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恋愛小説短編集。
体育祭当日。
寮からは、ジャージ姿の生徒たちが続々とグラウンドに向かう。
通学の子たちも体育館の更衣室で着替えて、外に出てくる。
友紀も長めの髪を三つ編みにし、ハチマキをカチューシャのようにしてキュッと結んだ。
今日まで、喜田への意識ばっかり高まる日々だった。
思わず、喜田と同じ部屋の伊達にどんな人か聞いてしまった程だ。
「伊達君、喜田さんって嫌な人じゃないよね?」
「はあ?優しくて、いい人だよ。この間ジュース奢ってもらった」
開会式も終わり、続々と競技が始まる。
まずは徒競争でテンションを上げていく。
テント下にいるみんながみんなに声援を送る。
もうじき、二人三脚リレーの呼び出しが始まる。
「あ、そろそろだよ。友紀ちゃん、一緒に行こう」
鎌田さんが誘い出してくれた。
「緊張するね。なんか」
「うん、寮長さん、かなりマッチョだから汗臭かったりしたらどうしよう」
鎌田さんの心配に思わず吹き出す。
少し、気持ちがほぐれて、二人は待機場所に向かった。
指定の番号順に並ぶと、隣の列に喜田が立った。
喜田自身は、相手を誰だか把握していない様子で、ちょっと辺りをキョロキョロしていた。
「あ…、あの、喜田さんですよね。天野です…」
友紀は消え入りそうな声ながら、勇気を出して話しかけた。
「あ、はい。君、俺の相手?」
「そうです」
喜田は、それが分かるとサッと屈んで、ハチマキで自分の足と友紀の足とを結んだ。
そして、なんの躊躇いもなく、友紀の肩を抱き寄せると、位置に着いた。
観客席からは、友紀のことをファンだと公言している男子生徒からの嘆きの声が聞こえた。
「うおぉっ、喜田さんかよぉ」
前の走者のバトンが回ってきた。
「せーのっ」
喜田の掛け声で、友紀は右足を前に出した。
Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。