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* 第二十三話 * ~毅の場合~ ⑩

通報スレスレだった。


通りすがりの人々が騒ぎ始め、まずいと判断した伊崎が強引に千春をソアラに乗せると俺の前から去っていった。


暗いウインドウ越しの千春の眼差しが忘れられない。


アスファルトに尻餅をついたままの俺。


視線だけが絡み合う。


哀しげな表情。


千春を乗せた車は、みるみるうちに離れていった。


「大丈夫ですか…」


親切な人が俺を起こしてくれようと、手を差し伸べてくれた。


だが、あまりにバツが悪くて、俺は下を向いたままそれを手で制した。


「すんません…」


消え入りそうなくらい小さな声で頭を下げ、自力で立ち上がると、俺は渋谷の駅とは反対方向に小走りで歩いていった。


人々の視線が背中に痛かった。


耐え切れなくなって、俺の目から涙が溢れた。


慌てて、近くの狭い路地に身を隠した。


嗚咽を堪えると、肺が痛い。


壁に背もたれ、震える手で煙草に火をつけた。


深く、深く、煙を吸い込むと、少しホッとした。


脚の力が抜けて、ズルズルと腰を降ろした。


「いってえな、伊崎の野郎…」


切れた唇に煙が沁みる。


鉄の味が混じって、あんまり美味くないな。


久しぶりに泣いた。


痛い。


痛いけど。


こんな傷、くそくらえだ。


なあ、千春。


俺、心に何かが突き刺さったみたいに苦しいよ。


やっぱり、伊崎のところに戻っちゃうのかな。


千春に近づけたと思っていたのは、俺の錯覚だったのかな。


今、千春は伊崎に責められているのだろうか。


女には手を挙げないだろうけど…、心配だ。


今後、伊崎のガードは固くなるだろう。


まさか、もう会えないなんてことにはならないといいけど…。


視界が霞んでいる。


俺の身体は、鉛のように重くなり、地面に沈みこむような錯覚に陥った。


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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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