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* 第十九話 * ~達矢の場合~ ⑧

座ったまま、ただ茫然と窓の外の二人の後ろ姿を目で追う。


店員が飛んできて、ダスターでこぼれたコーヒーを拭いてくれている。


我に返った達矢は慌ててパソコンを鞄にしまうと小脇に抱え、走って店の外に飛び出した。


 ―― 桜子?


潤んだ大きな瞳、切なくなるほど甘美な吐息、愛くるしい表情、匂い立つ色香、達矢を呼ぶ声。


脳裏に浮かんでは消えていく。


あの桜子が、自分以外の男と二人で一体どこに行くというのか。


彼らが進んだであろう先を追ってはみたが、もう姿は見えなかった。


達矢は、歩みを緩めた。


「…どうかしてる」


頭を振って、踵を返すと、達矢はまた稽古場に向かった。






稽古場には、まだ橙子がいて、軽くストレッチをしていた。


「どうしたの?血相変えて」


「…いや」


「なんだ、謝りにでも来てくれたのかと思ったのに」


橙子はぷいと向き直って、ストレッチを続けた。


達矢は鞄を投げ出し、パイプ椅子にどっかり座ると、大きな溜息をついた。


誰も口をきかない数分が流れた。


衣擦れの音だけが室内に響いている。


達矢がやっとの思いで口を開いた。


「周りが見えてないって、…何に関してだ?」


橙子が意外そうな表情で振り向いた。


「今さっき、桜子と前んとこの主宰とが二人で歩いているのを見たんだ」


橙子は、立ち上がってタオルをとった。


「必死な顔してるね」


達矢は、え?と顔を上げる。


「歩いてたから?何なのよ」


「いや…」


苦しげに顔を歪めて、俯く。


 ―― そうだよ、歩いてただけで…。


こんなあからさまに嫉妬の様子を橙子に見せてしまったことを恥じて、唇を噛む。


が、そもそも達矢が桜子を想っていることは、橙子にはとっくにお見通しだったのだろう。


「まあ、柴田の想像は当たってると思うけどね」


「俺の、想像?」


「そ。デキてると思ってるんでしょ?」


人差し指をくるりと回すと達矢の鼻先を指差す。


達矢は、うなだれるように頷いた。


「あの子、それだけじゃないわよ」


橙子がもうひとつのパイプ椅子を引っ張って、達矢の前に置くとゆっくりと腰掛けた。


「私が周りをもっと見ろって言ったのはぁ…」


もったいぶって間を開ける。


達矢の顔を覗き込むようにじっと見ると、ニヤリと笑った。


「桜子ね、うちの男連中のほとんどとヤっちゃってるわよ」




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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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