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* 第十二話 * ~茂樹の場合~ ⑨

隣の席の彼女は、天野友紀さんといいます。


天野さんは、いつも僕に優しく、いろいろ世話をしてくれていて、大変助かる存在でした。


普段はあまり気に掛けていなかったけれど、改めて思うと、天野さんは僕に気があるんだなと確信しました。


一応、支社長以外に若い男性は自分しかいないので、それも僕は本社からの出向なので、狙われている感は強く感じていましたが、隣の席は盲点でした。


ちょうど精神的に落ちている僕に、彼女の気遣いは浅すぎず深すぎず、とても有難いものでした。


土曜の通夜、日曜の告別式が滞りなく済み、帰り支度をしていた僕は、少し離れたところに天野さんの姿を認めました。


「天野さん!」


僕は、帰ろうとしていた彼女を呼び止めて、飲みに誘いました。


「ええ、いいですよ。でも、ここから飲み屋街まで行くにはちょっと遠いですね」


「あ、じゃ、僕んちで飲みませんか?軽くつまみでも買って」


最初の誘いにしては強引、且つあからさま過ぎたかと一瞬しまったと思いましたが、天野さんはにこやかに賛同してくれました。


ちょっとした買い物を済ませ、二人で僕の自宅まで歩きました。


道の両脇に積もった雪が夜道に反射して幻想的でした。


まるで同棲しているみたいで、道往く僕はなんだか楽しくて、思わず買い物袋をぶんぶん振り回してしまいました。


天野さんがくすくすと笑います。


「子どもみたいですね、後藤さんったら」


「えー?なんかうちに誰か来てくれるのかと思ったら嬉しくなっちゃって」


「どうして?」


「これでも寂しいんですよ。東京から誰も知らない土地に来て…」


天野さんがすっと僕の手をとりました。


その手を揺ら揺らさせて、僕たちは歩きます。


「じゃあ、今日だけと言わずにしょっちゅう遊びに行っちゃおうかな、私」


天野さんは、いたずらっ子のような目で僕を見上げました。


ふふふと僕は笑いました。


「ほら、あそこの街灯のとこが、うちです」


あと80メートルほどのところで、指を指しました。


その先に、ちらりと黒い影が見えた気がしました。


 ― なんだ?


僕は目を凝らしました。


 ― 気のせいか…。


「はい、到着でーす」


「二階?」


カンカンと階段を上がっていきます。


外廊下に差し掛かり、顔を上げた瞬間、僕は氷のように固まりました。


僕の家の玄関の前に誰かが寄りかかって、手に白い息を吹きかけていたからです。


「なんで…?」


思わず呟いた声が届いたのか、顔がこちらを向きました。


「あ、おかえりなさい。待ったよー、凍えちゃいそう!」


もう、お分かりでしょう?


ご想像通り、郁美がそこにいたのです。


「どうかしたんですか?」


僕の後ろから、天野さんが顔を覗かせました。


そして、天野さんと郁美の視線がバッチリ合いました。


万事休すです。



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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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