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* 第十二話 * ~茂樹の場合~ ⑧

数回に渡って、郁美から着信がありましたが、僕は出ませんでした。


朝起きて留守電を聞くと、郁美が泣きながら電話に出ない僕を責めていました。


話くらい聞くべきだったかなと少し反省の気持ちもありましたが、昨夜の男の声を思い出すだけでやっぱり腸が煮え繰り返る思いでした。


むしゃくしゃしながら乱暴に席に着くと隣の女性社員が挨拶をしてきました。


「後藤さん、今日支社長お休みだそうですよ」


「なんでです?今日、支社長と回る先あるのに」


「息子さんが交通事故で亡くなられたそうなんです」


僕は飛び上がらんばかりに驚きました。


「ええっ?本当に?」


向かいのおばちゃん社員も話に交ざってきます。


「土曜にお通夜で、日曜に告別式だってさぁ。あたしらも手伝いに行かなきゃだわよ」


「土日…」


僕は愕然としました。


確か高校生だと聞いていた支社長の息子さんの死も衝撃でした。


しかし、不謹慎ですが、そんなことよりも、この三連休が葬儀で潰れる事に愕然としたのです。


おばちゃん社員が言うように手伝いに行かなければならないということは、通夜に焼香に伺うだけではダメということでしょう。


台所仕事は無理なので、受付か会計をさせられるのだろうと予想がつきます。


亡くなった方には申し訳ありませんが、正直言って、勘弁してくれと思いました。


僕は廊下に出ると、休憩を見計らって、郁美に電話を掛けました。


「もしもし、後藤君?あの、昨日は…」


昨夜の事を謝ろうとする郁美を遮り、用件を伝えました。


「すまない、連休帰れなくなった」


沈黙が流れました。


「支社長のご家族が亡くなって、お通夜とかの手伝いに行かなきゃならない」


「嘘っ」


郁美は強い口調で言いました。


「怒ってるんでしょ。だから私に会いたくなくなったんだ。帰ってくるのが面倒になったんでしょう」


「違うよ、本当に葬式なんだ」


みるみる涙声になる郁美に僕はイラッとしました。


「昨日は悪かったわよ。でも私だって可愛がってもらってる先輩のすることに文句言いづらいし」


「そういうことじゃないだろ」


「だって…」


「会いたいのは変わらないよ。でも冠婚葬祭は仕方ないだろう。わかってよ」


僕は怒鳴りたいのを我慢して、懇願しました。


「もういいっ!嘘つき!」


通話は切れました。


僕は深い深いため息を吐いて、壁に寄り掛かりました。


しばらくボーッとしているとオフィスから声が掛かりました。


「後藤さん、コーヒーいれたんでどうぞ~」


隣の席の彼女でした。


「ああ、すぐ行きます」


僕はやっと返事をして、席に戻りました。


「うまい」


今日はじめてホッと一息つけた感じがしました。


隣に向かって、礼を言うと、気のせいか彼女の頬が赤く染まったようにみえました。



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プロフィール

香月 瞬

Author:香月 瞬
短編小説を主に、様々な恋路を綴ってまいります。
友達のコイバナを聞くようなつもりで読んでいただけると嬉しいです。

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