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* 第十四話 * ~橙子の場合~ ?終

「もういいよ」


柴田が唇で橙子の口を塞いだ。


「言わせてよ」


橙子はガバッと上半身をベッドから起こした。


「私、人殺ししたんだよ?今まで誰にも言わずにいたけど、ずっと苦しくて」


必死の形相をしていることに自分で気付いた橙子は、少し口調を和らげた。


「…貴昭に捨てられたって、その場で分かって、ああ、全部気付いてて、着々と逃げる準備してたのねって…」


柴田も橙子の隣に起き上がると、肩をそっと抱いた。


「私、よく考えもせずに、その足で産婦人科へ向かったわ。でも同意書がいるんだって。すぐには堕胎してもらえなかった」


「うん…、産もうとは思わなかったんだ?」


「貴昭が全てだったの。貴昭は欲しかったけど、子どもだけはいらなかった」


俯いた橙子の顔から雫が落ち、柴田の腕を濡らした。


「貴昭がいてこその出産で、結婚で…」


そこで言葉が詰まる。


「妊娠を結婚するための道具としか見なしていなかったんだなって、今は思う」


「向こうにしても、本気の相手じゃなかったら、男は責任とりたくないかもな」


「そういうこと。どっちもどっち…。でもね、あの時の私は、愛されていると思ってたのよね」


指先で涙を拭った橙子は、うっすらと笑った。


柴田の抱きしめる腕に力が入った。


「でも産んで待ってても、あの人が帰ってくるワケじゃないってすぐ理解できたから、宿った命を殺すことに迷いはなかったの。足枷になるのは目に見えていたし…」


わざと辛辣な言葉を使って、自らを虐げていた。


橙子は自分を責め、後悔している。


「貴昭は、海外に飛んで、更なる照明の勉強をして、本当のプロになって戻ってきたのね」


貴昭の成功は、橙子にとっては捨てられた時同様に、衝撃だったのだろう。


未だにしがない舞台女優…。


あの時、子どもを産んでいたら、女性として何かが変わっていたのだろうか。


「ゲイだなんて笑えない噂のオマケ付きでな」


「ホント。バイだったのねって、今考えるといろんなことが合致するの。振り返ると情けないけど…」


柴田は橙子の顔を自分の方に向けるとハッキリとした声で言った。


「なあ、俺は、お前のこと真正面から受け止める自信あるぜ」


「…?」


「そろそろ、こんな関係も終わりにしないか?」


瞳に潤いが増した。


柴田は力強く橙子を抱きしめ、頭を撫でる。


「ずっと傍にいてくれよ。俺は、お前から逃げたりしないから…」


窓の外は白んできている。


新しい夜明けの訪れだった。



 -終-


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香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
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