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* 第二十三話 * ~毅の場合~ ⑥

コンコン。


練習室のドアを叩く音がして、俺と千春は慌てて距離をとる。


「おーい」


ドアの向こうには伊崎がいた。


千春の表情が一瞬にして強張る。


だが、ドアにある窓は摺りガラスだ。


おそらく、向こう側からこちらの詳しい様子は分からないだろう。


大丈夫、バレてない。


「はーい」


俺は能天気にそう言って、ドアを開けた。


「ああ、伊崎君」


「よう。進んでる?」


伊崎は、ドアの上部に片手を引っ掛け、部屋に顔だけ突っ込むと千春に「時間だぞ」と声を掛ける。


「あれ、今日はそっちの練習もあるんだったっけ?ゴメンゴメン」


「うん、タケちゃん、ごめんね。言ってなかったね」


千春がごそごそとバッグに資料とスティックを詰め込んだ。


伊崎が不審げな声を出す。


「今日は、何やってたの?」


「新曲の作詞のツメよ」


「へえ、ちょっと見せてよ」


伊崎が部屋に入ってきて、床に落ちていた紙を拾った。


「これ?」


ざっと詞に目を通す。


伊崎の眉間に皺が寄った。


「有野が書いたの?なかなか過激な歌詞作るんじゃん」


視線は紙から動かさなかった。


伊崎の心中は、俺にも手に取るようにわかった。


「ふん、いつも女が歌ってるから、アイドルっぽい曲しか作れないのかと思ってたよ。案外、骨あるんだな」


口の端を歪めた。


「もしもし、千春さんよ?お前、次のライブが終わったら、コイツと手を切るんだろう?」


「え?」


「有野も男だからさ。あんまり長いこと密室で二人きりでいられても、俺、いい気しないぜ」


口調はおちゃらけていたが、目は笑っていなかった。


「やあね、変な冗談言わないでよ。祥太郎ったら」


俺はチラっと千春を見た。


笑ってはいたが、完全に動揺している風に見えた。


「どうしちゃったのさ?伊崎君が心配するようなことなんもねえし。自信持てよ」


俺はわざと少しだけ挑発的な物言いをした。


伊崎は、一瞬ハッとした顔をしたが、すぐにいつもの柔和な笑顔に戻った。


「わかってるよ。千春は大丈夫だけど、お前がさ。こんな歌詞書くようじゃ…、心配もするだろ」


「書き直したほうがいいかな」


俺は正面切って伊崎を見つめた。


「いやぁ。いいんじゃないの?じゃ、お疲れな。千春、行くぞー」


伊崎は先にドアを出た。


後に続く千春は、俺を横目で見て、すまなそうな表情を見せた。


俺は笑顔で軽く顔を横に振った。


「お疲れ様。また明後日、よろしくね」


俺は、廊下を行く二人の背中を見送った。


不思議とあれほどお似合いだった二人が不釣合いに見える。


伊崎、男の嫉妬はみっともないぜ。


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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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