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* 第二十三話 * ~毅の場合~ ⑮

専門学校のライブの日。


俺と千春のユニットは出場を辞退した。


あのあと、何度も電話を掛けたし、千春の部屋の前まで行ったこともあった。


学校ですれ違っても取り合ってもらえなくて。


手紙を書きかけたが、途中で、そんなことをする自分が情けなくなった。


結局、己自信のプライドに勝てなくて、俺は、それ以上の接触を諦めた。


千春に黙って、出場取り下げの申し込みをした。


運営部にはすぐに受理されて、すぐさま噂にもなったから、その流れで千春の耳にも入っただろう。


俺は客席の最後方で腕組みしながら、トリである伊崎たちのバンドの登場を待つ。


司会が登場を知らせた瞬間、こわくなって両目を瞑ってしまった。


俺はいつからこんなに弱い男になったのだろう。


千春のスティックがカウントを刻んだ。


コイツラらしいロックンロールな曲が続く。


なんだかんだとボーカルたちも上手くなって、千春のハンパなく巧みなドラム捌きだけが浮くようなことはなくなっている。


相変わらず、伊崎のプレイには女どもの黄色い声援が付きまとうが。


数曲の後、伊崎がマイクを受け取った。


「最後の曲はある人に向けて、僕の小さな願いです・・・」


伊崎のテナーサックスが甘い旋律を奏で始めた。


「ん?」


とてもジャジーな編曲がなされていたが、これは…?


俺は自身の耳を疑い、恐る恐る目を開けてみた。


…I Say a Little Prayer?


これは、どういう意味だい?千春。


想い出をコケにされたような気がしつつも、渋いアレンジに感嘆の思いも禁じ得ず、俺は不覚にも涙を流した。


「くっそ…、うめぇ…」


アイツに会ってから、涙もろい。


周囲に気付かれないように一生懸命涙を堪えた。


 

 どうぞあなたも私を愛してくれますように 。


  これが私の祈りです。


 

演奏を終え、伊崎は再度マイクを取り、話し始めた。


「これは、僕の気持ちです。ここにいるドラムス千春に向けて…」


どよめく客席。


ちょっと待てよ。


そりゃ、こっちの台詞なんだよ。


俺は、どうしていいか分からず、ただその光景を見ていた。


伊崎はおもむろにポケットから何かを取り出し、千春のもとへ歩いていく。


他のメンバーに促されて、戸惑った様子の千春が立ち上がり、前に出てきた。


そして、伊崎が小さな箱の蓋を千春に向けて、ゆっくり開き、見せた。


それを今度は客席に見せる。


黄色い嬌声が上がった。


この遠い席からも、それが何なのかハッキリ分かるほど、輝きを放っている。


嘘だろう?


「千春…。俺と、やり直してほしい。そして…」


客席が静まり返って、息を呑む様子が分かる。


プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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