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* 第十三話 * ~ななの場合~ ⑥

家庭学習の時を終え、芳野先生も混ざった家族団欒。


いつもは楽しい会話が飛び交う夕餉が、今日は違った。


ななの向かいに座った父がいつになく寡黙だった。


普段は母とも芳野先生ともよく喋るのに、なんだか重苦しい空気が漂う。


「なあ、なな…」


その父が沈黙を破った。


「受験まで、あと3ヶ月だ。そんな時期に申し訳ないんだが」


「うん、なあに?」


ななが最後のエビフライを齧りながら、父の顔を見た。


「芳野くんに家庭教師を辞めてもらおうと思うんだ」


「へ?」


ななの隣にいた芳野先生が素っ頓狂な声を出した。


「ちょ、待って、お父さん?」


「えっと、すみません、たった今…、初耳なんですが…、クビ、ということですか?」


芳野先生が弱弱しく父に問い返す。


ななが母の顔を見ると苦々しい顔をして黙っていた。


「成績が上がっていることは良く理解しているんだ。それは君のお蔭だと思う」


「だったら、なんでなの?」


「お前は黙ってなさい」


ななは、箸を置いた。


「今、辞めさせるというのは、ななの勉強の面で不利なこと、それは承知の上だ。…だがね」


父は少し間を開けた。


「家庭教師と生徒という関係上に、如何わしい感情を持ち込まれては困るんだ」


ななと芳野先生は絶句した。


「これ以上、ななに恋愛感情を持たれては、こちらとしても対処しなければならない」


「お父さん、何言ってんのよ」


「私は見たんだ。授業ではない日にも二人で仲睦まじく会っているところを。それに何だ?あの額に飾ってある嫌らしいイラストは!君が描いたんだろう!」


父が一気に喋り、段々激昂していくのが分かった。


芳野先生は言われるがまま、反論することもなく、席を立ち、一礼した。


握られた拳は少し震えていた。


「ちょ、先生」


「申し訳ありませんでした。ごちそうさまでした」


そう言うと、先生は荷物をまとめた。


ななは慌てて、引き止める。


「ねえ、いいの?こんなこと言われていいの?」


「なな」


今度は母がななの身体ごと制した。


「おかあ・・・、ちょっと離してよ。可笑しいでしょ、こんなの」


母は黙って、かぶりを振った。


そう、父は言い出したら聞かない。


塾へ行けないのも、ピアノ教室に送迎があるのも、いろんな意味での危険を想定してのことだった。


同級生の男子は、ななの家に電話を掛けてくることをとても怖がる。


父がとても厳しいからだ。


 ― だったら、最初から女性の教師にすればよかったじゃない!?


ななは、心の中で精一杯、父に対して問いかけた。


芳野先生が玄関に向かい、その後を父がついていった。


「先生!違うって言えばいいじゃない!先生!」


母に抑えられたままで、必死で庇おうと頑張ったが、声は届かない。


涙が出てきた。


 ― 悔しい…。


ななは、父への最後の抵抗のつもりで叫んだ。


「私たち、結婚するんだよねっ?」


芳野先生と父が揃って振り返った。


ギョッとするとはこういうことを言うのだろうか。


二人とも恐ろしいものでも見たような顔をして、ななを見ていた。


「大人になって、また、会えたらいいね」


芳野先生は少し怯えた顔を無理矢理笑顔に歪め、そう答えた。


リビングのドアがパタンと閉まると、ななの全身から力が抜け、膝から落ちた。


母が、後ろからそっと抱きしめる。


それを腕で振り払うと、ななはそのまま泣き崩れた。




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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
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