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* 第十九話 * ~達矢の場合~ ⑦

部屋に差し込む陽光が眩しくて、目が覚めた。


「…さく…」


達矢の隣に寝ていたはずの桜子の姿は見当たらなかった。


ふと目を落とした右手の指先に長い黒髪が一本絡んでいる。


苦しくなるほどの切なさが胸を襲い、タオルケットをぎゅっと握った。







 *






二ヵ月後、桜子主演で芝居を打った。


興行は、そこそこの成功を収めた。


達矢は、次の舞台に向けて、また桜子をイメージした作品を作り続けた。


反対するかと思った看板女優の橙子は、意外にも桜子のことを認めていた。


稽古が休みの日に、橙子は達矢を稽古場に呼び出し、次に向けての話し合いをしていた。


「前いたところも、芝居が下手だから出してもらえなかったんじゃないと思うわよ。桜子は、むしろ上手いわ」


橙子はそう言った。


達矢も同意だった。


「もっと違う理由でしょ。そろそろ柴田も気付いた方がいい」


「え?」


橙子の言っている意味がよく理解できなかった。


「もうちょっと周りを観察して。あんた、何盲目になってんのよ?」


叱責されたような気がして、達矢はムキになった。


「どういう意味だよ!芝居は成功したんだ、文句ないだろう。俺と彼女の才能だ!」


あっけにとられた橙子を残し、達矢は稽古場を出た。


桜子に夢中になっている自分を指摘されたようで、バツが悪かった。


二人の関係は誰も知らないはずだ。


心を落ち着けようと、達矢は駅前のファーストフード店に入った。


ホットコーヒーを持って二階に上がると、窓に向かっているカウンター席に座った。


 ―― 才能だ!は言い過ぎたな…。


面映さを隠すために仕事をしようと思った。


足下の鞄からノートパソコンを取り出そうと屈んだ時に、視界の端に見覚えのある姿が映った。


身体を起こして、窓の外を見る。


「あ」


以前、桜子が所属していた劇団の主宰が歩いていた。


ウキウキした感じの足取りが止まり、携帯電話を確認している。


その場で、煙草を取り出し、美味そうに吹かしだした主宰を二階から興味深く眺めていた。


 ―― 待ち合わせかな。


そう判断して、達矢はノートパソコンに向かい直した。


台本の続きを打ち込む。


脇に置いたコーヒーを取ろうとして、ついでに向かった目の先。


窓の外に映る主宰と並ぶ女性の後姿に思わず手元が狂った。


カップが倒れ、コーヒーがカウンターから床に滴っても、達矢は動くことが出来なかった。



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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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