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* 第十二話 * ~茂樹の場合~ ⑩

僕は、目の前の郁美、背後の天野さんの狭間で、頭をフル回転させていました。


が、うまい言い訳がまったく思い浮かびません。


そもそも、誰に言い訳をすればいいのかすら混乱していて、よく分かりませんでした。


「あ、じゃあ、今日はお疲れ様でした、後藤さん。また明後日、職場で…」


何かを察したように天野さんが口を開きました。


天野さんの様子を見ると、ごそごそとフォーマルバッグ内を探しています。


「あれー?鍵が…」


「うん、じゃあ、お疲れ様でした。おやすみなさい」


僕はそう言って、自分の部屋の前に進み、素早く部屋の鍵を開けました。


「さ、郁美、入って」


怪訝な顔の郁美が、天野さんの様子を伺っています。


「あ、あった、あった」


天野さんは鍵を取り出すと、僕の部屋より二つ手前の部屋のドアを開けようとノブに手を置き、郁美に笑顔で会釈しました。


「おやすみなさーい」


 ― そうか、ここは社宅だった!


他人の部屋の前で自分の部屋のフリをしてくれている天野さんの心遣いにやっと気付いた僕は、郁美の背を押し、自分の部屋に入れると、ドアを閉めました。


「どうしたの?急に。住所だけでよくここまで来られたね」


「うん…、タクシー拾ったから」


「いつから待ってたの?寒かっただろう?」


僕は急いで、暖房をつけ、炬燵のスイッチを入れました。


「あの、今の人は…」


「うん、同じ職場の人。葬式終わって一緒に帰ってきたんだ」


「ふーん」


黒いネクタイを外しながら、僕は天野さんが気になって仕方がありませんでした。


 ― ひとりでちゃんと帰れただろうか…。


「そんなことより…」


僕は、後ろからギュッと包むように、郁美を抱きしめました。


「こんなに遠いところまで…」


「ごめんね、急に来ちゃって。でも、どうしても会いたくて…」


僕は郁美を前に向かせました。


「ありがとな。でも、連絡ぐらいしなさい」


両肩をしっかりと掴み、目をじっと見つめると、年上ぶって落ち着いた声で諭しました。


郁美の睫毛が2、3回しばたいたかと思うと、ポロリと水滴が落ちました。


「あんな…喧嘩みたいになっちゃって…、私、不安で…」


「うん」


「でも…、私が来ちゃ…いけないところに来ちゃったのかなって…」


僕は、郁美の唇に優しく触れました。


「そんなことないよ。嬉しいよ」


ポロポロと涙をこぼす郁美を畳に座らせるとそのまま押し倒しました。


恥ずかしいのか視線をそらす郁美の瞼にキスします。


だんだんと下に降り、首筋を僕の唇が這った時、郁美が言いました。


「やっとだね」


僕は、静かに笑って、郁美のフワフワの髪を撫でました。


ようやく実物の郁美を抱いているのに、僕の頭は他の事を考えていました。


下半身は、夢にまで見た郁美の中で熱く滾っているというのに、脳では冷静に天野さんのことを思っています。


 ― あんな芝居させてしまって…、彼女は傷ついただろうか。


激しく腰を振り続けます。


汗が郁美の鎖骨に滴り落ちました。


息が上がった僕は、郁美の中から抜け出すと、隣にゴロンと横になりました。


「後藤君…?」


「ごめん、疲れてるのかな」


僕と郁美の初めてのセックスは、イクことが出来ずに終わったのでした。




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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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