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* 第十九話 * ~達矢の場合~ ⑩

橙子と達矢は、あの口喧嘩から少しギクシャクしていた。


そして、桜子しか見えなくなっていた達矢は、心なしか目の下には濃い影が浮き、顔色も悪く、頬は痩けていた。


桜子と他の役者が話している。


たったそれだけで、内心気が気ではないのだ。


達矢の書いた台本の上で、達矢の書いた台詞で。


頭の中に描かれた世界での会話しか認めたくなかった。


我ながらオカシイと感じ、自分自身に問うてみるが、答えは出なかった。


 ―― なぜ、そんなに桜子に執着するんだい?






劇団の芝居は、桜子主演の作品が続いた。


橙子以外の女優たちは達矢に疑問を呈してきたが、達矢は相手にしなかった。


そのうち、一人、また一人と退団していった。


男たちの中でも最近の作風が合わないと見切りをつけて辞めていく者もいた。


残った女優は、橙子と桜子。


そして、桜子にチヤホヤする面々。


 ―― アイツとアイツとアイツと…。


達矢はそれが許せなかった。


 ―― 桜子は、俺だけの女だ。


「近づくんじゃねえっ!」


ある時、達矢が通し稽古の最中に桜子に触れようとした役者を怒鳴って、突き飛ばした。


見ていた橙子は、思わず天を仰いだ。


もう限界だと悟った。


達矢は壊れている。


これ以上、この場で作品を産み落とすことは出来ない。


もうこの芝居は幕を下ろさねばならなくなった。


橙子はパン、パンと手のひらを高く鳴らした。


「柴田はちょっとお疲れみたい。今日は、これで解散にしましょう」


達矢は、稽古場の隅で膝をつき、肩で息をしていた。


橙子はそれを一瞥すると、気付かれないように、呆然と立ち尽くしていた桜子を外に連れ出した。





「あんたさ、もう来ないでくれる?」


橙子は、桜子にそう言い放った。


怯える小鹿のような目で橙子を見上げる桜子。


「柴田の前から消えて」


「…なんで、ですか?」


「ご覧の通りよ。柴田、あんたに狂っちゃった。このままじゃ仕事を失うわ」


桜子が目を伏せると大粒の涙がポロリと頬を転がった。


「私は…、大好きな、お芝居がしたいだけ…です」


橙子は小さく溜息を吐くと、平手で思い切り桜子の頬を叩いた。


桜子の美しい顔にハラリと黒髪がかかる。


「桜子。あんた、舞台に立つ方法を考え直した方がいい。…男には通用しても、私にその手は通じないわよ?」



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香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
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