したり、欠勤する場合もある。


チャンスはピンポイントでしかないのに、夫は慶子の願いを聞いてくれない。


「なんで人に言われて、セックスしないといけないの?義務みたいでさ、愛がねえよ」


そう言う夫の気持ちも分からないではないが、慶子に愛情を持っているのなら、月に一回くらい言うことを聞いてくれたって良さそうなものだ。


「お前、顔が必死で、萎えるんだよ」


そんなの必死で当たり前じゃないか。


この日の為に身を削って努力しているのは、妻である慶子だけなのだから。


今日は「いい感じに卵が育ってますね」と医師にもお墨付きをいただいた。


この日を逃す手はない。


ただ、今日に限っては、さっきの輝元からのメールにより気持ちが落ち込んだ。


昔の傷を思い出してしまい、性欲だのなんだの言っているのが虚しくなってくる。


よりによって、何故。


 ―― 詩真は、あんなに簡単に妊娠できたのに…。


そんな思いに囚われる。


慶子は振り切るように、ブルブルと頭を振ると、ガス台に火を点けた。


今夜は、スタミナ料理だ。

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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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